sun♪sun♪sunny♪

プロローグ



(このお話は実話ですが、登場人物の職業などを多少変えてストーリーを設定しています)


A子(主婦、41歳)には悩みがあった。

小学校5年生になる息子が、学校でいじめられるのだ。
いじめられるといっても、暴力まではふるわれないらしい。

友達から仲間はずれにされたり、何かあると悪者扱いされたりすることが多いようだ。

息子は、「いじめられてるわけじゃない」と言い張っているが、息子を見ていると、寂しそうなので、A子は胸が痛むのだ。

息子は野球が好きなのだが、友達から野球に誘ってもらえないので、学校から帰ってきたら一人で公園に行って、壁とキャッチボールをしている。

2年くらい前には、息子が友達といっしょに野球をしていた時期もある。

当時のことなのだが、A子が買い物の帰りに小学校の横を通りかかったときに、グランドで息子が友達と野球をしていた。 息子がエラーをしたらしく、周りからひどく責められていた。

チームメイト達は、容赦なく大きな声で息子を責めた。

「お前、運動神経がにぶ過ぎだぞ!」

「お前のせいで3点も取られたじゃないか!」

「負けたらお前のせいだぞ!」

A子は思った。

「たしかに息子の運動能力は高くない。しかし、息子には息子のいいところがある。とても心が優しい子なのに。」

A子は、自分の息子のいいところが認められていないことが、悔しかった。

そして、ひどいことを言うチームメイト達に対して、自分の息子が笑顔で謝っているのを見るのが辛かった。

その後まもなく、息子は野球に誘われなくなった。

「お前はチームの足を引っぱるから誘わん」と言われたらしい。

息子にとって、野球に誘ってもらえないことが、一番つらいようだ。A子へのやつ当たりが目立って増えたことからも、それがわかる。

しかし息子は、辛さや寂しさを決して話してはくれなかった。


A子にとって一番辛いのは、息子が心を開いてくれないことだった。

「僕は平気だ」と言い張るばかりなのだ。


A子が、「友達との上手な関わり方」を教えようと試みても、「うるさいな!ほっといてよ」と言ってくる。

「転校しようか?」と持ちかけた時は、「そんなことをしたら、一生うらむよ!」と言い返してきた。

息子の状況に対して、自分が何もしてやれないことが情けなく、A子は無力感に陥っていた。

そしてある日、学校から帰宅して公園に行ったばかりの息子が、不機嫌な顔で帰ってきた。「何があったの?」と聞いても、「何もない」と言って教えてくれない。

真相は一本の電話で明らかになった。その夜、親しくしているご近所の奥さんから電話がかかってきたのだ。


「A子さん、○○○君(A子の息子の名前)から、何か聞いてる?」

「えっ?いいえ」

「今日、公園でうちの下の子どもをブランコに乗せていたのよ。○○○君は、いつもの壁にボールを投げて遊び始めたわ。するとね、○○○君のクラスメイトらしい子たちが7、8人くらいやって来てね、『ドッジボールするからじゃまだ!』って○○○君に言うのよ。しかも、その中の1人がボールを○○○君にぶつけたのよ。○○○君、すぐに帰っていったわ。私としては、その場で何もできなくて、申し訳なかったと思ってね。」

A子は愕然とした。

「そんなことを私に黙っていたなんて。」

そんなつらい思いをしていながら、自分に何も言ってくれないことが悲しかった。その日は、あらためて息子から聞き出そうという気力も湧いてこなかった。


翌日、A子はある人に電話をかけることを決意した。その人とは、夫の先輩に当たるB氏だ。A子は、B氏とは話したこともないのだが、1週間前に夫からB氏の名刺を渡された。 B氏は、夫が高校時代に通っていた剣道の道場の先輩である。

夫も20年くらい会っていなかったらしいが、夫が最近街を歩いていたら、たまたまばったりと出会ったということだった。久々の再会に盛り上がって喫茶店に入り、2時間も話したらしい。

B氏は、今は経営コンサルタントを仕事にしているそうだ。 夫の話では、B氏は心理学にも詳しく、企業や個人の問題解決を得意としているとのこと。

そこで夫が息子のことを少し話したら、「力になれると思うよ。」と言って名刺を渡してくれたそうだ。

夫は、その日、「お前の方から直接電話してみろよ。話を通しておいてやったから」とその名刺を渡してきた。

A子「どうして私が、そんな知らない人にまで相談しなきゃいけないの。あなたが直接 『相談したらいいじゃない。」

夫 「俺が心配なのは、お前のほうだ。○○○のことで、すっと悩み続けてるじゃないか。だから、そのことをBさんに相談したんだ。」


A子「私に問題があるっていうの?私が悩むのは当然よ!親なんだから。あなたは一日中トラックに乗ってりゃいいんだから気楽よね。実際に○○○を育ててるのは私なんだからね。あなたはいっしょに悩んでもくれない。そのBさんに相談なんて
しないわ。どうせその人も、子育てのことは何も分からないに決まってるわ。」

そう言ってA子は、その名刺をテーブルの上に投げた。

しかし、昨日の出来事(近所の奥さんから聞いた話)があって、A子はすっかり落ち込み、わらをもすがるような気持ちになっていた。

「こんな辛い思いをするのはイヤだ。誰でもいいから、助けてほしい。」

そう思ったときに、B氏のことを思い出したのだ。幸い名刺はすぐに見つかった。


息子が学校に行って1時間くらい経ったころ、意を決してB氏に電話をかけた。
その時A子は、その日に起きる驚くべき出来事を、想像だにしていなかった。

受付の女性が出て、B氏に取り次いでくれた。

A子は自分の名前を告げたものの、電話に出てきたB氏の声がとても明るかったので、 「こんな悩み事を相談してもいいのか?」という気持ちになった。 次の言葉がなかなか見つからなかったのだが、B氏のほうから声をかけてきてくれた。

「もしかして□□君の奥さんですか?」

「はい、そうなんです。」

「あー、そうでしたか。はじめまして。」

「あのー、主人から何か聞かれてますか?」

「はい。ご主人から少し聞きました。息子さんのことで悩まれてるとか。」

「相談に乗っていただいていいのでしょうか?」

「今1時間くらいなら時間がありますので、よかったら、この電話で話を聞かせてください。」

A子は、自分の息子がいじめられたり、仲間はずれにされていることを簡単に話した。

そして、前日にあった出来事も。ひととおり聞いて、B氏は口を開いた。

「それは辛い思いをされてますね。親としては、こんな辛いことはないですよね。」

その一言を聞いて、A子の目から涙があふれてきた。A子が泣き始めたのに気づいたB氏は、A子が落ち着くのを待って続けた。

「奥さん、もしあなたが、本気でこのことを解決なさりたいなら、それは、おそら難しいことじゃありませんよ。」

A子は、「難しいことじゃない」という言葉が信じられなかった。

自分が何年も悩んで解決できないことだったからだ。

だけど、B氏の言葉が本当であってほしいと願う気持ちもあった。



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