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2005.01.08
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下りの電車があと1本残っていたから、これに乗ればなんとか寝床を見つけることができるだろう、そう思った。

一応これは家出である。結婚十数年目にして、はじめて家を出た。
原因は夫婦ゲンカ。そのまた原因は、パソコンの「コピー」と「貼り付け」の操作にある。
それを夫に教えている最中に、炎のごとく温度の高いケンカへと発展した。
さて、どうすれば「コピー」と「貼り付け」が炎のケンカに発展するのか。
その前に、かれこれ私はこの手順を100回近く夫に教えている。否100回というのはウソで、比喩だ。多分10回ぐらいだろうけど、その懇切丁寧な中身は100を教えたほどに等しい。
それを夫は、「ねぇ、『コピー』ってどうするの?」と、新鮮な顔をしてまた聞いてきた。
もちろんこれ自体は怒る場面ではない。「いい加減に覚えてよ」の当然の言葉を添えて私は教えた。

この後だった。

聞けば済むことをいちいち覚えない、という屁理屈を夫が言ってきたのだ。
では、コピーをする度に私に聞くわけ? そう反論した。
夫は、そうだと言った。
断っておけば、ここで「しめ縄のような堪忍袋の尾」が切れたのではない。
この夫の「そうだ」の一言から、互いの人格否定にまで話しが飛躍し、この罵り合いが私を怒らせたのだ。
その時は「コピー」云々の話はもう消え去っていた。
夫婦ゲンカというのは、時としてヤクザのケンカよりも急速に燃え上がったりする。

国語の教師である夫は私と出会ったとき、干支が言えなかった。いいとこ最初の3匹が言えたらいいほうだ。
私が「アホとちゃいますか~」とからかえば、夫は「大切なのは、調べる術を知るということだ。
どこにそれが書いてあるのかさえ分かれば、別に知る必要もない」という負け惜しみを言った。

そのくせ巷で使われる四字熟語は全て知っているし、ことわざや人名にも気味が悪いほど詳しい。
なのにたった十二支すら言えない不思議な頭をしている。
しかし「ねぇ、『コピー』ってどうするの?」から、どうすれば「人間としてダメだ」に事が発展し、
家出する勢いにまでに至るんだろう。真夜中に自転車を漕ぎながら、これは「わらしべ長者」以上の展開だと私は思えてならなかった。

駅に降り、私は「スーパーホテル○○」まで駆け出した。

のっけから予定が崩れ愕然とした私は、周囲を見渡した。果たして私はどんな風に写っているのだろうかと・・・。
もしかして家出少女と写っていやしないか、そんな不安に襲われた。
古いが、家出イコール人買い売られるというイメージが最悪の場合としてある。それはちょっとまずいので、私は次のホテルへ着くまで、「地方へ取材に訪れた都会のキャリアウーマンが終電に乗り遅れた」という設定で歩いてみた。
ここで大切なのが「困ったわねぇ~」という顔だった。
果たして誰が夜中の0時過ぎに、一人の女の表情を気にするだろうか。しかし自意識過剰の私は、
無意味に「困ったわねぇ」の表情を顔に貼り付けたまま次のホテルへ向かった。

ホテルに着くと、午前1時を回っていた。第二関門だと私は思った。
なんと言って泊めてもらえばいいんだろう、こんな時間に・・・。
家出人と間違われて通報されたらどうしよう、
そんな不安がまたもやよぎった。ダメだ・・・動揺してはダメだ。
このまま「地方へ取材に訪れた都会のキャリアウーマンが終電に乗り遅れた」の設定を崩せば、
この数分の苦労が水の泡だ。なので私は「また終電に乗り遅れちゃった超ハードなお姉ちゃん」っぽい顔をして
「お部屋あいてますぅ」といかにも慣れた口調で聞いてみた。
この言い方に一瞬場違いなアクセントを感じた気もしたが、そんなときは相手も同じことを感じているようだ。
フロント係りのお兄ちゃんと目が合った。
「しまった。ミスった!」この動揺は、深夜を過ぎ、疲れて早く部屋に入りたがって女を装うことで誤魔化した。
「ここに、ご記入願いますか?」フロント係のお兄ちゃんから受け付け用紙を渡され、私は書いた。
住所は実家、名前は本名、電話番号は・・・と考えながら書いたのがまずかった。
3回も番号を間違い、訂正の斜線をビュンビュン引っ張った。「怪しい、私は今、非常に怪しい」

なんとかルームカードをもらった私は部屋に入り、早速お風呂を沸かして浸かった。
なんで私は自宅にいないで、こんなところにいるんだろう。その理由が頭に浮かんだとき、口の片方だけで笑ってしまった。「そっか・・・『コピー』だったなぁ・・・」
できれば「価値観の違いから家を飛び出してしまった」みたいな、知性と品を伴う口論であれば、
ホテル代の7,500円も浮かばれただろうに・・・。何が悔しいかといえば、あとにも先にもこのホテル代だった。
ケンカの悔しさを忘れ、ホテル代を惜しみながら私は眠った。

(続きは、時間があれば書きます。φ(..#)。
次の日はとてもマジメに過ごし、一皮向けて私は帰宅するのでした。
しかし、家族は・・・ (/><)/ ひぃ~!)







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Last updated  2012.04.06 16:27:35


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