研究発表の原稿、感想といくつかの図面


     あきた産学連携推進フォーラム(秋田ビューホテル)

1. 転禍為福(図面あり)
 皆様、これをお読みになれますか。
 これは、てん書という、漢字の一番古い書体で書かれたもので、
 禍を転じて福と為す、と読みます。今日は、私が経験した2つの転禍為福、
 それも同じ研究でです、と、そのおかげで得られた、重要な成果について、産学両方の立場から(私は前は会社の研究所にいたので)お話します。

2. ESCAとは?
X線光電子分光とは、半導体プロセスの開発に役立つ表面分析法の名前です。英語の頭文字をとって<ESCA>と略します。X線を照射して出てくる電子のエネルギー分析をします。即ち、横軸:エネルギー、と縦軸:数、強度の関係を測定します。これにより表面の化合状態が分かるというのが売りなのです。
 今日の話は、記憶素子などに使うMOS型半導体素子の特性の安定性に関係します。MOSというのは、SiとSiO2の上に電極の金属Mがある構造のことです。この素子の特性を劣化させるのが、酸化膜中の化合状態が違う部分<欠陥>ですので、ESCAの登場というわけです。
例えば、これは、薄い酸化膜を有するSiの測定結果です。このようにSiが酸化するとエネルギーが違った位置に現れます。この差ΔEを<化学シフト>といって、<化合状態>の指標にします。
なお、この研究はもう20年以上も前に始めたので、古い図もあることをお許しください。

3. 化学シフトが化合状態だけによらない。
 ところが、研究の極初期に第一の禍に会ってしまいました。
ΔEが化合状態だけによらなかったのです。X線を薄い酸化膜を有するSiの試料に照射すると、このように、X線照射時間とともに、ピークの位置<ΔE>が変わってしまうのです。
 いろいろ検討した結果、トンネル電流が流れるような薄い絶縁膜でも、X線照射に起因した帯電があるということが分かりました。これは当たり前のことだったのですが、しかし、当時は、それを問題とする人はいなかったのです

4. ケンカの要点
このことを私はE大学のS研究所主催の講習会で話しました。ここでは、終了後、講習会の内容を本にします。私の内容についての討論も、半導体のプロである、編集者のA助教授から来ました。、素人の我々が帯電と解釈したのは間違いで、実際は化合状態の測定ができるというのです。手紙による討論が続いていると我々は思っている間に、我々が間違っているという編集者の結論とともに、出版された本が届いたのです。これが第二の禍でした。
少なからず興奮した私は直に抗議し、その後数ヶ月に渡る白熱したやりとりの結果、素人の我々が正しいことを認めていただいたのです。
 このような真剣で、本音の議論ができたおかげで、私は半導体や絶縁体の勉強をみっちりすることができたのです。変なことを書かれてしまいましたが、私は貴重な知識を身につけることができたのです。これが最初の転禍為福です。勉強したおかげで、この帯電が何によるかということを考えることができ、さらに、原因が、我々が検出したかった欠陥によるということに気づけたのです。
 これにより、禍だと思って、通常いやがられている帯電をなくそうとするのではなく、測定しようとするという、発想の転換が可能になり、さらに実験をして、新しい測り方の発見につながりました。これが第二の転禍為福でした。

5. 新しい測定法
 測定法の一つを紹介します。X線を照射し始めてからの時間とともに、測定するピークの位置(エネルギー)がどのように変化するかを測定します。
 ここで使った試料は、電気特性から違いが分かっている2つのもので、こちらは、正の電荷になりやすい欠陥が、こちらは負の電荷になりやすい欠陥が多いものです。従来のESCAの測定法では両者の違いを検出できません。
 結果では、はっきりした違いが出ています。即ち、今まで不可能だった微量欠陥の検出が可能になってきたのです。

6.協力者ら
 以上の成果が簡単に得られたみたいな話し方をしましたが、実は、今日話した本音の討論だけでなく、このように企業と学校の非常に多くの研究者の協力がありました。さらに、禍を福とするまで10年近い年月がかかりました。
この研究は私が会社を退職して、一度終わったかに見えたのです。ところが、今年の始め頃、別のつながりで昔お世話になっていた2人の人からの相談と協力者の一人がからんだ、縁としか言いようのない展開があり、

7. まず、私が県立大で1年間お世話になることになりました。そして、東北の太平洋側ではUMKテクノロジーという古川市のベンチャー企業がESCA装置の会社アルバックファイ(株)の部品と助言で、私の考えの入ったESCA装置の試作をすることになり、一方日本海側では、秋田県立大へのESCAの導入が、どちらも実現してしまったのです。実現の鍵となった人たちは社長だの、教授など本当は偉い方なのですが、ここではあえて、「さん」で呼ばせていただきます。人と人とのつながりを強調するために。(アルバックファイは、田中さんと富塚さんの名前を使わせていただきました。)(図面あり)
8. これがUMKの装置で、世界初のX線時間依存性の測定を目指した装置です。
9. そして、これが県立大のものです。将来この装置を使いこなして、即ち測定のプロになり、県立大を役に立つ界面研究のメッカにして行きたいと大貫先生以下皆さんが燃えていらっしゃいます。こちらも先生以下一丸になって頑張れば、世界に誇れる研究ができるでしょう。(図面あり)
10. 人と人とのつながり
 まとめますと、2つの転禍為福により、新しい考え方によるESCAの測定法(装置)が生まれましたが、一番大事なことは、特定の企業と特定の学校などいうより、企業でも、学校でも、そこの人たちの中で共通の興味を持った人と人とのつながりによってこのような成果が得られたのです。
 えがった、えがった!(図面あり)


岩田誠一様

楽しい発表を聞かせていただき
有り難うございました。

問題が出たときはお願いします。
よろしくお願いいたします。

以上、藤村でした。(東電化工業株式会社)


UMKテクノロジーの中嶋です。
先日は大変お世話になりました。
ご講演でのお話は、私は以前から伺っていた内容でしたが、
研究という仕事をする上で「固定概念にとらわれず発想する」
ということに改めて重要性を感じました。

これまで広く世界で使われてきたESCAにて、さらに新しいことを
やり遂げるのは、確かに難しいことだと思います。
しかしこれまでの固定概念を覆すような着眼をして
乗り越えて行ければ、と思っています。

岩田誠一様。

昨日は大変お世話になり、ありがとうございました。
講演はESCAの話を含めて面白く聴かせて頂きました。

「縁」ということを強調されておりましたが、
自分がこのUMKに入社して、今度のプロジェクトに関わることが出来た
経緯を考えると、人との繋がりは大切だと思います。

これからは装置の立ち上げなど忙しくなりますが、
面白い研究が始まることに期待しております。
研究は思うように中々進まないこともありますが
いい結果が出せるように頑張っていこうと思います。

昨日は自分から話に混ざることが出来ずに
申し訳ありませんでした。
これから、仕事や研究を進めていく上で
色々と相談をさせていただくことがあると思いますが
よろしくお願いいたします。


--
岡崎 暁洋 (Akihiro Okazaki) okazaki@umktek.com

12月5日 秋田ビューホテル
あきた産学連携推進フォーラム
発表:X線光電子分光の新しい使い方

使った図面の一部をお見せします。

禍を転じて福と為す。
禍





縁



人と人とのつながり
つながり

研究の構想
研究構想


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