それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

はじまり





「私の情報、消してもらえませんか?」

私はうつむいたまま、山中さんに言った。


山中さんは、腕組みをしながら考え込んでいた。


私は両手を固く握り締めたまま、答えを待った。


そして、山中さんは申し訳なさそうに答えた。

「住所は削除するよう、ホームページの作成者に言っておく。

 ただ、電話番号は載せたままにしてもらえないだろうか?

 さっきも言ったけれど、研究所には危険なものがたくさんある。

 せめて、電話番号だけでもホームページに載せておかないと

 もし磯野さんに何かあった時に、僕が出張などで

 いなかったら、どこへも連絡できずに困ってしまうだろう。

 だから、電話番号だけは載せたままにして欲しい。」


私は、自分の中で「電話番号だけならOK」という答えが出ていた。

だが、わざと返事をしなかった。


今までも電話番号だけは、公表されていた会社が多かった。

それは仕方ないと思っていた。


だが、私は住所や電話番号が載せられたことに

怒っているのではない。


私に無断で公表したことに怒っているのだ。


すぐに返事をするのが嫌だった。

まるで小さな子供だと自分で思いながらも

ささやかな反抗心から、すくに返事をしなかった。


「わかりました。」

しばらく黙った後、私はそう答えた。


山中さんの安堵感が伝わってくるような

小さなためいきが聞こえた。


「それから…」 と山中さんが話し始めた。

「吉沢くんの件は、さっそく彼のリーダーと話し合い

 彼に、直接注意をするよ。

 …といっても、彼はちょっと変わった性格でね…。

 もし、差し支えなければ、君に付き合っている人がいる

 ということにするのが、一番いいと思うんだけど

 磯野さんはどう思う?」


確かにその意見は正しいと思った…。

むやみに、断るのは怖い。

私は、5台目のノートパソコンが

窓から投げ捨てられることを想像した。


「わかりました。 そのようにお願いします。」

私は頭を下げた。


「まだ2日目だというのに、こんなことになって

 申し訳ない…。」


「いいえ…。」


これで、彼が私のことをあきらめてくれれば

それでいいと思った。

彼は病気なのだ。


いきなりバラの花束などを贈るなど

普通の人がしないようなことをしたのも

病気のせいなのだ。


私に彼がいるということにすれば

それもなくなるだろう。


私と山中さんは、会議室を出て

それぞれ自分の仕事に就いた。


だが、自分の考えが甘い…ということにも

バラの花束が、災難の始まりだということにも

その時の私は、まだ気付いていなかった。




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