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・デリック・・・P4の反応が・・・デリックがゾンビ・・まぁ、予想はしていたけど。・P4の告白シーン・・・暁学会のストーカーが来るとは・・・葬儀屋ぁ~!・諏訪部さんの声だぁ~!・回想で不死鳥シーンが出て笑ったw・P4回想シーン、紫寮長がイデアさんにしか見えないw・デリックの本性暴露のシーン・・原作でもえぐかったけど、アニメだと作画の綺麗さで更にえぐくなった。
2024年06月09日
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大学時代、ちょっとだけ観ていて、数年前に某動画サイトで全話観て夢中になったアニメ「明日のナージャ」の続編小説です。ウィーンで母・コレットと再会し、ダンデライオン一座と再び旅に出るシーンで最終回を迎えた明日のナージャでしたが、その最終回から3年が経ち、16歳となったナージャは母・コレットと共にワルトミュラー伯爵家で暮らすことに。祖父のプレミンジャー公爵から貴族の令嬢に相応しい教育を受けたナージャは、再び広い世界を見る為、ウィーンを飛び出し、ダンデライオン一座と共にパリへ向かいます。プレミンジャー公爵、アニメではコレットとナージャの父親の仲を引き裂いたり、ナージャは熱病で死んだと嘘を吐いたり、ナージャとコレットを会わせなかったりと、何て酷い爺さんなんやと思いましたが、3年暮らしているとナージャへの態度は軟化してきたようで、ダンデライオン一座と共に旅立つ孫娘への餞として、こういう言葉を贈っています。「いつも毅然としていて、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると、自信を持って言いなさい。力にものを言わせておさえつけようとする者にはひるむことなく立ち向かい、弱く助けを求めている者には、ためらうことなく手を差し伸べなさい」(P.37より)このプレミンジャー公爵の言葉は、フランシスの「ノブレス・オブリージュ」の精神にも繋がっています。16歳の誕生日を祝う舞踏会でフランシスと踊るナージャ・・キースとフランシスとの間で揺れる彼女の心は、3年経ってもそのままでしたし、フランシスはフランシスで何か思う所があるようです。からくり自動車が事故でなくなってしまったのは悲しかったなぁ。パリで劇場を買い取るも、それが廃屋同然のもので、詐欺に遭ってしまったナージャは諦めずに、義父から貰った経済の本をヒントに劇場をオープンさせる計画を立てます。ナージャの機転の良さと頭の回転の早さ、そして前向きな姿勢・・13歳の時に母・コレットを探し続けた彼女の強さは変わりませんでした。ローズマリーも出てきましたが、彼女は相変わらずで、3年経ったからといって性格が変わる訳がないかと妙に納得してしまいました。ナージャのコレット探しを妨害したり、ナージャに成り済ましたりしていましたしね・・アメリカで新事業を立ち上げるローズマリー、女性実業家になってヨーロッパに帰ってきそうですね。劇場は華々しくオープンし、こけら落とし公演も大々大成功に終わったナージャが、孤児院仲間のニコルと再会したシーンにはうるっときてしまいました。この小説には女性の生き方の変化、社会の変化などが描かれており、21世紀の現代では当たり前の事が、ナージャの時代(1910年代)にはあり得ない事だというのが驚きでした。キースは実業家として成功し、飛行機事業に携わっていると・・彼には先見の明がありますね。面白くて一気に読んでしまいました。明日のナージャが好きになり、二次創作小説も一時期書いていましたが、今でもナージャの事が大好きです。
2017年10月21日
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「本当に、わたしについてきても宜しいのですか、ユリノ様?」「何を今更。わたくしはあなたとともに行くと言ったでしょう。」シンがユリシスの黒い瞳を見つめると、彼はふっと笑った。「もう覚悟を決めたんだね。エリスとはもう敵同士だよ。」「いずれこうなると思っていたから、お前と行くことに決めたんだ。」吹雪がシンの金髪を乱れさせ、彼は前髪を鬱陶しげに前髪をかきあげた。「これをどうぞ。」ユリシスがそう言ってシンに差しだしたのは、蒼玉(サファイア)の髪留めだった。「ありがとう。」シンはユリシスから髪留めを受け取ると、慣れた手つきで髪を纏めた。「下ろした方も似合うけど、結いあげた方が似合うね。」「こんな高級そうなもの、何処で盗んだの?」シンの言葉に、ユリシスは低い声で笑った。「酷い言い草ですね。これはわたしの唯一の肉親であった祖母の形見です。」「唯一の肉親であるお前の祖母が、こんなに邪悪な魔導師となった孫の事をどう思っているんだろうね?」シンの皮肉を、ユリシスは軽くあしらった。「残念ですが、祖母は亡くなりましたよ。何年も前に。」「へぇ、そう。」シンはさっさと雪の中を歩いていると、ユリシスはフードの裾についた雪を払ってシンを追い掛けた。「こうして黙って歩くのもなんだから、わたしが昔話でも聞かせてあげよう。」「あら、それはありがたいこと。是非お聞かせ願いたいものだわ。」シンは宮廷用の作り笑いを浮かべてユリシスを見た。「わたしは南部にある、汚くて猥雑とした港町に生まれてね。母親は船乗り達相手に媚を売る娼婦でね。彼女は貿易会社の二代目社長に入れ上げた挙句、堕胎の機会を逸して生まれたのがわたしさ。」ユリシスは滔々と、己の生い立ちを話し始めた。 南部の港町・パディシャイアに生まれたユリシスは、娼婦の息子であるという出自を恥じ、必ずやこの国の頂点へとのぼりつめてやると、幼い頃から野心を抱いて生きてきた。だが底辺の掃き溜めに居る限り、己の人生は変えられない―そう思ったユリシスは、実父であるアントニオに会いに行った。「お前が、あの女の息子なのね?」 アントニオの母・グラゼーラは、ユリシスを引き取って育てた。両親に育てられず、祖母による厳しい躾を受けたユリシスは、彼女が会社の実権を掌握していることを知り、従順に祖母に仕えた。にほんブログ村
2012年07月18日
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何だかよく分からない作品でしたが、空知が生きていたことには驚きましたね。
2024年02月11日
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千尋は京生れ・京育ちで、地方出身の自分とは違って京言葉も完璧で、その上置屋で一時期暮らしていた事もあり、所作には一切無駄がなかった。 歌舞音曲に於いても、千尋は完璧だった。鈴江は彼という強力な敵の登場に、焦りを覚え始めた。 どうすれば千尋を追い落とせるのか―そう考えた鈴江が出した答えは、彼を花街から追放する事だった。 殺人の濡れ衣を着せられた舞妓が、その疑いが晴れたとしても花街に居られる訳がない。 花街は伝統と体面を重んじる世界で、花柳界もまた然りだ。(これから面白くなりそうだね・・) 鈴江はそう思いながら、闇を照らす月を眺めた。 一方、殺人の濡れ衣を着せられた千尋は、奉行所へと連行された。「お前が清を殺した事はわかっておる!」「うちは誰も殺してまへんえ。お奉行様、うちがあの人を殺したいう証拠があるんどすか?」 千尋はそう言うと、蒼い瞳で奉行・南田を睨んだ。「そなたが現場から立ち去るのを見たという者がおるのだ!」「それは何処のどなたはんどすか?第一、うちが奈津江おかあさんの屋形を訪ねたんは子の刻(真夜中)を過ぎた頃どす。そないな遅い時間に、うちの姿を見た者が居るというんはおかしいのと違いますやろうか?」「ええい、黙れ!」 自分に対して強気な態度を取る千尋に苛立った南田は、彼を牢へと入れた。「何、千尋が殺しの下手人として奉行所に捕まった?」「はい、どうやら千尋の養母の娘が、何者かに殺されていたようでして・・偶然屋形を訪れた千尋に嫌疑がかかったようです。」「そうか・・面倒な事になっちまったな。」 山崎からの報告を受けた歳三は、そう言って鬱陶し気に前髪を掻き上げた。「町方はまだ、千尋が新選組(うち)の者だと気づいていないんだろう?」「はい、そのようです。そういえば副長、ひとつ気になることがわかりました。」山崎はそう言うと、歳三の耳元に何かを囁いた。「その鈴江って女を調べろ。今回の事件にそいつが絡んでいるかもしれねぇ。」「わかりました。では、俺はこれで失礼いたします。」 山崎が副長室から去った後、彼と入れ替わりに千が副長室に入って来た。「土方さん、お茶をお持ちいたしました。」「有難う、そこに置いておいてくれ。」「はい。」「千、千尋が殺しの下手人として奉行所に捕まった。」「それ、本当ですか!?」「俺が嘘を吐いているような顔に見えるか?」「いいえ・・あの、僕に何かできることはありませんか?」「千尋の着替えを奉行所に持って行ってくれ。」歳三はそう言うと、風呂敷に包まれた千尋の着替えを千に手渡した。「わかりました。」「斎藤、千の護衛を頼む。」「承知しました、副長。」 屯所から千と共に出た斎藤は、何者かに自分達が尾行されている事に気づいた。「千、次の角を曲がるぞ。」「え、でも奉行所はこっちの方が近道じゃ・・」「いいから、俺の言う通りに従え。」「はい、わかりました。」 斎藤と共に千が角を曲がった後、誰かが駆け足で通り過ぎてゆくのを感じた。「斎藤さん、今のは・・」「恐らく、俺達を尾行していた者だろう。」「どうして、そんな事を?」「俺達を尾行している者は、敵の手先かもしれん。」斎藤はそう言うと、琥珀色の瞳を眇(すが)めた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2017年11月02日
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総美の通夜と告別式を、土方は喪主として気丈に取り仕切り、千尋はそんな彼を支えた。(奥様、わたくしは旦那様とお子様達を代わりにお守り致します。どうか、安らかにお眠りください。)千尋は総美の墓前でそう彼女に誓うと、土方の元へと向かった。「千尋さんと結婚するですって!? あなた正気なの!?」 総美の四十九日法要が終わり、土方はその席で姉達に千尋と再婚する事を報告したが、信子はそれに猛反対した。「姉さん、俺1人じゃ子ども達の面倒は見られねぇし、千尋との事は総美が許してくれた。」「あんたって子は・・千尋さん、トシに何か誑かされたんでしょう? そうなんでしょう?」「わたくしは・・旦那様を愛しております。」千尋の言葉に、信子の眦が上がった。「それじゃぁ、証拠を見せて貰おうかしら? 本当に総美さんがあなた達との関係を認めたっていう証拠を。」「それはある。」土方は信子に、総美が生前つけていた日記帳を見せた。 そこには彼女が土方への想いと、迫りくる死病への恐怖、そして我が子への想いが克明に綴られていた。日記の最後には、こう結ばれていた。“千尋さん、どうか土方をお願いね。あの人は独りでは生きられない人だから。”日記を読み終わった信子は、溜息を吐いてそれを弟に返し、千尋を見た。「千尋さん、あなたは本当にこれでいいの? トシの所為で、あなたの人生を犠牲にしたくないし、あなたはまだ若いわ。」「わたくしは奥様と約束したのです。ですから、旦那様との結婚をお許しください。」千尋はそう言って信子達に頭を下げた。「そう・・じゃぁ、一生トシと結婚して後悔しないようにして。トシ、あなたも千尋さんを不幸にしないと約束なさい。」「ああ、解ったよ。ありがとう、姉さん。」その数週間後、2人は横浜の教会で身内だけのささやかな結婚式を挙げた。「千尋、綺麗だ。」「ありがとうございます、旦那様。」純白のウェディングドレスに身を包んだ千尋は、そう言って夫となる土方に微笑んだ。「千尋君、これで本当にいいのか?」「ええ。もうわたくしは迷いません。」「そうか・・」斎藤は何か言いたそうだったが、土方とともにどこかへと向かった。「旦那様、本当に宜しいのでしょうか?」「ああ。俺は千尋を愛してる。たとえそれが俺の独占欲であっても、あいつを愛し続けたいんだ。だから斎藤、俺達の事を認めてくれねぇか?」「・・そう言われては、認めざるおえないですね。」斎藤は目を伏せると、千尋に跪いた。「奥様、斎藤一、一生あなた様にお仕えいたします。」「斎藤さん・・ありがとうございます。」千尋は涙を流しながら、土方とこの日、夫婦となった。「旦那様、今夜から宜しくお願い致します。」新婚初夜、土方と千尋の為に用意された部屋で、身支度を終えた千尋はそう言って土方に頭を下げた。「今更かしこまるんじゃねぇよ。今夜は、優しく抱いてやるから。」土方はそっと千尋を褥の上へと押し倒した。 土方と結婚した事は、千尋はまだ女学校には秘密にしていた。だが、彼女の秘密は思わぬところから露見した。それは、土方と子ども達とともに花見へと行った時の事だった。「あら、千尋さんだわ。」「隣の方は、確か・・」李鈴は、千尋の左手薬指に光るプラチナの指輪を見た。「千尋さん、土方様とご結婚されたの?」千尋が登校すると、そう言って李鈴達が彼女を取り囲んだ。2人の結婚が周囲にばれました。にほんブログ村
2011年10月24日
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「女将さん、良かった、気が付いて!」 何者かに銃撃された千代乃が意識を取り戻したのは、事件から数日後のことだった。「ファヨンさん、一体何があったの?」「あいつが・・ジョンスが女将さんを逆恨みして、女将さんを殺して、みんなを殺そうとしていたんです。」「まぁ、そんな事が・・」 満韓楼を襲い、自分を撃った犯人がジョンスだとファヨンから知り、千代乃は驚きのあまり絶句した。「わたしは撃たれるような事をしたかしら?」「きっとあいつの逆恨みですよ。ほら、ジニ様の事で色々と揉めていたじゃないですか?」「でもあれはもう過ぎた事よ。」「それは女将さんが思っていらっしゃるだけで、向こうはそう思っていないのでは?」 ファヨンの言葉に、千代乃は溜息を吐いた。自分がジョンスとの間に起きた事を過去のものだと思っているが、ジョンスはそう思っていないのかもしれない。 だから、日に日に自分への憎しみを募らせ、彼は自分を殺そうとしたのだ。「わたし、今回の事で色々と考えてしまうわ。わたしは彼に恨まれるような事をしてしまったのかしらって。」「そんなに思い詰めることはないですよ、女将さん。今までジョンスは好き勝手な事をしていたけれど、今回で確実に刑務所に入りますね。あいつの顔をもう見なくて済むと思うと、せいせいします。」そう言ったファヨンは、千代乃の手をそっと握った。「女将さん、わたし達は女将さんの秘密を誰かに口外したりはしませんから、安心してください。」「ファヨンさん、貴方いつからわたしが男だという事に気づいていたの?」「ジョンスの家の使用人が女将さんのお風呂を覗いていた時からです。その時わたし、偶然女将さんの裸を見てしまったんです。」「そう。」「男でありながら今まで女として生きてきたという事は、女将さんは複雑な事情を抱えていらっしゃるのですよね?」ファヨンの問いに、千代乃は静かに頷いた。「ファヨンさん、貴方の他にわたしの秘密を知っている人は居るの?」「ええ。チェヨンやユソンも知っています。後、料理番のミジャも。みんな口が堅いので、安心してください。」「わかったわ。ファヨンさん、貴方はもう満韓楼に帰りなさい。」「はい。ではこれで失礼します。」 千代乃の病室から出たファヨンは、廊下で一人の男性と擦れ違った。その横顔をチラリと見た彼女は、彼と何処かで会ったような気がした。「すいません。」「はい、何でしょうか?」 男性がくるりと自分の方へと振り向くと、ファヨンは男性の顔をじっと見つめたまま両手で口を覆った。「貴方、生きていらっしゃったのですね?」「ファヨン・・もしかして、あの時のファヨンか?」男性はファヨンの方へ一歩近づくと、彼女を抱き締めた。「あの時、お前は死んだものだと思っていたのに・・こうしてお前と会えるなんて、嬉しいよ!」「わたしもです、ヨンイル様!」 病院の廊下で抱き合っている二人の姿を、通りかかった看護婦が怪訝そうな様子で見つめていた。「ここだと人目があるから、何処か静かな所で話さないか?」「ええ、わかりました。」 ユソンとミジャが病院へと千代乃を見舞いに行くと、ファヨンが見知らぬ男と共に病院から出て行く姿を見た。「あの男、一体誰だろうね?」「知らないよ、そんな事。ユソン、他人の色恋沙汰に首を突っ込むなんて野暮な事、するんじゃないよ。」にほんブログ村
2016年09月08日
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「あら、どなたかと思ったら、ステファニー様じゃございませんこと?」エドガーと優雅なステップを踏んでいると、背後から声がして振り返ると、そこにはシャルステイン男爵夫人の腰巾着であるオルガがいた。「ご機嫌よう。」ステファニーはそう言って愛想笑いを浮かべた。「隣にいる方はどなた?」オルガはエドガーをジロジロ見ながら言った。「この方はわたくしの知り合いで、エドガー=セルフシュタイン様ですわ。」言葉を慎重に選びながら、シュテファニーはオルガにエドガーを紹介した。「初めまして。このような場で美女と噂されるオルガ様にお目にかかれるとは、私はなんという幸せ者でしょう。」そう言ってエドガーはオルガの手に口づけした。「噂? わたくしのこと、皆様何ておっしゃっておられますの?」美少年に見つめられ、オルガは頬を赤く染めて言った。「あなたはまるでヴィーナスのような美しいお方だと皆様おっしゃられておりますよ。」エドガーはオルガに微笑みながら言った。「まぁ、お上手ですこと。」オルガはすっかり上機嫌になり、「後は2人でゆっくりと楽しんでいかれてね」と言ってホールを出ていった。「・・まさか、ブスに『美女』と言って褒める日が来ようとは・・」そう言ってエドガーはホッとしたように、ため息をついた。「え、じゃああの言葉は・・・」「嘘に決まってるでしょう。 世渡りを上手くするには、少しだけ嘘を付くのも一つの方法です。」「そうですわね。わたくしも見習おうかしら。」ステファニーはそう言って笑った。にほんブログ村
2012年03月03日
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「梨沙子さん、お久しぶりね。貴方はいつからここへ通っているの?」「七つの時からよ。菊さんは?」「箏は六つの時から習っているけれど、わたしはピアノの方が好きなの。亡くなったお母様は箏や三味線の名手だったから、同じ親子でも好みが違うものだなってお父様からよく言われるわ。」「そう。藤枝は音楽教育に力を入れているから、貴方にとっては良い環境みたいね。」梨沙子はそう言うと、菊を羨ましそうな目で見た。「梨沙子さん、貴方はどちらの女学校に通われているの?」「瑞泉女学校よ。瑞泉では毎日お茶やお花の授業があるの。」「そう。藤枝でもあるけれど、毎日お花やお茶の授業はないわ。毎日あるのは声楽とダンス、テーブルマナーの授業かしら。」「テーブルマナーは、いずれ留学される貴方には必要不可欠なものとなるわ。菊さんは夢に向かって生きていらっしゃって羨ましいわ。」「そんな事ないわ。」 梨沙子と菊がそんな話をしていると、稽古場に先生が入って来た。「先生、今日も有難うございました。」「菊さん、今日も良い音色を出していましたね。ウィーンへ留学されても、お稽古を忘れずに励んでくださいね。」「はい、先生。ではこれで失礼いたします。」「菊さん、最近出来た甘味処へ行かない事?あそこは美味しいアイスクリンが評判なのよ?」「ええ、行くわ!」 梨沙子と菊が港近くにある甘味処へと向かうと、店内は女性客でごった返していた。「凄い人ね。」「そりゃぁ、女性の口コミはあっという間に広まりますからね。アイスクリンというものを食べてみたいと、わざわざ田舎から出て来るお方も居るのよ。」「まぁ、そうなの。」 店に入って数分後、菊と梨沙子は店員に漸く窓際の席に案内された。「アイスクリンを二つお願いします。」「かしこまりました。」 店員が奥へと消えていった後、菊は持っていた鞄の中から楽譜を取り出した。「それは?」「今度の発表会で歌う曲なの。声楽の先生はとても厳しくて、練習の時になるとわたしばかり注意されて嫌になってしまうわ。」「その先生は、貴方の才能を認めているからこそ貴方に厳しくしているのではなくて?才能がない人なら、最初から相手にしないわ。」「そう。梨沙子さん、貴方とお話していると、何だか元気が湧いてくるわ。」「こんなわたしでも、貴方のお役に立てると思ったら嬉しいわ。わたしのお父様は精神科医を為さっておられるから、どうしてもお父様の真似をしたくなってしまうのよ。」「そう。ねぇ梨沙子さん、今度うちにいらっしゃらない?」「あら、いいのかしら?」「いいに決まっているじゃないの。」 甘味処でアイスクリンを堪能した菊は、梨沙子と甘味処の前で別れると、家路を急いだ。(すっかり遅くなってしまったわ。) 空が曇り始めるのを見た菊がそんな事を思いながら早足で歩いていると、ルドルフが見知らぬ女性と並んで歩いている姿を見た。 一瞬ルドルフに声を掛けようとした菊だったが、女性が急に彼に抱きついたのを見て声を掛けるのを止めた。(お父様、あの方はどなたなの?)「どうしたんだい、キク?余り食べていないじゃないか?」「ええ、今度の発表会の事で色々と心配な事があって・・」「そうか。余り根詰めては駄目だよ。」 夕食の席で、菊はルドルフに女性の事を尋ねようとしたが、出来なかった。にほんブログ村
2016年01月22日
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環が部屋から出て行った後、シュティファニーは自分が切り裂いた真紅の振袖を素手で引き千切った。(あの女、わたしに逆らう気ね・・いいわ、望むところよ!) 部屋に戻った環は、寝室のクローゼットに入っている衣類をトランクに詰め、自宅に戻った。「只今帰りました。」「お帰り、環ちゃん。あんた、怖い顔をしてどうしたんだい?」「王宮で色々とありまして・・詳しい話は後で致します。」環の様子がおかしいことに気づいた小春は、黙って彼の衣類が詰まったトランクを彼の部屋へと運んだ。「あの振袖、どうしたんだい?」「あれは、皇太子妃様が無断でわたしの部屋に入って滅茶苦茶にしていきました。」「何だって!?酷い事をするね、ベルギーのお姫(ひい)様は。自分が旦那に見向きもされないからってあんたに嫌がらせしたのかい?幼稚な女だねぇ!」「さっき、皇太子妃様に言いたいことは全部ぶちまけましたから、スッキリしました。」「そうかい。これで皇太子妃様があんたの嫌がらせを止めるといいんだけれどねぇ。」「さぁ、それはどうでしょう?」 小春の言葉を聞いた環は、そう言って不敵な笑みを浮かべた。一方、ルドルフが執務室で書類仕事をしていると、そこへシュティファニーが入って来た。『シュティファニー、ノックもせずに人の部屋に入るとは無礼だぞ。』『申し訳ありませんわ、貴方。ですがわたくし、あの女官の態度が我慢ならないのです!』『あの女官とは誰の事だ?』書類から顔を上げずにルドルフがシュティファニーにそう聞くと、彼女はルドルフに真紅の振袖を見せた。『あの女、わたくしにこんな物を贈って、わたくしにお似合いですと嫌味を言って来たのよ!皇太子妃であるわたくしに対して、何て酷い態度なのかしら!』『・・シュティファニー、この振袖は何故切り裂かれている?』『それは、わたくしが腹いせに裁ち鋏で切ったから・・』自ら墓穴を掘ってしまった事にシュティファニーは気づいたが、既に遅かった。『つまり、お前はタマキの態度に腹を立て、タマキの部屋に無断で侵入して部屋を荒らした後、振袖を滅茶苦茶にしたと?』『あの女が悪いのですわ、わたくしに対して生意気な態度を取るから・・』『黙れ。』ルドルフはシュティファニーに氷のような冷たい視線を投げつけると、彼女はまるで金縛りに遭ったかのようにその場から動けなくなった。『シュティファニー、お前はわたしとタマキが疚しい関係にあることを疑っているようだが、タマキはわたしの良い遊び相手に過ぎん。』『そうかしら?妻であるわたくしよりも、貴方はあの女と昼間から乳繰り合っているじゃありませんか?』シュティファニーの言葉を聞いたルドルフの美しい眦が微かにつり上がった。『お前はわたしに何を望む?』『ひとつだけですわ。あの女官と別れてくださいな。妻であるわたくしだけを見てくだされば、何も文句は言いませんわ。』『愛人を囲っているお前が、言える立場か?』『そ、それは・・』愛人の事を言われ、狼狽えるシュティファニーの姿を見たルドルフは、口元に嗜虐的な笑みを浮かべた。『わたしを脅すつもりだったようだが、詰めが甘いな。他に用がないのなら出て行け。』ルドルフはシュティファニーに背を向け、書類仕事に没頭した。(悔しい・・ベルギー王女であるわたくしが、あの女官に負けるなんて・・そんな事、絶対に認めないわ!) この一件以来、シュティファニーの環に対する敵愾心(てきがいしん)はなくなるどころか、ますます激しくなっていったのである。 そして、シュティファニーとルドルフとの間には、徐々に価値観の不一致からくる溝が生まれ始めていった。 それは二人の間に娘・エリザベートが生まれてからも埋まることはなかった。にほんブログ村
2015年12月18日
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14日の初回から観ているドラマ。原作小説は未読なのですが、カナコの夫のような人間は、身近にいると思います。DV(家庭内暴力)・モラル=ハラスメント(精神的暴力)は、「家庭」という密室で行われているもので、表面化しにくい。学校の「教室」という密室で行われているスクールカーストやいじめと同じようなものです。ナオミはカナコを夫から自由にさせる為、カナコの夫の殺害計画を練ります。ナオミは、幼少期に父親が母親に暴力をふるっている光景を見て来ました。ドラマの中にはカナコが夫から暴力をふるわれているシーンがあって・・それが痛々しくて、カナコが可哀想でなりませんでした。最終回まで見逃せないドラマです。
2016年01月28日
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味噌の旨味と太麺との相性が抜群で美味しかったです。
2017年01月07日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あ~、疲れたぁ。」 商衣院での勤めを終え、帰宅した火月はそう言うなり自室の床に寝転がった。「お帰りなさいませ、お嬢様。お仕事初日はどうでしたか?」「色々と疲れてしまったわ。宮中は人間関係が複雑なのね。」「まぁ、色々と派閥がありますからね。大妃様派と王妃様派で分かれていますし、その事で宮中全体がピリピリしているのですよ。」「あなた意外に宮中の情報通なのね、チェヨン。」「わたしも毎日宮中に出入りしているので、嫌でも宮中の噂は耳に入ってきますよ。」「そうなの。ねぇ、スンア翁主様と王妃様は何故犬猿の仲なのかしら?」「さぁ、詳しい事はわたしも存じ上げません。」「宮中の噂話についてはもう考えたくないわ。今は疲れて寝たいの。」「お休みなさいませ、お嬢様。」「お休み、チェヨン。」 翌日、火月が商衣院へ出勤すると、そこには何故かスンア翁主の姿があった。「火月、そなたを待っていた。」「翁主様、わたくしに何か御用ですか?」「近々、大妃様の古希を祝う宴が開かれる。その為に大妃様がお召しになる衣装を其方に作って欲しい。」「わ、わたくしがですか!?」「わたしは其方を信頼しておる。」「有難く、そのお役目を引き受けさせて頂きます。」そう言って翁主に頭を下げた火月の身体は、緊張で震えていた。にほんブログ村
2019年10月23日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「それは、確かなのか?」「えぇ。」「兄上、その女が言っている事は確かです。」 王妃の背後から、スンア翁主が音もなくまるで影のように現れた。「そなた、いつの間に・・」「王様・・いいえ、兄上。」 スンア翁主は、澄んだ蒼い瞳で有匡を見つめた。「あの娘と共に逃げて下さい。」「何を馬鹿な事を!」「今からハン大監を解放しなさい、そうすればあなたの命は助けて差し上げます。」「そなた、血迷ったのか!?」「血迷うておられるのはあなたの方でしょう、王妃様?」「ひぃ・・」 背後から首筋に刃物を突き付けられ、クオク王妃は悲鳴を上げた。「もう良い、その辺にしておけ!」「いいえ、そうはいきませぬ。」「誰か、誰か来てくれ!」「人払いさせましたのでどんなに叫んでも誰も来ませんよ。」 淡々とした口調でスンア翁主は持っていた懐剣でクオク王妃の手首を少し切り裂いた。「きゃぁぁっ!」「情けない、他人を痛めつけるのはお好きな癖に、自分が傷つくのはお嫌なのですね。」「嫌、嫌ぁ・・」「これ以上痛い思いをしたくなければ、ハン大監を解放なさい。」「わかったわ!」 こうして、ハン大監は七日振りに火月と再会した。「お父様!」「火月、無事だったか。」「えぇ。でも、お母様とチュヨンは・・ごめんなさい。」「謝るな。命があっただけでも良いと思わなければ・・」「はい。」 火月はそう言うと、父の腕に抱かれながら涙を流した。「火月、これからどうするんだ?」「それはまだ、考えておりません。」「そうか。まぁ、生きていれば何とかなる。」「そうですね。」 ハン大監は、そんな事を話しながら王宮から出て行った。「あの二人、大丈夫かしら?」「何とかなるだろう。」「そうだといいのですが・・」 スンア翁主は、そう言うと溜息を吐いた。「ハン大監は、解放されたのか。」「はい。ですが、彼らは罪人の烙印を押されて生きていけるのか・・」「それは、彼らにしかわからぬ。」「えぇ・・」 王宮から出たはいいものの、火月とハン大監は全ての財産を没収され、生活は困窮を極めた。 髪飾りや自分がそれまで着ていた絹の韓服などを売って生活費の足しにしていたが、その金はすぐになくなってしまった。「はぁ・・」 父は拷問の後遺症の所為で働けず、火月は妓楼で女中として働いていた。 冬の水仕事の所為で、火月の白魚のような手はたちまちひび割れ、傷だらけとなった。(頑張らないと・・)にほんブログ村
2020年11月03日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。バークレー子爵邸で起きた出来事は、余り社交界では大きな話題にはならなかった。それよりも大きな話題になっているのは、三年後に開催されるパリ万国博覧会だった。『ねぇアリマサ、君の国も万博に出るんだろう?』『どうかな?』有匡とアルフレッドが大学の近くにあるカフェで昼食を取っていると、そこへ数人の日本人留学生達が店に入って来た。「幕府は弱腰過ぎて、話にならん!」「そうじゃ、幕府を倒さん事には、新時代は築けん!」「日本に帰国したあかつきには・・」どうやら留学生達は、薩摩の出身らしい。『どうしたの?』『いや、何でもない。』カフェから出た有匡は、店の出入口で一人の少年とぶつかった。『ごめんよ!』有匡は、財布がすられている事に気づき、慌てて少年の後を追い掛けた。『うわ~、兄さん、高そうな髪飾りだ!』『これなら、ナナの薬代が払えるな!』路地裏で有匡の財布をすった少年は、弟と火月の簪を見ながらそう言ってはしゃいだ。だが、有匡が現れた時、彼らの顔から笑みが消えた。『妻の簪は返して貰うぞ。』『やなこった!てめぇみたいな金持ちなら、こんな物いくらでも買えるだろ!』『そうだそうだ、俺達にはパンを買う金すらないんだ!それに、妹が死にかけているっていうのに、薬代も払えない!』『だとしても、妻の簪は返して貰おう。その代わり、お前達の家へ連れて行け。薬代くらいなら置いていってやる。』『うるせぇ、施しなんて受けねぇよ!』少年は有匡の言葉に激昂し、火月の簪を有匡に投げつけ、弟の手をひいて去っていった。『どうしたの?』大学に戻った有匡がベンチに座って火月の簪についた泥を懐紙で拭っていると、そこへアルフレッドがやって来た。有匡は彼に、路地裏で会った少年達の事を話した。『その子達は、イースト=エンドに住んでいる子達だね。』『イースト=エンド?』『テムズ川の東岸にある貧民街だよ。彼らには余り関わらない方がいい。』『そうか。』『この国は、生まれついての身分が人生を左右するんだ。本人の力では、どうにも出来ない事がある。』その日の夜、有匡がハノーヴァー邸の自室で勉強をしていると、部屋の扉が激しく誰かに叩かれた。『どうした、一体何が・・』『助けて、ナナが・・妹が死にそうなんだ!』『アリマサ様、この子供は一体・・』『ジョージ、ヘンリク博士をここへ呼べ。』『しかし・・』ジョージは、胡散臭そうに少年の、継ぎはぎだらけの服を見た。『もういい、わたしが呼んで来る!』『お待ちください!』『お前、名前は?』『テッドだ。』『テッド、わたしは有匡だ。今からお前の家まで案内しろ。』『わかった!』テッド少年の案内で、有匡は初めてイースト=エンドに足を踏み入れた。そこは、貧困と悪臭に満ちた場所だった。『ナナ!』テッド少年の妹・ナナは、粗末な寝台に寝かせられていた。有匡は、そっとナナの額に手を当てると、そこは炎のように熱かった。『熱はいつから?』『一昨日から。』(高熱と咳・・ただの風邪だが、放置すれば肺炎になるな。)江戸で診療所の手伝いをしていた時に、ナナのような症状の子供を診た事があった。その子供には、麻黄湯を飲ませたが、ここにそんな物は無い。(何か、代わりになるものを・・)有匡が薄暗い室内を見回していると、台所にある物が置かれている事に気づいた。『これは?』『これは、シナモンさ。母ちゃんが、それをすり潰してクッキーに入れるんだ。』『台所、借りるぞ。』有匡は月明かりを頼りに、静馬の見様見真似で薬湯を作り、それをナナに飲ませた。暫く彼女は荒い呼吸を繰り返していたが、やがてその呼吸も落ち着いて来た。『ありがとう、助かったよ!』『テッド、妹の面倒を見てやれ。』有匡はそう言ってテッド少年の家から出ると、元来た道を戻り始めた。しかし暫く歩いていると、誰かが自分の後を尾行している事に気づいた。『誰だ?』『見つけたぜぇ・・まさか男だったとはなぁ。』男の声と共に、噎せ返るような匂いが、有匡の鼻先をくすぐった。月明かりの下、右目に眼帯をつけた金髪の男が、憎しみに滾った翠の目で有匡を睨みつけ、こう叫んだ。『死ねぇ!』男はそう叫び、有匡に向かってナイフで切りつけた。(クソ、丸腰だ!)あの時は近くに武器があったが、今回はそんな物は無い。男は殺意に漲らせた翠の目を光らせ、有匡に間髪入れずにナイフで切りつけた。(このままだと、やられる!)全身の血が熱く逆流し、目の前が白い霧に包まれそうになった時、“それ”は起きた。『ぎゃぁ~!』頬を熱風が撫で、有匡は炎を男に向けて放った。男は灰の塊と化し、向こうの壁際へと吹き飛んだ。有匡が男からナイフで切りつけられた肩の傷は、すぐに塞がった。(一体、何が起きた?)有匡が呆然とその場に立ち尽くしていると、遠くから警笛の音が聞こえたので、彼は足早にその場から立ち去った。屋敷の裏口から中へと入った有匡は、玄関ホールに備え付けられてあった鏡で己の姿を見て、愕然とした。黒く長い髪が、炎のような赤い髪へと変わっていた。(どうして・・)『お帰りなさいませ、アリマサ様。』『ジョージ・・』『そのご様子だと、何かおありになられたのですね。』にほんブログ村
2024年01月04日
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まろやかで、しつこくない味で、尚且つチーズの風味がしっかりしていて美味しかったです。
2024年03月11日
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寄宿学校編2話感想・モーリス=コール、少女漫画に居そうな縦ロールな悪役←偏見・シエル顔怖い、だがそれがいい!・文句言いながらも完璧に仕事をこなすセバスチャン、素敵。・ハーコート君、きゃわゆい。・セバスチャンの悪魔っぽさ、原作より濃すぎるぅ!
2024年04月21日
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爽やかで、夏らしい味がしました。
2024年06月07日
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晴明と博雅のコンビ、やっぱりいいですね。道満が出てきましたが、どうしても映画版の道満のイメージが浮かんでしまいました。
2024年03月08日
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素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「おはようございます。」「まぁ火月さん、美しいお着物ね。旦那様からの贈り物かしら?」「はい。先生から、“結婚祝い”だと・・」「羨ましいわ、旦那様から愛されておいでなのね。」「そんな事・・」「あなた、どうしてここにいるの!?」 背後から鋭い声がして火月と百合乃が振り向くと、そこには鬼のような形相をした紫子が立っていた。「あら紫子、火月さんを知っているの?」「知っているも何も、この方はわたくしの恋敵なのよ、お姉様!」 紫子はそう叫ぶと、火月を睨んで校舎の中へと入っていった。「姉が失礼な事をして申し訳ないわね、火月さん。姉のわたしがあの子に代わって謝ります。」「大丈夫です、僕は気にしていませんから。」「妹は昔から思い込みが激しいところがあるから、わたしは昔からあの子に手を焼いているのよ。」 百合乃はそう言った後、どこか寂しそうに笑った。「百合乃様?」「さぁ、教室に行きましょう。」「え、えぇ・・」(今のは、何だったの?) 火月がそんな事を思いながら図書室で勉強をしていると、誰かが言い争うような声が外から聞こえて来た。「・・駄目だと言っているでしょう!」「どうして、わたしの邪魔ばかりするの!?」 甲高く、何処か癇に障るような声は、紫子のものだ。 だとしたら、彼女が話している相手は― 火月が暫く誰かと言い争っている紫子の声を聞いていると、やがて紫子は何処かへ行ってしまったらしく、彼女の声が聞こえなくなった。「火月さん、火月さん?」「あ、ごめんなさい、ボーッとしていて・・」「そう。」 裁縫の授業で、火月達はワイシャツを縫っていた。「火月さんは、手先が器用なのね。」「いえ・・実家に居た頃、よく義理の母や妹に針仕事を押し付けられていたので、裁縫は、最初は苦手だったのですが、慣れました。」「まぁ・・ごめんなさいね、辛い事を聞いてしまって・・」「もう、昔の事なので、大丈夫ですよ。」火月はそう言いながら、ワイシャツを縫い上げた。 昼休み、火月が百合乃達と昼食を食堂で囲んでいると、そこへ菊野女学校の数学教師・吉田が入って来た。「土御門さん、あなた宛にお手紙が届いていますよ。」「ありがとうございます、先生。」 吉田から自分宛の手紙を受け取った火月は、それを大切そうに、懐にしまった。 その日の夜、火月は寮の部屋でその手紙に目を通すと、それは有匡からのもので、火月の健康を気遣うような内容と、来月所用で東京に行くという旨が書かれていた。「おはようございます、殿。」「おはようございます。」 有匡が身支度を終えて朝食を食べていると、玄関の方から誰かが扉を叩く音が聞こえた。「あら、こんな時間に誰かしら?」「わたしが出る。」 有匡がそう言って玄関先へと向かうと、そこには自分と瓜二つの顔をした青年―“息子”であった仁が立っていた。「仁、久しいな。」「父上、ご無沙汰しております。」仁はそう言うと、被っていた帽子を脱ぎ、有匡に一礼した。「立ち話も何だから、家でゆっくり話をしよう。」「はい。」 仁が家の中に入ると、種香と小里が笑顔で彼を迎えた。「まぁ仁様、お久し振りでございます。」「お元気そうで何よりですわ。」「すいません、突然お邪魔してしまって。」「いや、今日は仕事が休みだったからいい。お前と最後に会ったのは、お前が京に発った日だったな。」「はい。あれから父上と会わずじまいで・・お元気そうで何よりです。」「今は、何をしている?」「警官をしております。警察庁神秘部陰陽課です。」「そうか。」「父上、母上とは会えましたか?」「あぁ。火月は今、東京の女学校に通っている。」「母上と離れ離れになるのはお辛いでしょう。父上は母上に昔から・・」「仁、世間話をしにわざわざここへ来た訳ではないだろう?」 有匡はそう言って咳払いすると、珈琲を一口飲んだ。「実は、ここ最近、東京近辺で人攫いが増えています。狙われているのは、いつも金髪の娘。」「金髪‥という事は、被害者は外国人か?」「はい。横浜の外国人居留地に住む娘達ばかりだったのですが、最近はある女学校の生徒達ばかりが狙われています。」「ある女学校?」「はい。白百合と、菊野女学校です。」「その二つの女学校に、何がある?」「さぁ・・」(火月が、無事であればいいが・・) 火月は、女学校で楽しい学校生活を送っていた。「ねぇ、最近ここの近くで人攫いが出ているのですって。」「恐ろしいわね。」「ええ。」 火月達がそんな事を言いながら行きつけのフルーツパーラーでお茶をしていると、店に一人の男がやって来た。 その男は、まっすぐに火月達の元へとやって来た。「お久し振りです、火月様・・いや、義姉上とお呼びした方がよろしいか?」 そう言いながら微笑んだ男は、前世でかつて有匡と敵対していた殊音文観だった。「どうして、あんたが・・」「いえ、あなたに会いたくてね。」「え?」 火月は文観にいきなり腕を掴まれ、動揺した。「少し、付き合って頂けませんか?」「いや、離してっ!」 火月と文観が揉み合っていると、そこへ有匡と仁がやって来た。「文観、その手を妻から離せ!」「わかりました。有匡殿、また会いましょう。」 文観はそう言うと、あっさりと引き下がった。「先生・・」「母上、お久し振りです。」 突然現れた美男子達に、火月の友人達は一斉に色めき立った。「火月さん、こちらの方は、もしかして・・」「僕の旦那様です。」「まぁ!」「何処で知り合いになられたの!?」「そちらの方は?」 火月達は、小一時間友人達から質問責めに遭った。「お前の友人達は、いつもあんなにやかましいのか?」「えぇ、まぁ・・それよりも仁、元気にしていて良かった。」「母上も。」 仁はそう言って火月に微笑んだ。「では、わたし達はこれで。」「先生、仁、気を付けて帰って下さいね。」「あぁ。火月、これを。」 有匡はそう言うと、懐剣を火月に手渡した。「これは?」「正妻の証だ。」「え・・」「東京へ来る前、わたしの元にこんな物が届いた。」 有匡が火月に見せたものは、舞踏会の招待状だった。「舞踏会?」「有沢さんが・・わたしの直属の上司が、是非ともわたし達に出席して欲しいと言われてな。あと、これはわたしが滞在しているホテルの住所だ。」「はい・・」「そんな顔をするな。また会える。」 有匡はそう言うと、火月の唇を塞いだ。(うわ、顔が近い!)「せ、先生・・」「寮の前まで送る。最近物騒だからな。」「あ、ありがとうございます。」(どうしよう、嬉しくて死にそう!) 寮の前で有匡と別れた後、火月は自室に戻るなり枕に顔を埋め、叫んだ。(あ~、どうしよう、先生と舞踏会に行けるなんて嬉しくて死にそう!あ、でも着て行くドレスがないな・・) 少し冷静になった火月は、ある問題に気づいた。 それは、舞踏会に着ていくドレスを一着も持っていない事だった。 実家に居た頃、母の形見の着物やドレスは、義母達によって一着残らず焼き捨てられてしまった。(どうしよう、先生に何て言ったら・・) 翌日の放課後、火月は有匡とあのフルーツパーラーで待ち合わせていた。(先生、遅いな・・) そんな事を思いながら、火月が本を読みながら待っていると、店に有匡が入って来た。「先生・・」「すまん、遅くなった。」 有匡が火月を連れて来たのは、婦人服専門の仕立屋だった。「先生、ここは?」「お前のドレスを何着か仕立てて貰おうと思ってな。」「え、どうして・・」「あんな家で暮らしていたから、お前がどんな扱いを受けていたのかは、すぐにわかる。」 火月は有匡に何着かドレスを仕立てて貰った後、彼と共に彼の滞在先であるホテルへと向かった。「うわ~、高級な所ですね。」「まぁな。火月、女学校の方には今夜ここに泊まると連絡しておいた。」「え・・」「何をそんなに驚いている?今更二人きりになる事なんて、珍しくないだろう。それに・・」 火月は有匡に背後から抱き締められ、顔を赤くした。「ずっと、お前と二人きりの時間を過ごしたかった。」「先生・・」「先生?」「あ、有匡様・・」 おねーさん、どうしよう。 僕、“また”先生からのお情けを頂いてしまった。「ねぇ、先生はいつまで東京に居るのかしら?」「さぁね。でも、事件の調査にかこつけて、火月ちゃんの傍に居たいだけなんじゃない?」「そうかもね~」「ま、二人が一緒に居られればいいんじゃない?」「そうね~」 種香と小里がそんな事を話していると、玄関先から少女の声がした。「すいません、誰かいらっしゃいませんか~!」「はい、どちら様ですか?」 種香が玄関先へと向かうと、そこには火月と瓜二つの顔をした少女が立っていた。「あの、こちらは土御門有匡様のお屋敷でしょうか?」「ええ。あの、あなたは・・」「わたしは、雛と申します。ここへは、父と母に会いに来ました。」「まぁ、雛様、お久し振りですわね!」「雛様、どうぞ中へ!」 二人は、有匡と火月の娘・雛を屋敷の中に招き入れた。「六百年振りですわね、こうして会えたのは。」「ええ。父様と母様は?」「二人は、東京にいらっしゃいますわ。仁様も一緒ですわ。」「まぁ、仁も一緒に?」「ええ。殿がこちらに戻られるまで、ゆっくりして下さいね。」「わかったわ。」 雛が鎌倉の土御門邸に滞在している頃、東京の歓楽街の外れに、その店はあった。「あら、いらっしゃい・・何だ、あんたか。」 カウンターに居た、“カフェー・暁”のマダム・艶夜は、店に入って来た客の顔を見た途端、眉間に皺を寄せた。「おやおや、随分と嫌われているようですね。前世ででは夫婦であったというのに。」文観はそう言うと、カウンター席のスツールに腰を下ろした。「注文は?」「ワインを。」「そう。」 文観のグラスにワインを注ぎながら、艶夜は大きな溜息を吐いた。「で?ここには何の用?」「貴方の兄上を見つけましてね。そのご報告に来たのですよ。」「アリマサ、何処に居るの?」「鎌倉で、陸軍の陰陽師として働いていますよ。あと、甥の仁君も、似たような仕事をしています。」「へぇ、そう。」「余り関心がないようですね?」「だって、アリマサは神官の物じゃないもん。それに、妖狐界が最近うるく言って来るんだよね。早く孫の顔を見せろって。」「妖の世界も、色々と大変なのですね。」「まぁね。昨夜管狐からこんな文を貰ってね。」 艶夜はそう言うと、文観に妖狐界から届いた文を見せた。 そこには、近々集まりがあるので、“夫同伴”で出席するように、という旨が書かれていた。「面倒臭いけれど、必ず出席しろってさ。」「へぇ、そうなのですか。では、わたしと共にその集まりに行きませんか?」「考えておく。」 週末、火月は有匡と共に有沢家の舞踏会に出席した。「なんだか、緊張してしまいますね・・」「大丈夫だ、わたしがついている。」 有沢邸へと向かう車の中で、有匡はそう言うと火月の手を優しく握った。「お父様、舞踏会には有匡様がいらっしゃるのでしょう!?ああ、早く有匡様にお会いしたいわ!」 そう言った紫子は、興奮した様子で有匡の到着を今か今かと待っていた。「落ち着きなさい、紫子。」「姉様、あの方と―あの女と親しいの?」「火月さんをそんな風に呼ぶのは止めなさい。」「だって・・」 百合乃が紫子を窘めていると、大広間が急に騒がしくなった。―有匡様よ!―社交嫌いの有匡様が、このような集まりにいらっしゃるなんて珍しいわね。―あちらの方が、奥様? 燕尾服姿の有匡がエスコートしているのは、美しい真紅のドレスを着た火月だった。 彼女の髪には、紅玉とダイヤモンドのティアラが輝いていた。「やぁ、来たね。そちらが、君の奥さんかい?」「初めまして、火月と申します。」「いやぁ、美しい方だね。有匡君、わたしの娘達を紹介するよ。こちらが長女の百合乃と、次女の紫子だ。」「百合乃と申します。火月さんとは女学校で仲良くしておりますの。」「火月から君の話は聞いているよ。女学校ではよくして貰っていると。」「まぁ、そうですの。」百合乃は、紫子が拗ねて自室へと戻ってゆく姿を見送った。「紫子はどうした?」「さぁ、知りませんわ。わたくし、様子を見て来ますわ。」 百合乃がそう言って紫子の部屋へと向かうと、中から妹の泣き声が聞こえた。「紫子、入るわよ。」「お姉様・・」そう言って枕から顔を上げた紫子の目は、赤くなっていた。「何をそんなに拗ねているの?有匡様には火月さんがいらっしゃるのだから、諦めなさい。」「嫌よ、わたしは有匡様の妻になるの。あの女なんかには渡さな・・」 何かが百合乃の前を横切り、紫子の首が自分の足元に転がっている事に気づいた時、百合乃は悲鳴を上げた。「百合乃、一体何が・・」「紫子、紫子が・・」 悲鳴を聞きつけた有匡達が紫子の部屋へと向かうと、そこには首が無い妹の遺体を抱き締めて泣いている百合乃の姿があった。「これは、一体・・」「先生・・」 火月は、その場で気絶してしまった。「いやぁ、大変な事になった。」「有沢さん、百合乃殿は?」「部屋で休ませているよ。それにしても、一体誰の仕業なんだろうか・・」 そう言った有沢の顔は、蒼褪めていた。「先生・・」「少しは落ち着いたか?」「はい・・」「今夜はここで泊まる事になった。何かあったらわたしを呼べ。」「わかりました・・」 火月が眠っているのを確認した有匡は、そっと客用寝室から廊下へと出た。 二階へと上がり、有匡が紫子の部屋へと向かうと、その途中で“何か”が横切ったような気配を感じた。(何だ、今のは?) 有匡がそんな事を思いながら紫子の部屋の中に入った瞬間、黒い影が彼の前を横切った。「何者だ!?」「クソ、あんたも殺してやろうと思ったのによぉ!」 天井からそう叫んで降りて来たのは、一人の少年だった。 漆黒の髪をなびかせた彼は、鋭い爪で有匡に襲い掛かろうとしたが、彼が放った筮竹が胸に刺さり、絶命した。「これは、一体・・」「これが、お嬢さんを殺した下手人です。」 有匡はそう言った後、火月が寝ている部屋へと向かったが、そこに彼女の姿はなかった。 有匡が客用寝室から出て数分後、火月は風が唸る音で目覚めた。「大きな声を出すな。」 口元を何者かに塞がれ、後頭部に銃口を押し付けられた火月は、侵入者の言う通りにするしかなかった。「裏口から外へ出ろ。」「あなたは誰?僕をどうするつもりなの?」「無駄口を叩くな、早くしろ。」(先生、助けて・・) 火月は侵入者と共に、有沢邸から出て行った。「早く乗れ。」 火月は侵入者と共に有沢邸の裏口に停められている車へと乗り込んだ時、目隠して両目を覆われ、何も見えなくなった。「有沢殿、妻が何者かに攫われました。恐らく犯人は、お嬢さんを殺した輩の共犯者かと。」「これは、我々の手には負えん、ただちに応援を呼ぶ!」「助かります。」 有匡はそう言うと、火月を捜しに有沢邸から出て行った。 祭文を唱え、有匡は彼女の居場所を探ろうとしたが、失敗に終わった。「クソッ」 火月が左耳に紅玉の耳飾りをつけていれば、すぐに彼女は見つかるだろう。 彼女を攫った相手が、自分の結界内に彼女を隠さない限り。「う・・」「目が覚めたか?」 火月が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。 御簾越しに自分に向かって語りかけて来る人物は、若い男の声をしていた。「あなたは・・」「初めまして、わたしは安倍光春、あなたのご主人とは因縁で結ばれているのさ。」「因縁?それってどういう意味・・」 火月がそう言って部屋の中から出ようとした時、彼女は激痛に襲われ、その場に蹲った。「何を・・」「ちょっとした魔除けの結界を張ったのさ。やっぱり、君には効いているようだね・・人間として転生しても、君は元々妖だからね。」 御簾が勢いよく開けられ、その中に居た男―安倍光春は、悲鳴を上げてのたうちまわる火月を冷たく見下ろした。「これから、楽しくなるね。」火月は、涙を流しながら有匡の事を想った。(先生・・)「まだ火月は見つからぬのか?」「はい・・女学校の周辺を捜したのですが、見つかりませんでした。」「そうか、報告ご苦労。」部下から執務室で報告を受けた有匡は、溜息を吐いた。(火月、一体何処に居るんだ・・) 火月が姿を消してから、七日が経った。 式神に彼女の捜索を命じながら、有匡も彼女を捜していたが、中々見つからなかった。(ここまで捜しても見つからないという事は、他人の・・火月を攫った犯人の結界内に居るという事か。長期戦になりそうだな。) 有匡は、執務机の上に置かれた一通の手紙に目を通した。 そこには、“子の刻にて、ニコライ堂にて待つ”とだけ書かれていた。「ただいま。」「お帰りなさい、父様。今日もお仕事、お疲れ様です。」「雛、今夜は少し出掛けて来るから、先に寝ててくれ。」「はい・・」 その日、有匡は夕食を雛と囲んだ。「仁は、また残業ですか?」「あぁ。最近、忙しそうでな、寝る時間も惜しいとこの前言っていた。わたしのような妖狐なら少しは無理をしても平気だが、あいつは人間だ。心配だから、あいつの顔を見に行ってやるか。」「そうして下さい、仁もきっと喜びます。」 夕食を食べ終えた後、有匡はニコライ堂へ向かう前に仁の職場へと寄る事にした。「仁。」「父上、何故ここへ?」「弁当を届けに来た。」「ありがとうございます。丁度お腹が空いていた所なんです。」 仁は有匡に礼を言いながら、有匡から弁当が入った重箱を受け取った。「余り無理するなよ。」「はい。」 仁の職場を後にした有匡は、その足でニコライ堂へと向かった。「おい、誰か居ないのか!?」「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。」 そう言いながら、闇の中から現れたのは、一人の青年だった。「初めまして・・いや、“お久し振り”かな、土御門有匡殿?」「お前は・・」 有匡の脳裏に、宮中で一度会った青年の顔が浮かんだ。「その様子だと、思い出してくれたようですね。」青年―安倍光春は、そう言って有匡に向かって薄笑いを浮かべた。「火月は何処に居る?」「安心して下さい、あなたの細君は今の所無事ですよ。まぁそれも、あなた次第ですが。」「何が望みだ!」「それはこれからお伝えしますよ、わたしについて来てください。」 光春に有匡が連れて行かれたのは、皇居の近くにある、ある人物を祀った場所だった。「あなたの力で、“彼”を目覚めさせて欲しいのです。」「何の為に?」「この国の為に。」「それで?この方を目覚めさせて、わたしにどんなメリットがあるのだ?」 有匡がそう言って光春を睨むと、彼は少し苛々した様子で貧乏ゆすりを始めた。「だぁ~か~らぁ~、あなたの細君を解放する代わりに、こちらの方を目覚めさせろって言っているんですよ、わからない人だなぁ!」「そんな話を信用できるか。」 光春との話し合いは決裂し、有匡はその場から去った。「クソ!」「どうされましたか、光春様?」「どうしたもこうしたもない!あの男に馬鹿にされた!」 光春はそう言った後、女中に暫く自室には誰も通すなと命じた後、火月が軟禁されている部屋へと向かった。「ご気分はいかがですか、火月様?」「答えたくない。」「相変わらず、強情ですね。少しこちらに甘えてくれたら、こちらもすぐにあなたを解放するのに・・」 光春は、そう言って火月の頬を撫でようとしたが、彼女は身を捩って彼から逃れた。「いつまで僕をここに軟禁するつもり?先生の所へ帰して!」「うるさい!」 光春はそう叫ぶと、火月の頬を平手で打った。 だがその直後、彼は火月に猫撫で声でこう言った。「殴ってごめんなさい。あなたは大切な人質なのだから、乱暴な扱いをしてはいけないのに。あぁ、わたしは何て事を・・」(この人、おかしい・・)光春に軟禁されてから、一月が過ぎた。 その日、光春はいつになく不機嫌だった。 些細な事で彼は女中達に暴力を振るい、彼女達の悲鳴が火月の居る部屋まで聞こえて来た。「あいつさえ・・あいつさえ居なければ!」 光春はそう言いながら、火月の部屋へとやって来た。「やめて、離して!」「うるさい、僕に指図するな!」 光春はそう言いながら、火月の首を絞めた。(助けて、先生!)火月の耳飾りが光り、その瞬間青龍が鋭い牙と爪で光春に襲い掛かった。(火月・・?)「殿、どうされたのです?」「火月が・・いや、正確に言えば、火月の耳飾りに仕込んだ式神が動いた。」「じゃぁ、火月ちゃんは・・」「あいつは無事だ。」(火月、無事にここへ帰って来い。) 激しい土砂降りの雨の中、火月は只管鎌倉へと走っていた。 全身ずぶ濡れになり、泥だらけになっても、火月は走るのを止めなかった。(先生、待っていて・・) 火月は疲れ果て、いつしか歓楽街の路地裏で眠ってしまった。―火月、起きろ。(先・・生?)「火月、起きろ、火月!」有匡に頬を叩かれ、火月がゆっくりと目を開けると、そこには安堵の表情を浮かべた有匡の姿があった。「先生、僕、どうして・・ここは・・」「式神の気配を辿って、ここまで来た。まぁ、あいつが連絡をこちらに寄越してくれたお陰でお前をこうして迎えに来られたがな。」「あいつって・・」「ちょっと、実の妹相手にその言い方は酷いな~」 火月が寝かされていたソファー席から身体を起こすと、そこは何処か異国情緒を漂わせるかのような雰囲気があるカフェーの店内だった。「元気そうだね、カゲツ。神官の事、憶えている?」 艶夜こと神官は、そう言うと笑った。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年06月08日
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