それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

花束の次は…





(今日は最悪の日だったな…。)


社バス(研究所専用のバス)に揺られながら

夕暮れの街をぼんやりと眺める。


山中さんと、吉沢健人のリーダーは一週間の出張。

坂本さんも有休。

彼女は結婚式の打ち合わせだと言っていた。


(坂本さん…。 きっと楽しい一日だっただろうな…。

 それに比べて私は…。)


誰にも花束のことを相談できなかった辛さ。

そしてこの大きな不安な気持ちも

誰も知らない…。


とても心細かった。

とても悲しかった。

でも、助けてくれる人はいない…。


社バスが駅に着いた。

私は、家に帰るのが嫌だった。

また何か届いていたら…と思うと怖かったのだ。


(そうだ…。 帰る前に母に聞いてみよう…。)


何も届いていないわよ…という母の返事を

聞いて安心したかったのだ。


さっそく自宅に電話した。

「もしもし。」


「あ、愛? ねぇ、また同じ人から

 何か届いてるんだけど…。

 この人は誰なの?」


母は、私が何も聞かないうちに

早口でそう言った。


「うん…。 帰ったら話すね。」


ため息まじりの返事をして

電話を切った。


(やっぱり…届いていたんだ。)


電話しなきゃよかった…と思いながらも

母を心配させない言い訳も考えたかった。


私は駅の近くの喫茶店に入り

コーヒーを注文した。


(どうしよう…。 母に何て言おう…。)


コーヒーカップを手にしたまま

涙が出てきそうになる…。


(何でこんなことになったんだろう…。)


結局、結論が出ないまま時間だけが経ち

私は仕方なく帰宅した。


「愛、今日はこれなんだけど…。」

母が、さっそく荷物を持ってきた。


私は無言で受け取り、その場で箱を開けた。

中に入っていたのは、高そうなシャンパンだった。


そして、封筒が入っていた。


心配そうな母の視線に、気付かないふりをして

手紙を読んだ。



「愛さんへ


 これは僕の一番好きなシャンパンです。

 僕は今夜、11時頃に飲もうと思っています。

 だから愛さんも、11時頃に飲んでください。

 乾杯しましょう…。


                吉沢健人」



もう、母には隠しておけなかった。

全てのことを、母に話した…。


母は予想通り、ものすごく驚いた。

「そんな危ない人に好かれたなんて怖いじゃない。

 仕事、すぐに辞めたら?」


「でも、彼は私の住所も電話番号も知ってる。

 辞めたからといって、解決すると思う?」


「…。」

母は無言だった。


「明日、派遣会社に相談してみるから。

 あんまり心配しないで。」

と、明るい声を出した。


「…そうね。それがいいかもね。」

母も、少し安心したようだった。


「そのシャンパンはどうするの?」


「花は枯れちゃうから返せなかったけど

 これは返せるからとっておくつもり。

 じゃぁ、着替えてくるね。」


私は自分の部屋に向かった。


(何なの…。 あの手紙。

 自分の好きなシャンパンを

 11時に飲みましょうだなんて…。)


私の心は恐怖心でいっぱいだった。


私はその恐怖を消すように、わざと軽快な足取りで

階段を上がった。





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