Dec 9, 2006
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カテゴリ: 生きるということ
※注意。土曜の欄に書いてありますが、金曜の出来事です。ホントいい加減にしろよってなことをするのがスナイダーズと言う人間です(キッパリ)



「よう」

A君は私を見るとそう言った。

「久しぶり。元気そうだね」

私は隣の席に腰掛けカウンターの中にいるおにーさんに叫んだ。

「ギネス1つ!それからパスタ!」

「食うのかよ!?」

「当たり前でしょ?何も食べてないんだから」

「相変わらず色気の無い女だな」




昔のバイト先で出会った人で、今では怪しげなヘンな雑貨屋の店員をしている。

当時。

昼間は私と同じバイト先でバイトをし、夜はラブホで働いていた。バンドもしていて、時々その練習もしていた。ドラムが担当で、持ち歩いているバチをクルクル器用に回すのが癖だった。

すっげービンボーで、何度も水道やら電気やらを止められていた。

そんななのに車は持っていて、そして良く掴まっていた。良く免停にならなかったもんだと思う。

私がバイトを辞め、そしてA君も辞め…。それ以来もう何年も会っていなかった。

あんなに強烈な人だったけど、日々の忙しさに追われ自然と彼のことは忘れていっていた。


ある夜…。

突如知らない番号から電話が掛かって来、面倒だったので出なかったら留守電にメッセージが残されていた。

A君からだった。


それでも私は掛けなかった。もう…。関わらない方が良いと思ったからだ。あんな、尋常じゃない人と関わっても私にとって良いことはないと思ったからだ。



友人宅に行っていたとき、当時同じバイト仲間だった女の子から突如電話があり、出てみれば…。

「A君がいなくなったのよー!」

そう言えば…。昨日から無断欠勤をしていると店長がプリプリ怒っていたのを聞いていた。

「ヤツのことだから、どっかの公園で寝てんじゃないの?」

私は特に心配してなかったけど、その子はまくし立てる。



「ない」

「ちょっと、心配じゃないの!?」

いつも突拍子もないことばかり、しでかしていたA君のことなので私はちっとも心配してなかったけど彼女を安心させるために、

「分かった。今からヤツの部屋に行ってくるから」

そう言うと電話を切り、心配げに見ていた友人に謝りながら私はタクシーに乗った。

「相変わらず無用心だな…」

A君はドアの鍵を閉めない。まさかと思ったが、その時も開いていた。

「生きてるー!?」

勝手に中に入る。しかし誰もいなかった。

まさか…。ちょっとドキドキしながら洗面所のドアを開けたが…誰もいなかった。少しホッとしながら私は部屋を出、さっきかけて来た女の子に電話する。

「いない」

「え~!どこに行っちゃったんだろう~」

「大丈夫。ヤツはちょっとやそっとじゃ死なないから。ゴキブリみたいな男なんだから。見つけたらまた電話するから」

「え、ちょっと…」

再び一方的に電話を切ると私はマンションを出て、真夜中の道を駆け抜けた。



「いた…」

彼は…A君は…。マンションの近くの大きな公園のベンチに寝ていた。

一晩中…。

繁華街を駆け抜け、ヤツの働くラブホに行き良く練習に行くライブハウスにも行き、ゲーセンに行き、ダーツバーやビリヤード場、はたまたボーリング場にも行った。合間にはヤツと繋がりのある人、皆に電話をした。

そして。マンションからごく近くにある公園のベンチにいた。

「だから言ったのに…」

私は思いっきり、無防備なA君の腹にパンチをしてやった。

「ぐぉ」

おもちゃのようにA君は飛び上がると私を見た。

「…何、やってんの?」

私の低い声にA君はむせながら答えた。

「オマエこそ何、やってんの?」

「…もう一発、いっとくか?」

気づけば朝になっていた…。



「そんなこともあったなあ」

その話をするとA君はニタニタ笑った。

「今でも…そんなことやってんの?」

パスタをズルズル食べながら私は聞いた。

「公園のベンチに寝ること?」

「誰にも何も言わず失踪することよ!」

「ああ、別に。そんなこたぁねぇよ…」

やってんだな…。私は心の中でため息をつく。

「俺がいてもいなくても…。気にするヤツなんていねぇよ」

「いたのよ、あの時は。フツーの人は皆、何日も姿を見なかったり連絡取れなくなったりすると心配するのよ」

「何だよ…。折角電話したのにその時は出なくて、こうして何ヶ月も経ってから連絡してきたヤツは、どこのどいつだ?」

「私だよ」

「相変わらず可愛くないな。少し食わせろ」

ギャーギャ、パスタの取り合いが続いた後、ボソリA君は言った。

「何で連絡してきたんだ?もう俺とは関わりたくなかったんじゃないのか?」

確かにその通りだった。

実は…。

「スナイダーズさ~ん!」

振り向くと昔のバイト先の店長がいた。

「あ、久しぶりですね~」

私が挨拶する間も無く

「ねえ、A君から電話あった?」

「ええ?」

「俺が教えたんだ。A君、また携帯なくしたらしくて…。たまたま俺がいた時に遊びにきてさ、スナイダーズの連絡先知ってたら教えてって言うから」

「そうだったんですか…」

「A君…。駐禁で掴まってでもお金なくて…。しばらく刑務所に入ってたらしいよ。全く…何やってんだか…」

な、なぬー!?

「俺が仕事上がったあと一緒に呑んでさ、延々と愚痴聞かされて参ったよー」

もう。本当に電話なんかしてやるか!と思ったもんだ。

でも…。



「よう、スナイダーズちゃん。久しぶりだね。元気にしてた?」

この店の店主がカウンターから顔を出した。

「あ、店長。ご無沙汰してます」

「懐かしいなあ。昔はAと良く来てくれてたのに最近はサッパリだったからな。こうしてまた2人が並んでいるのを見ると昔に戻ったみたいだよ。ま、ユックリしていってくれや」

熊のようなその店主はニカッと笑うとまたカウンターの奥に引っ込んだ。

そう…。この店はA君に連れられて初めて来た店だった。



「あ、スナイダーズじゃん」

「え?マジで?何か…。随分印象変わったなオイ」

店を出、通りを歩いていると雑居ビルの傍でA君の知り合いにあった。このビルはA君がバンドの練習をしていたスタジオやらがあり、近くにはライブハウスもある。

この。ちょっとコワイこの場所も…。

A君と一緒に来ていたから、今では随分と懐かしい場所になっていた。A君と来なかったらきっと一生来なかった場所だ。

「何か久しぶりだな、A君とスナイダーズ。お前ら何やってんのー?」

「社会人だよ。オマエらもシッカリ働けコノヤロー!」

A君はその場にいた人たちと楽しそうにじゃれていた。



「あ、この前のオカマさんだー。こんばんわー」

私は客の呼び込みをしていたオカマさんに近づいた。オカマさんは私に気づくと…「誰?」みたいな不審げな顔で私を見た。

「この前、この先の映画館に1人で来ていた人間ですよ。ほら、写真パシャパシャ撮ってた…」

「ああ!アンタ!?どしたの、今日はまるでOLさんね」

「…普段はOLですよ。今日は仕事帰りなので」

「そう。でもこの前のような格好の方が何かしっくり来てたわよ~。そんなピチピチOLみたいなのがこの辺り歩いていると浮いてるわよ…?」


そう。この街はある意味別の世界だ。

荒んで、何が起きても可笑しくない、そんな場所。ふと目を泳がせば、オッサンなのか若者なのかの嘔吐物があるし、ピンクチラシは異常なくらい貼られている…。

慌てて目を逸らせば、道端には若者が何人もたむろってタバコをふかし、楽しそうに話しこんでいる。

そんな、場所。

「何だよ、スナイダーズ。このお嬢さんとオマエなんかが知り合いなのか?」

A君が驚いた顔で言う。

「ま、お嬢さんだなんて、そちらさんはアンタの彼氏?」

「断じて違います」


年の暮れの週末。花の金曜日。ボーナスもボチボチ出始める今日この頃。

この街は普段よりも異常な盛り上がりを見せていた。すれ違う人皆が皆、千鳥足だった。


「何となくね、確かめたくなったのね」

この街を離れ、大通りに出ると私は言った。

「さっきのオカマさんも言ってたけど…。今の私の格好って久々見ると面白いでしょ?」

「別に面白くなんてないよ」

「黒くてごついショルダーバック。ピンヒール。オッサンみたいなスタンダードなコート、パリッとした白のカッターシャツに黒のタイトスカート…。ぴっちり前髪を流して、きっちり縛っている。あっはっはー」

私はA君の背中をバシバシ叩いた。

「武装もいいところだよ、ホント。何気取っちゃってんのかねー。ねえ、何やってんの私?」

「OLだろ?」

「全う人間に見えるこの姿とその肩書きが、本当に全うな人間なのかね、A君?」

「何が言いたいんだ?」

「シロだと思うものが本当はドロドロタールより真っ黒で、クロだと思うものが本当は天使の羽のように真っ白だっつうことよ」

「酔っ払ってんのか?ギネス1杯で…」

「私は…。あの頃、本当に楽しかったんだ。毎日が新鮮で…。ちっとも予想がつかなくて、でも楽しくて。未来はいつも真っ白で明るかった。そんな私が、今では気づけばタールまみれだよ。完全武装して、社会の一員です!って堂々とカツカツ歩いて、でも実際は、まるで心理ゲームをしているような、そんなドロドロのやり取りばかりの仕事して…。食うか食われるか?!そればっかりで…疲れちゃった」

気づけば…。

A君のマンションの近くの公園まで来ていた。あの、A君が寝ていた公園だ。

ベンチに私はへたり込む。

「そうだな。あの頃は…楽しかったなー」

A君は、途中の自販機で買ったペットボトルを私に渡して隣に座り、タバコに火をつけた。

「でも…。そんなモンなんじゃないの?大人になるってのは。歳を取るって言うのは」

確かにその通りだ。

でも私は…。


「私ね。もし結婚して子供が出来ても、ママサンぽくはなりたくないって最近思うのね」

またしても突然の私の発言に、A君は苦笑した。

「クリクリパーマかけて、あ、オバチャンみたいな大仏パーマぢゃないよ?色も入れて、マスカラもバッチリつけて、チークもピンクで…。爪もちゃんと手入れして、カラフルなマニュキュアして、子供とチュッパチャップス食べながら手を繋いで幼稚園に行くの。スキップなんかもしちゃって、勿論ウエスタンブーツ履いてんの。ロックなママなの」

「ドコがロックだよ!?ただの変人ママだよ…」

「子供から若作り!って言われてもそれでも良いの。そーゆー…あの頃の気持ちを失いたくないの。今みたいに会社の、社会の歯車の1つとして、気づけば自分がなくなっていた…。そんなこと繰り返したくないなって。ただの理想だけどね」

「そうだな、ただの妄想だな。末期のな」

私達は空を仰いだ。繁華街に近いこの公園の夜空は、うっすら白くて明るい。星なんて1つも見えなかった。


A君は。

とんでもないメチャクチャな男だけど、でも昔から自分をいつもちゃんと持っている人だった。

そんな不器用な人だから、随分貧乏くじを引いて生きている。

それでも彼の眼差しは、あの頃と同じだった。



私は。もう1度。確かめたかったんだ。

こんなに時間に追われていると…、何が本当で何が幻なのか分からなくなる。

あの頃の私が、本当は幻だったんじゃないかと…少し寂しくなっていたから。


でも。そうじゃなかった。

私はまた、私として明日もちゃんと生きていける。そんな気がした。







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Last updated  Dec 9, 2006 10:10:55 PM
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