非常に適当な本と映画のページ

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2021.09.02
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カテゴリ: 洋画

 1980年に公開されたホラー映画。
 スティーブン・キング原作の同名小説をスタンリー・キューブリックが映画化。
 ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイドが出演する。
 原作者からは酷評されてしまい、公開時は必ずしも高い評価を得てはいなかったが、徐々に世間での評価は高まり、現在ではホラー映画の傑作と見なされている。
 ただ、原作者の評価は相変わらず低い。
 原題は「The Shining」。


粗筋

 コロラド州のロッキー山上にあるリゾートホテルのオーバールック・ホテル。
 営業は春から秋までで、冬季は閉鎖される。最寄りの都市まで道が1本しかなく、40キロにも及ぶその道を冬季も通行可能な様、定期的に除雪するとなると採算が取れなくなってしまうからだ。
 完全に無人にする訳にはいかなかったので、管理人を雇い、住まわせていた。豪雪で一本道が通行不能になる為、管理人は場合によっては数カ月間孤立状態での生活を強いられる事となる。
 元教師のジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、管理人の仕事の面接を受ける。
 ホテル支配人は、「管理人の仕事は難しいものではないが、人によっては孤立状態が精神的苦痛になる事もあるので、大丈夫か」と問いただす。過去に、管理人として採用したグレイディという男が、孤独により精神に異常をきたし、家族を斧で惨殺し、自殺する、といういわく付きの物件でもあったからだ。
 が、ジャックは自分は小説家志望であり、執筆には寧ろ孤立状態が望ましいので、ぜひとも採用してほしい、と告げる。
 よって、ジャックは管理人として採用された。
 ホテル閉鎖の日、ジャックは妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)、一人息子のダニー(ダニー・ロイド)を引き連れてオーバールック・ホテルを訪れる。
 ダニーは、特殊能力「シャイニング」の持ち主で、ホテルの異様な雰囲気を察した。
 ホテルの料理長ハロランはダニーとウェンディを伴って、ホテルの中を案内する。ダニーと同じく「シャイニング」の能力を持つハロランは、ダニーに対し、「このホテルには何かが存在するから気を付けろ」と警告する。
 そして、オーバールック・ホテルで、3人だけの生活が始まる。
 閉鎖されたホテルなら、誰にも邪魔される事無く執筆に注力出来ると意気込んでいたジャックだが、いざその生活が始まると早くもスランプに陥り、作業は一向に進まない。
 暇を持て余したウェンディは、夫の機嫌を頻繁に窺う。
 そんな妻を、ジャックは疎ましく感じる様になった。
 閉鎖から間も無く、一帯は近年稀に見る猛吹雪となり、3人は孤立状態になった。
 電話も通じなくなり、外部との接触は無線のみとなった。
 元々アルコール依存症だったジャックは、酒の無い生活は苦痛だった。執筆も思うようにいかず、妻や息子も疎ましく感じ、酒が欲しくなった。ホテルのバンケットホールに足を踏み入れると、無人の筈のバーカウンターに、当たり前の様にバーテンダーがいた。ジャックは、そのバーテンダーと旧知の間柄の如く会話すると、勧められるまま酒を飲む。
 別の日にジャックがバンケットホールを訪れると、舞踏会が開かれていた。ジャックは、そこの給仕と会話する。
 給仕はグレイディという名前の男だった。
 ジャックは、グレイディに対し言う。お前はここの管理人を務めていて、家族を殺した後に自殺しただろう、と。
 グレイディは、記憶に無い、とはぐらかす一方で、ジャックに言う。お前の息子はシャイニングという特殊能力で料理長を無断でこちらに呼び寄せようとしているから、躾が必要だ、と。ジャックは、今の生活を脅かされる真似はさせない、とダニーを躾ける事を約束する。
 ウェンディは、夫の様子がおかしいと感じ始めていた。そんな彼女は、ジャックが数週間タイプライターで打っていた原稿を手に取る。同じ文言が繰り返し、数十枚にも亘って打たれているだけだった。
 夫の精神異常を確信したウェンディは、ジャックを食料倉庫に閉じ込め、息子を連れてホテルから脱出しようとする。ホテルには緊急用に雪上車が用意され、それを使えば町まで出られる、と考えたのだ。
 が、ジャックは事前に雪上車や無線機を破壊していた。
 脱出も、救助を求めるのも不可。
 ウェンディは、夫を倉庫に閉じ込めた状態で、吹雪が過ぎ去るのを待つしかなかった。
 倉庫に閉じ込められたジャックの元に、グレイディが訪れる。躾に失敗したな、駄目な奴だ、とグレイディは蔑む。ジャックは、もう一度機会をくれたら、きちんと躾ける、と約束する。グレイディは、倉庫の扉を開けた。
 ウェンディとダニーがいる寝室に、ジャックがやって来る。
 ドアには鍵が掛かっていたが、ジャックは斧でドアを破壊し始めた。
 夫がどうやって倉庫から出たのか見当も付かないウェンディは、パニックに陥りながらも、息子を窓から逃す。
 ダニーは外に出ると、ホテルの庭にある巨大迷路に身を隠した。
 ジャックがドアを開ける寸前に、外から自動車のエンジン音が響いた。
「シャイニング」により助けを求めるダニーの声を聞いたハロランが、雪上車で駆け付けて来たのだった。
 ジャックはホテルのロビーに向かい、斧でハロランを惨殺する。
 その間に、ウェンディは寝室から逃れ、ダニーを探し回る。ホテルの至る箇所で、過去の亡霊を目の当たりにし、ホテル自体が異常である事を思い知った。
 ダニーが迷路に逃げ込んだと知ったジャックは、迷路へ向かい、雪に残ったダニーの足跡を頼りに追う。
 ダニーは、足跡を偽装すると、迷路から脱出する。
 その時点で、ウェンディとダニーは再会する。二人は、ハロランが乗って来た雪上車で、ホテルから逃れる。
 迷路から出られなくなったジャックは、彷徨い続けた結果、凍死する。
 生きている者がいなくなった筈のホテルのバンケットホールから、音楽が鳴り響く。
 壁に飾れた五十年前の舞踏会の様子を写す写真に、ジャックと瓜二つの男が中央で笑顔を見せていた。



感想

 アメリカのモダンホラー作家スティーブン・キングの初期の作品を下敷きにしている。
 原作では、ダニーやハロランの持つ特殊能力「シャイニング」が重大な役割を果たし(だからこそタイトルになっている)、「敵」は邪悪な意思を持ったホテル、という、アメリカ人好みの設定になっている。
 が、アメリカ出身ながらも人生の大半をイギリスで過ごしていたキューブリックにとっては、そうした要素を取り入れて実写化すると「お子様向けホラー」になってしまうと理解していたらしい。
「孤立状態のホテルで、男が精神に異常をきたして家族を殺そうとする」という設定だけ取り入れ、超能力の部分は軽く触れる程度に留められ、タイトルの意味を無視した、完全オリジナルの作品に仕上げている。
 ホラー映画を制作してみないかと持ち掛けられたキューブリックは、ホラー小説を何冊か手渡された。殆どはほんの数ページ読み進んだだけで壁に叩き付けていたが、「シャイニング」だけは異様に興味を持ち、最後まで読み、映画化を決めたという。そこまで興味を持ったのなら、原作に忠実なものにすると思いきや、殆どの要素を切り捨てているので、結局原作のどの部分に興味を持って映画化する事にしたんだろう、と疑ってしまう。

 原作では、ホテルこそが「悪」で、ジャックもその被害者、という風に描かれているが、本作ではジャックこそが「悪」で、彼が目にしたと思われる数々の出来事が幻想なのか、怪奇現象なのかは明確にされていない。
 観方によっては、ホラーというより、サイコスリラーに属する作品になっている。
 ラスト辺りで、ウェンディも亡霊を目の当たりにしているので、怪奇現象っぽくもあるが、彼女も精神が不安定な状態に追い詰められているので、幻想とも受け取れるようになっている。

 ジャックは、原作では至って普通の男性で、ホテルの「邪悪な意思」によって徐々に精神に異常をきたす、となっている。
 本作では、ジャックは元々アルコール依存症があり、妻や子供に暴力を振るった過去も明らかにされる。元々精神が不安定で、ホテルでの孤立状態が始まってから早々と異常をきたしている。孤立状態に置かれたのが事の発端で、ホテルそのものが「邪悪な意思」を持っている様には描かれていない(原作者が映画に不満に持った理由の一つ)。
 原作に忠実なキャラにした場合、妻や子供を殺そうとするまでの豹変が説明し難くなるので、設定変更は止むを得なかったし、映画単体で観ると無理が無い。

 ジャックの妻ウェンディも、原作とは異なる人物設定になっている。
 原作では、アメリカ人らしく、独り立ちした女性で、夫との立場も対等と描かれている。
 一方、本作では夫に頼り切りで、その為夫の暴力やアルコール依存症にも意見出来ず、弱い女性として描かれている。
 原作は、原作者自身の家族を下敷きにしていた事もあり、「自分が描いたウェンディはあんなひ弱で自己意思が無く、ヒステリックな女じゃない」と最大の不満を述べている。
 ただ、原作通り毅然とした態度の女性だったら、ジャックの凶行も早々と食い止められてしまい、話にならなかっただろう(それ以前に、とっと息子を連れて家を出ていただろう)。
 シェリー・デュヴァルによるヒステリックな演技は、ジャック・ニコルソンの狂気の演技より怖い、と揶揄されたが、ストーリーの流れからすると寧ろ自然というか、違和感が無い。
 ウェンディがジャックをバットで殴って気絶させるまでのシーンは、キューブリックが100回以上撮り直ししたという。シェリー・デュヴァルを実際に精神的に追い込み、ヒステリックな演技にリアリティを持たせる為だったという。となると、ヒステリックな演技は最早演技でなく、本当にヒステリックになっていた状況を撮影していた事になる。現在では有り得ない撮影手法。無論、時間も予算も掛かる(期限も予算もきっちりと守って映画作りする事を理想とするクリント・イーストウッドはこうした「演出」には批判的で、だからこそ自分で映画を制作するようになったという)。
 シェリー・デュヴァルは撮影のストレスで髪が抜けていき、それを集めて嫌味としてキューブリックにプレゼントしたという(怪演が売りのジャック・ニコルソンも、後にキューブリックについて「変わった男だった」と回想しているくらいだから、キューブリックは相当異常性を持った映画監督だったといえる)。
 本作の撮影中に、シェリー・デュヴァルはポパイの実写版で主人公の恋人オリーブ・オイルの役をオファーされ、撮影に参加。公開は、シャイニングと同じく1980年だった為、ホラー映画でヒステリックな演技をしていた女優を、すぐさまコミック実写版でコミカルな演技を披露するのを観れるという、奇妙な現象に。本作での演技がオーバーで漫画っぽい、と酷評されたのも、これが起因している。
 原作者は、本作のウェンディを「ひ弱で、自己意思が無く、ヒステリックに泣き叫んでいるだけの女」と酷評したが、本作の設定からするとヒステリックになるのは止むを得なかったとして、酷評に値する程「自己意思が無くてひ弱」とも思えない。
 本作で、ウェンディはジャックをバットで殴って気絶させ、倉庫に閉じ込める部分は結構行動的に映るし、最終的にジャックを置いてきぼりにして息子と共にホテルからさっさと脱出するので、自己意思が無い訳でもない。
 現在の基準では行動的でないと映ってしまうのかも知れないが、当時としてはそれなりに行動的だった様に映る。

 キューブリックは俳優を精神的に追い詰めて、極限状態の演技を引き出すというか、極限状態になった俳優の姿を撮影して作品作りに活かす、という乱暴な手法を取る事が多い(この後制作したベトナム戦争映画の「フルメタルジャケット」でも、元海兵隊教練官を起用し、実際の海兵隊訓練と同様に俳優らに罵声を浴びせるよう仕向け、俳優らを精神的に追い詰めていったという)。
 その一方で、本作で主人公の息子を演じた子役のダニー・ロイドは、ホラー映画ではなく、ファミリー映画の撮影だと終始思っていたという。
 子をホラー映画の撮影なんかに参加させたら精神的苦痛を受けてしまう、と否定的に捉える親が多かった為、子役が決まらず、キューブリックがホラー映画である事を子役には気付かれぬよう撮影する、と約束して漸くダニー・ロイドの起用にこぎ着けたからだとか。
 ジャック・ニコルソンに「変わった男」と言わしめ、シェリー・デュヴァルを脱毛させる程追い込む一方で、子役には徹底的に配慮していたところを見ると、キューブリックは硬軟の付け方が極端だったと思われる。
 よくよく観返してみると一家が同時に登場しているシーンが少ないのも、撮影現場に子役がいないで済む様にしたかったからか。
 ダニー・ロイドも、他の多くの子役と同様、成長するにつれ映画界は自分には合わないと実感し、早々と引退。芸能界とは全く異なる職に就き、成功を収めたという。廃人にならなかったのが、せめての救い。

 ラストで、カメラがホテルの壁に飾られた写真に徐々にクローズアップすると、そこに先程凍死したジャックらしき写っており、その下の日付により50年も前に撮影されたものだった、というのが明らかにされる。
 一連の出来事が幻想なのか怪奇現象だったのか全く説明されないというのに、ジャックと瓜二つの男が50年前にもこのホテルにいた、という説明だけはやけにくどい。
 何故この場面だけくどいと思ってしまう程説明的なのか。
 といっても、50年前の男と、ジャックとの関係は説明されてはいないが。

 原作では、ホテルがボイラーの大爆発で全壊するという、まさにアメリカらしい結末になっているが、本作ではそうした場面は無く、ホテルはそのまま残る。
 悪役のジャックが迷路を彷徨った上に凍死するという、派手さに欠ける地味な結末も、「観る人によって幻想とも怪奇現象とも受け取れる作品」にしたかった以上、相応しい終わり方といえる。
 原作通りにしていたら、まさにお子様向けになってしまっていただろう。

 冒頭で、上空からジャックが運転する車に近付いて追っていく、という長回しのシーンがあるが、現在みたいにドローン撮影の技術が無い時代、どうやって撮影したんだろう、と不思議に思った。
 キューブリックは実験的な手法を積極的に採用し、撮影技術の発展には大きく貢献していたらしい。

 キューブリックは、「2001年宇宙の旅」や「時計仕掛けのオレンジ」で批評的にも興行的にも成功していたが、それ以降は芸術性に偏り過ぎた為か批評的・興行的失敗作が続き、「過去の人」に成りつつあった。
 その状況を打破しようと挑んだのが初というか唯一のホラー作品である本作だった。
 批評はイマイチな部分もあったが、興行的には成功し、キューブリックは復活する。 
 原作小説より評価が高いという、稀な存在になった。


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Last updated  2021.10.21 13:24:12
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