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番組構成師 [ izumatsu ] の部屋
◎「番組構成師」?
◎なぜ『番組構成師』?
いきなりこんなことを言うと叱られるかもしれませんが、
ぼくはテレビ番組の制作に携わりたくて今の仕事を始めたのでは
ありません。
大学はきちんと卒業し、途中に2年弱のプー太郎期間をはさんだ
10年間ほどは会社員でした。
最初の会社を若気の至りで2年たたずに辞めたあと、マーケティング、
教育関係、企画編集と会社を転々。
ふと気がつくと、フリーのライターになっていました。
元々目的意識があってなったライターではないので、来るモノ拒まず、
何でもやります。当時はそろそろ「パソコン」が誕生しようとし、
“ニューメディア”なる言葉がマスコミに踊った時代。
コンピュータの「コ」の字も分からないのに、業界紙に
“新素材登場! ICチップに革命か?!”などと書いたりしていました。
知らないというのは恐ろしいことです。
ライターになる少し前から、東京の街にこぼれんばかりにあふれる人が、
車が、耐え難いほどイヤになりつつありました。
学生時代も合わせると15年近く住んだ東京です。
その長い時間の中にたたずむ想い出になごり惜しさはありましたが、
1990年、30代半ばでついにふるさとへUターン。
公団のアパートに入り、充電期間という名の、あいまいな時間を
呆然と過ごしていました。
そんな時、地元のテレビ局でディレクターをしている知人が
アルバイトに雇ってくれました。
日々局に通い、ワープロを打ったり、番組の予算書を清書したり。
これが結構楽しいのです。
「このままトシとってもいぃかぁ」
そんな思いが頭をふとよぎったこともありました。
そんな時、くだんのディレクター氏が、
「番組の構成、やってみない?」
と言うのです。
僕は思わずこう答えました。
「コウセイ? なんですか、それ?」
テレビ番組の制作過程に“構成”なる役割があるなど
全然知らなかったのです。
番組の終わりを改めて注意して見てみると、
確かに「構成」という肩書きで名前がスーッと流れていきます。
「なるほどぉ」
こんな仕事があるのかと感心しました。
構成という仕事の内容をちゃんと聞いてみたら、
おもしろそうに思えました。
やってみないかと言われたテーマは、
芸能生活50周年を迎える旅芸人さんの話で、
こちらもおもしろそうでした。
よし、チャレンジしてみようか。
そう思って、コウセイなるものをやり始めました。
でも、なにをどうやればいいのかわかりません。
ディレクター氏は誘っておきながら、なんにも教えてくれません。
「こ~かな? あ~かな?」
自分なりに考えつつ、四苦八苦、構成らしきものを仕立てました。
その番組が、思いのほか楽しくできあがったのです。
ディレクター氏は、お前はこの仕事に向いていると言ってくれました。
んじゃ、ちゃんとやるかぁ、と、その気になったのです。
昨日まで素人でも、仕事となればプロです。まず、名刺を作りました。
名前と住所と電話番号。肩書きのない名刺です。
それを初対面の相手に差し出すと、妙な顔をされることが多いのに
気がつきました。
肩書きがないと名刺交換の段階で不審に思われてしまうのです。
確かに肩書きがあった方が相手も安心するでしょう。
しかし、どんな肩書きにすればいいか、わかりません。
「困ったね・・・・」
2年間くらい、肩書きなしの名刺を使っていました。
よく“構成作家”という言葉を耳にします。
ぼくは番組の構成をしているのは確かですから、
これを名刺に刷ろうかとも思いました。
でも、なんだか落ち着きが悪いのです。
ぼくのやっていることをきちんと表してない。
そんな感じがしたのです。
仕事の内容を考えると“作家”という表現が気にかかります。
作家というのは“無から有を生む人”のことだとぼくは思います。
小説家や作曲家、画家に漫画家。ドキュメンタリー作家と
呼ばれる人たちもいます。
自分自身のイマジネーションでなにものかを作り上げる人が作家。
ですから、“構成作家”という肩書きがぴったりくる人もいるでしょう。
でも、ぼくは違います。
ぼくは自ら企画を立て、ストーリーを組み立て、映像にすることを
やりません。
ディレクター、カメラマン、そして音声さん・・・・・・。
スタッフみんなが懸命に取材してきた素材がないと、
ぼくの仕事は始まらない。
無から有を生む仕事ではありません。まず、素材ありき、なのです。
「なんか、料理人みたいだなぁ・・・・」
ぼんやりそう思っていた時、頭にひらめきました。
「そうだ、職人だ!」
素材を吟味、選別し、いろいろな方向からつなぎ合わせ、
よりよいものへと仕立てていく。
ぼくのやっていること、それは作家のそれではなく、
職人の仕事そのものなのです。
“番組構成師”の誕生です。
ぼくはこれを名刺の肩書きにすることに決めました。
職人ですから、素材にはうるさいです。
いい素材が揃うと嬉しくなります。質が悪いと気分がめいります。
でも、素材が良かろうが悪かろうが、どんな素材であろうとも、
仕事を始めたら文句は言いません。
手がけた以上は、きちんとしたものにしなければなりません。
それが職人の仕事です。
指物師や塗り師、彫り師に刷り師・・・・
職人は、名は残さないけど実は残す。
「なんか、かっこいいなぁ」
自画自賛です。
1年間に2、3本しか仕事がない頃に、職人もなにもないもんですが。
ですから、“番組構成師”という肩書きは、
遊び半分でつけているのではありません。
でも、名刺を受けとった多くの人は、不思議そうに眺めます。
肩書きがない頃よりも、いっそう不審なのかもしれません。
ぼくは映画の『男はつらいよ』が大好きで、
全作品を少なくとも三回ずつは見ています。
寅さんの口上、
続いた数字が三だ。さんさんろっぽでひけめがないよ、
さんで死んだか三島のおせん、おせんばかりがおなごじゃないよ。
四つ、四谷赤坂麹町、ちょろちょろ流れるお茶の水、
粋なねぇちゃん立ちしょんべん・・・・
長くなるからやめますが、あの口上に憧れて、
寅さんみたいになりたいなぁとかなり本気で考えたことがありました。
寅さんのような仕事を香具師(やし)と呼びます。
同じ“師”がつく職業につけて、憧れがかなったような気もします。
寅さんも、ぼくも、やっていることが職業となっているかどうか、
疑問な点は多々あるのですが。
(2003年10月)
→「
主な構成番組
」
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