それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

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決心





これで、二人の危険人物の話は終わった。


坂本さんは、とても疲れた表情をしていた…。

私もきっと同じような顔をしていたに違いない…。


それぐらい重い話だった。

そして、私にとっては少しせつない話でもあった…。


坂本さんは、雰囲気を変えるためか

明るい声で話し始めた。


「オレンジ色の高沢さんについては、もういいわよね。

 とにかく、お茶コーナーを触らないってことだけだから。

 いい? ふきんは絶対に洗っちゃダメだからね~!」

「はーい。」

私も明るく返事をした。


「あとは、この人だけね…。」

坂本さんはそう言いながら、黄色の蛍光ペンで

マークした人の名前を指した。


「水村亮」と書いてある。


「この人に関しては、注意…というより、私からお願いがあるの。」

坂本さんは今までとは違った、穏やかな優しい表情で話し出した。


「お願い…ですか…?」


「そう。私からのお願い…。

 実はね、水村さんも病気で精神病院から退院してきたばかりなの。

 以前は、周りの人もなんとかやさしく接していたけれど

 今はもう、みんな彼には冷たくて…。

 だから、彼に優しくしてあげて欲しいの…。」


(優しくして欲しい??)


意外なお願いに、私はとまどってしまった…。


そんな私の表情を見て、坂本さんは慌てて言った。

「別に特別なことして…って言ってるわけじゃないの。

 彼はね、同じ話を何度も何度もしつこく話すのよ。

 それを、ただ我慢強く聞いてあげて欲しいだけなの…。」


「ああ。そういうことですか…。

 それなら大丈夫です。 わかりました。」

私は笑顔で答えた。


ホントに、そういうお願いなら大丈夫だと思った。

私は以前、老人ホームでボランティアをしていたことがある。

何度も同じ話を繰り返すお年寄りの人達もたくさんいた。

私はいつも、根気よく話につきあっていたからだ。


「以上で、ゆみの裏情報は…終・わ・り。」

坂本さんは、少しおどけた口調で言った。

私もつられて笑った。


「それにしても、今日はいいお天気ね…。」

坂本さんが、そう言いながら窓辺に立った。


「ほんと。気持ちいいですね…。」

私も彼女の隣に並んだ。


このお昼休みの間に聞いた、たくさんの情報…。

大きな不安もあるが、なんとか頑張ってみようと思った。


坂本さんから「精神的な病気の人が多い」という言葉が

出てこなければ、私は絶対に辞めようと思っただろう…。


でも、病気ならば仕方ないではないか…

と、私は思っていた。


高校生の頃、障害者のボランティアをしていた私は

人を差別することが大嫌いだ。


たとえ危険人物であっても、病気の人がいるからと辞めるのは、

その人を差別するようで、どうしても嫌だった。


ダメだったら、ギブアップすればいい。

それが派遣のメリットでもあるのだから…。


窓から見える桜の花びらが風に舞うのを見つめながら

私はそう決心していた…。





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