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Innerview-インナービュー 内側から見た世界
本来無一物
慧能大師は言った。「君たち、心を落ち着けて摩訶般若波羅蜜の教えを思え」
そうして黙して自ら心をしずめ、しばらくして言われた。―
「私は幼い頃には父はもう死んでいなかった。つらい貧乏で、町に出て薪を売った。
あるとき、薪を運んでいると、一人の客が「金剛経」を読んでいるのに居合わせた。私はそれを聴いただけで、気持ちが晴れてすぐに悟った。
そこで、客に聞いた。「どこでその経を手に入れられたのですか?」
「禅宗五祖の弘忍和尚さまからだ。」と客は答えた。
それを聞いて私はすぐ母のもとを辞して、黄海の馮墓山へでかけ、そこで五祖弘忍和尚におめにかかった。
和尚は私に聞かれた。「おまえはどこの生まれで、この山に私に会いに来たのだ。おまえは今、私のところで何を求めようとしている。」
私は言った。「私は嶺南の生まれで、新州の百姓でございます。このたび、はるばる参りましたのは、ただ仏になる教えをいただきたいだけです。」
先生はそこで私を叱られた。「おまえは嶺南の生まれ、つまり南方人だ。何で仏になれるものか。」
私は言った。「生まれには南北の差はありましょうが、仏の本質にはそんなものはございません。身は先生と違いますが、仏の本質に何の違いがありましょう?」
先生は私ともっと話したがるが、とりまきが近くにいるのに気付いて、先生はもう何も言わない。
そうして私は米ひき小屋に案内された。
臼を踏むこと八ヶ月。ある日、五祖は門人を集めてこう言われた。「私は常々おまえたちに人間の免れ得ぬ生死の大事を言い聞かせておる。おまえたちは来世の福ばかりを気にして、供え物ばかりをして、生死の苦海を抜け出ることを考えない。自分の本性を見失って、来世の福が何の救いになるのか。みんな、ひとつ自室にさがって、よく考えてみよ。知恵があるなら、それぞれ一首の詩をつくって私に差し出せ。その詩を調べて、仏法の意にかなっているなら、印可の袈裟をさずけよう。私のあとを受けて六代となるのだ。待ったはないぞ。」
門人たちは自室に戻ると、互いに言いあう。「私たちは、詩はつくらないでおこう。神秀上座は教授師だ。神秀上座が印可を受けてはじめて、私たちは彼にたよれるのだ。みんな詩をつくるのはやめておこう。」
神秀は考えた。「みんなが詩を差し出さんのは、おれが教授師だからだ。けれど詩を差し出さなければ、五祖がどうしておれの悟りの深さをおわかりになるだろう。おれは本心の詩を差し出そう。祖師の位はどうでもよい。しかし出さなければぜんぜん印可は得られん。」
考えれば考えるほど、恐ろしいこと恐ろしいこと。
「聖人の心ははかり難い。おれはもうこれ以上考えられん。」
真夜中になって、人に見られないように、南の壁に詩を書きつける。
我が身こそは悟りの樹
心は明鏡の台のようなもの
たえず努力して磨きあげ、
ほこりを残してはならぬ。
翌朝になると、壁の前に人だかりがしている。みな口々に賞賛の声をあげ、詩を口ずさんでいる。そこで私もそのありがたい詩を見に行くことにする。字が読めないので、他の者にたのんで読んでもらう。私は聞いてすぐに、この詩が見性してもいず、仏法をつきとめてもいないことがわかった。そこで、私もまた一首の詩をつくって、字の書ける男にたのんで西の壁に書いてもらい、自分の本心をあらわす。
私の詩はこうだ。
悟りに樹なんぞあるものか
明鏡もまた台は無い。
ブッダの本性はいつも空っぽ、
どこにほこりがつくものか
もうひとつの詩、
心こそは悟りの樹
身体は明鏡の台である。
明鏡はてんから空っぽだ。
どこがほこりに汚れるものか。
寺中の弟子たちが、私が詩を書いたと知って腹を立てた。私はさがって米ひき小屋に戻る。
五祖は私の詩を一目ごらんになって、すぐに底意を認めなされたが、みんなに気づかれるのを心配してこう言った。「こいつもまだつかんではいない。」
五祖は深夜を待って、私を自室にお呼びになり、「金剛経」を教えてくださった。私はそれを一言耳にしただけで、ただちに悟りを開く。その夜、私が教えを受けたことを誰も知らない。師は印可と袈裟を伝えておっしゃった。
「おんみが六祖である。今まで一代一代伝わった教えをついで、心で心を伝えて、自分に悟るがよい。」
五祖はさらに言われる。
「慧能よ、昔からこの法を伝えた人は、糸で吊り下げられたように生命が危うい。ここにとどまっていると、誰かがおまえを殺すにちがいない。即刻ここを立ち去らなければならない。」
私は真夜中に出発し、五祖は自ら九江の駅までお送りくださる。
「お別れだ。法を南にもって行け。三年までは法を広めてはならない。法難が起こるにちがいない。その後で世の中に広めて、迷える人々を巧く導くんだ。心が開きさえすれば、私はいつもおまえと一緒にいる。」
慧能以後、祖師を名乗るものはなくなる。あまりにも多くのものが、彼のもとで悟りを開き、自ら師となったからだ。彼の法系から無数の覚者が生まれ、禅は黄金時代を迎えることとなった。
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