それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

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願い





私は残りの挨拶回りのため、再び廊下にでた。

もう彼の姿はなかった。

もっとも、たとえ彼の姿があったとしても

彼の方を見るつもりはなかったが…。


私は残りの2人のチームリーダーがいる

王子様の部屋に行った。


「磯野さん、どう? 頑張ってる?」

と、王子様が笑顔で声をかけてくれた。


「はい。 なんとか…。」

私は作り笑顔で答えたが、心では不安でいっぱいだった。


本当は、王子様に相談に乗って欲しかった。

でも、王子様は坂本さんの婚約者…。

そうするわけにはいかない。


「頑張ってね。」

私の心境など知らない王子様は、そう言って

またパソコンに向かった。


坂本さんから 「優しくしてあげて」 と頼まれた

水村亮は、やはりチームリーダーの席の側だった。


( 心配な人物は、リーダーの側の席に配置しているのかな… )

そう思いながら水村亮の後ろを通った時、

目に映ったのは、笑顔で足の爪を切っている姿だった…。


机の上にノートパソコンなどはあるが

仕事をしている形跡は全くない。


穏やかそうだが、やはり一目で精神的な病気かな…と

思わせる雰囲気があった。


2人のチームリーダーへの挨拶を終え、

私は重い気持ちをひきずりながら自分の席に戻った。


そこへ、ホクロおじさんがやってきた。

口うるさい広沢さんだ。


「どこに行ってたの? この書類早く処理してよ。」

昨日と同じことを彼は言った。


確かにトレーには急ぎの仕事がたまっていた。

「すみません。すぐに処理しますから…。」


「頼むよ。まったく…。」

…とぶつぶつ言いながら、ホクロおじさんは席に戻って行った。


「愛ちゃん、あんまり気にしなくていいからね。

 自分のペースで仕事していいよ。」

と声がした。

山中リーダーだ。


( そうだ! 山中さんに相談してみよう! )


そう思った私は、山中さんに相談したいことがあると伝え

会議室で、吉沢健人のことを話した。


「うーん。そっかぁ…。」

山中さんは、腕組みをしたまま黙ってしまった。


長い沈黙の時間が流れた。


「あの…。私はどうしたらいいでしょう…?」

私は、たまりかねて聞いてみた。


「そうだね…。 とりあえず…

 彼のチームリーダーには話しておくから

 少し様子を見てくれる?

 坂本さんの言うように勘違いってことも

 あるかもしれないし…。

 でも、何かあったらすぐ僕に知らせて欲しい。」

そう、山中さんは答えた。


「わかりました…。」


( やっぱり様子を見るしかないんだ…。 )

私は悲しかった。


そして坂本さんや山中さんが言ったとおり

間違いであることを願うしかないと思った。


だが、それが間違いではない…ということが

自宅に帰ってから、ハッキリとわかるのだった…。





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