2006.02.09
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カテゴリ: 米国株式の魅力
株式投資にあたって、会社に利益が出ているか、又は今後利益が出る見通しが持てるかというのは大事な問題です。会社に利益が出ていれば、それが配当として還元されるかもしれませんし、その資金で自社株買いが実施されて株価が上昇する事もあります。又はその利益を使って設備を増強したり、他の企業を買収してさらに将来の利益を増加させようとする事もできます。いずれの方法を用いても、株主が恩恵を受けられる可能性は高くなります。

しかし、実はその前にもっと重要な問題があります。それは、そもそもその利益が本物か、その利益が本当に株主に渡るシステムになっているか、という事です。

株式というのは、会社が返済期限も元本保証もなく発行する証券です。そんなリスクの高い証券に投資するのですから、投資家が適切な判断ができるよう、あらゆる情報が開示され、公正なルールが確立されていなければなりません。実際、資本主義の制度においてはその問題をできるだけ解決する努力がなされていますが、最近のライブドア事件でも明らかなように、問題を100%解決できるシステムはない、というのが現実なのです。会社は株式をできるだけ高く発行したい、投資家はできるだけ安く買いたい。しかし全ての情報を持っているのは会社で、投資家が得られる情報はごく一部です。これを情報の非対称性(Asymmetric Information)と呼び、株式投資において常に存在する問題です。

アメリカでも2001年11月に粉飾決算が発覚したエンロン事件をきっかけにコーポレート・ガバナンス(企業統治)が大問題となりました。情報の非対称性を和らげる役割を果たしているはずの監査法人と会社側が実はグルであった事が判明し、この監査法人が監査する会社の株式が軒並み売られるという事態となりました。実際、同じ監査法人が担当していたワールドコムは2002年6月に粉飾決算が発覚し、破綻に追いやられました。この他、利益は本物であったが、その利益の多くがストックオプションの形で経営幹部に還流する形になっている会社も次々と明らかになりました。

しかしアメリカは資本輸入国です。資本市場の信頼が揺らげばアメリカにとって大きな損失となる事は明白でした。そこで2002年3月、ブッシュ大統領は企業の不正を撲滅し、企業統治体制の強化に向けた方策を議会に命じました。そして2002年7月、1930年代の証券取引諸法制定以来の大改革となる、企業改革法(サーベンス・オクスレー法)が成立したのです。大統領令からたった4ヶ月という、超スピード成立でした。いかにアメリカが資本主義の制度を重視しているかという事がお分かりいただけると思います。

アメリカは移民の国であるため、資本主義も「基本的に人は悪い事をするもの」とする性悪説の下に成り立っています。それ故、例えば会計処理において企業側にできるだけ裁量を与えないよう、アメリカの一般会計原則(GAAP)は日本のGAAPに比べて厳格になっています。また経営陣が不正、暴走するのを防ぐため、アメリカの取締役会で社外取締役の占める割合は日本よりも圧倒的に多く、例えばS&P500指数採用企業の取締役会では、社外取締役の占める割合が平均72%となっています。

そもそも日本に比べて強かったアメリカのコーポレート・ガバナンスは、エンロン・ワールドコムのような事件をきっかけに、結果的にはさらに強化される事になりました。これが米国株に投資する投資家の安心感につながっている事は言うまでもありません。せっかく良い企業を見つけて投資していても、利益が嘘だった、経営陣が不正を働いていた、利益は投資家には殆ど配分されなかった等の事態が発覚すれば、何のために投資していたのか分かりません。

S&P500採用企業は2005年、前年比92%増となる過去最高水準の自社株買いを実施しました。自社株買いは恐らく、決算を粉飾している会社が最も実施する可能性の低いコーポレート・アクションでしょう。過去最高水準の自社株買い、何よりもこの事実が現在のアメリカのコーポーレート・ガバナンスを代弁しているのではないでしょうか。


堀古 英司






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最終更新日  2006.03.01 22:34:08


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