FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars 6
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃 2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁 0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后 0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに 3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華 2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って 2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月 0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎 0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
火宵の月 遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら 1
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁 0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 6
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように 1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~ 1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない 2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 昼ドラファンタジーロ転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~ 0
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍 0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
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FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・ 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光 0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう 1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て 0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に 0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて 1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方 0
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「勝っちゃん・・」「好きなんだ、歳!」勇はそう言うと、歳三を抱き締めた。「俺は、今までお前のことばかりを見てきた。お前はどうなんだ、歳?」「俺も、あんたが好きだよ。」歳三はそう言うと、勇を見た。そして、次の言葉を継ごうと口を開いたとき、誰かが茶店に入ってくる気配がした。「じゃぁ、俺はもう行くよ。」「ああ・・」歳三が茶店から出て行くと、芹沢達が勇に話しかけているところだった。「近藤殿、芹沢先生があなたとお話したいと。」「芹沢殿、昨夜のことは誠に申し訳ない!」勇はそういうなり、人目も憚らず芹沢に土下座した。「顔を上げてくだされ、近藤殿。もうわたしは気にしておりませんから。」そう言って笑った芹沢だったが、その顔はまだ怒っているように見えた。「はぁ・・あの、それでお話とは?」「実は、あなたの傍にいつも仕えている方を紹介して欲しいと。」「傍に仕えている方というと、歳のことですか?」「もしや、近藤殿の細君ですか?」「いえいえ、あれはそういう者ではありません。妻は江戸におります。あれは、わたしの親友の、土方歳三という者です。」「ほう、男ですか。初めてお見かけしたとき、余りの麗しさに女性だとそれがし、勝手に思い込んでしまいました。」「それは、あいつの前では言わないでください。あいつは、顔のことで散々からかわれたものでして。」「はぁ、そうですか。では、気をつけることにしましょう。」芹沢はそう言うと、新見を連れて茶店から出て行った。 一方、歳三は茶店から出て、近くの川原で物思いに耽っていた。“俺はお前のことを愛しているんだ!お前と出会ってからずっと!”脳裏に何度も、勇の言葉が何度も繰り返し聞こえてきた。 歳三は勇と出会ってからずっと彼のことを想い続けていたが、彼もまた自分と同じ気持ちであることを知り、嬉しい反面、いつ自分の秘密を彼に明かそうとかと悩んでいた。 勇は、歳三がキリシタンであることを知らない。天領と呼ばれる多摩に於いて、邪教を信じる者の存在は排すべきものであるという考えが強く根付いており、そのため歳三は自らの信仰のことを家族にも打ち明けずに、胸の内にしまっていた。だがこれから、京で勇とともに暮らすのだから、隠し事が出来る訳もない。今はまだ、彼に真実を告げてはならない。(まだ俺達は夢の出発点に立っただけに過ぎねぇ。京にも着いていねぇんだ。だから・・勝っちゃんに真実を告げるのは京に着いてからだ。)深呼吸した歳三は、川原を後にして勇達と合流した。「遅かったじゃないですか、土方さん。」「すまねぇな。少し考え事をしていてな。」「ふぅん・・もしかして、江戸に残してきた許婚のことですか?」「馬鹿、そんなことじゃねぇよ!」「え~、怪しいなぁ。」総司はニヤニヤしながら、そう言って歳三に絡んできた。「近藤さん、今夜は近藤さんと一緒に寝ていいですか?」 その夜、総司は宿泊先の宿で近藤の部屋に入ると、そう言って勇に抱きついた。「どうしたんだ、総司?昔みたいに甘えん坊に戻ったりして。」「だってぇ、近藤さん最近土方さんにべったりなんだもの。たまには僕にも構ってくださいよ。」「ああ、わかったよ。」勇はまるで可愛くて仕方がない弟分に微笑みながら、歳三のことを想っていた。あの時、勢いに任せて告白してしまったが、彼は自分を想ってくれているのだろうか。歳三の答えが気になり、勇は一晩中眠れずに朝を迎えた。にほんブログ村
2013年06月17日
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芹沢が本庄宿で焚き火をしている間、勇は彼の隣で平伏していた。「あいつ、殺してやりましょうよ!」怒りで瞳をたぎらせながら、総司はそう言って刀の鯉口に手を伸ばした。「やめておけ。ここで騒ぎを起こしたら、あいつの思うつぼだ。」「土方さんは悔しくないんですか?近藤さんにあんな・・」「悔しいさ、俺だってあいつを殺してやりてぇよ!だがな、勝っちゃんは静かに屈辱に耐えてんだ。」歳三はそう言うと、燃え盛る炎の前に平伏している親友の背を見つめた。彼は何とか芹沢の怒りを鎮めようと、静かに屈辱に耐えている。彼の気持ちを汲み、歳三は芹沢を斬り殺したい衝動を何とか抑え込んだ。感情に任せて行動したら、芹沢の思うつぼだ。今自分に必要なものは、冷静な判断だ。「・・宿に戻るぞ。」「土方さん・・」「ここは近藤さんに任せよう。だから・・」「冷たいんですね、土方さんって。」「俺だって、好きに冷たくしてるんじゃねぇよ。」「そうですか・・なら、どうぞご勝手に。」総司はそう言うと、歳三に背を向けた。歳三が宿に戻ると、食客の斎藤一が彼の方へと駆け寄ってきた。「総司は?」「あいつなら外だ。近くの宿に延焼しなきゃいいんだが・・」宿の窓から街道を見ると、芹沢が材木で燃やした焚き火が禍々しく闇の中で燃えていた。「なぁ斎藤、俺は冷たいやつだと思うか?」「は?」斎藤は一瞬意味がわからないといったような顔をして歳三を見たが、すぐに平静な表情を浮かべてこう言った。「いいえ。あの時はああするしかありませんでした。土方さんは間違ってはおられません。」「そうか・・ありがとう。」歳三は蒼い瞳をきらめかせると、一に微笑んだ。その笑顔を見たとき、斎藤の胸が高鳴った。(何だ、今のは?)「どうした?」「いいえ、何でもありません・・」「そうか。俺はもう休む。」斎藤はそう言うと、歳三から顔を逸らした。歳三は首をかしげながら部屋へと向かった。「歳、話がある。」「何だ、勝っちゃん?」本庄宿を後にし、歳三が勇とともに街道を歩いていると、不意に勇が歳三に話しかけてきた。「どうしたんだ?」「なぁ歳、二人きりで話したいんだが・・」「わかった。じゃぁあそこの茶屋で。」「ああ・・」休憩を取る為に勇と歳三は茶店に入るなり、勇は歳三の手を突然握ってきた。「どうしたんだ、勝っちゃん?」「歳、お前が好きだ。お前はどうなんだ?」「俺も、あんたが好きだよ・・でも、あんたにはつねさんが居るじゃねぇか!」「ああ、俺にはつねが居る。けどな、俺はお前のことを愛しているんだ!お前に出会ってからずっと!」「勝っちゃん・・」勇の突然の告白に、歳三はただ唖然とするしかなかった。にほんブログ村
2013年06月17日
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結局、姉達の反対を押し切り、歳三は勇達と上洛することに決めた。「ここか?」「ああ。」勇と歳三、総司たち試衛館の食客である山南敬助、藤堂平助、斎藤一らは、浪士組を募っているという清河八郎が居る伝通院へと入った。そこには勇達以外に、250人もの男達が集まっていた。「やっぱり、彼らも浪士組に?」「そうだろうさ。まぁ、大抵のやつらは公方様にお仕えする志で集まったんだろうな。」歳三があたりを見渡すと、背が高く、意志がいかにも強そうな眉毛が黒くて太い男と目が合った。「どうかしましたか、土方さん?」「いや・・」さっと男から視線を外すと、歳三は勇達が居る方へと走っていった。「・・ふん、ここにおる者どもは、本気で異人どもを打ち払う覚悟があるものなのか・・」「さぁ、それはわかりかねます。まぁ、金目当てというものが大半でしょう。」男の傍に控えていた、少し目玉が飛び出しているかのような小柄で痩せた馬面の男が、そう言って笑うと、背の高い男は面白くなさそうに鼻を鳴らした。「下らん。金目当てにやってくる腑抜けどもがこの日本国におるとは。」「そうですねぇ。全く、嘆かわしい限りです。」「ふん・・」背の高い男はぐるりとあたりを見渡すと、入り口の近くに立っている岩のような厳つい顔をした男の隣に立っている女に目を奪われた。年の頃は25,6位であろうか、漆黒の長い髪を高い位置で結び、雪のように白い肌をしている。まるで彼女の周りだけが異様な空気に包まれているようだ。男がじっと女を見続けていると、不意に彼女が自分の方を見た。 彼女は、目が覚めるかのような蒼い瞳をしていた。「芹沢先生、どうかなさいましたか?」「いや、なんでもない。」男―芹沢鴨がそう言うと、馬面の男―新見錦を従えて縁側の方へと移動した。「諸君、よく来てくれた!さぁ、今すぐ上洛し、上様をお守りいたすのだ!」「おう!」歳三と芹沢達は、中山道を通って一路京を目指した。「京へ行って、必ず名を上げるぞ、勝っちゃん!」「おう!」これからの道中、自分達にとって前途洋洋(ぜんとようよう)とした未来が待っていると歳三は信じていた。だが―「貴様、芹沢先生の宿を取り忘れたとは、一体どういうことだ!?」浪士組が本庄宿で宿を取る際、宿割りを担当していた勇が、芹沢達の宿割りを忘れるという失敗を犯してしまった。「申し訳ございません!わたしとしたことが・・」芹沢にひれ伏し詫びた勇だったが、彼の怒りは収まることなかった。「もうよい。宿無しでも一晩中薪を焚けば何とかなる。新見、行くぞ!」「はい、先生!」芹沢が部屋から出て行くのを見て、慌てて新見が彼の後を追って外へと向かった。やがて芹沢は街道の中心に大木を積み上げ、火を放った。炎の勢いが強く、このままでは宿に延焼する恐れがあったので、慌てて勇が止めたが、芹沢は聞く耳を持たなかった。「どうか、平に、平にご容赦を!」「もっと燃やせ!」芹沢が焚き火を続けている間、勇は彼の隣で平伏していた。にほんブログ村
2013年06月17日
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謎の男と出会ってから数ヶ月が経ち、歳三は相変わらず薬の行商を続けていた。そんな中、話したいことがあるからと勇は歳三に呼び出された。「なんだよ勝っちゃん、話って?」「なぁトシ、京に行く気はねえか?」「何だよ急に?」「いやなぁ・・京で帝をお守りする浪士組を募っているというのを聞いてなぁ。このまま貧乏道場主のままでいいのかなぁと思ってなぁ・・」「男して一花咲かせたいってか?成る程、勝っちゃんがそう思うのも無理はねぇな。」「そうだろう?お前もそう思うだろう?」勇は瞳をきらきらさせながら、歳三の手を握った。「それで、俺も一緒に来て欲しいって?」「ああ。」「ということは・・おかみさんも先生も反対してる訳か。」「そうなんだ・・」勇はそう言って肩を落とした。「勝っちゃん、俺を頼ってくれるのは嬉しいけどよ、自分が決めたことはどんだけ反対されても貫き通せよ。俺には何もできねぇよ。」「わかった、トシがそう言うなら頑張る!」いつまで経っても子どもらしいというか、そういう点が歳三は憎めないでいた。(京、ねぇ・・)京へ行って名を上げれば、薬の行商だけの退屈な日々が何か変わるのだろうか。「ただいま。」「トシ、あんたまた勇さんのところに行ってたの?」「ああ。大事な話があるって言われてな。」「ふぅん。」のぶはどうせ大した話じゃなかったんでしょうという顔をしながら、歳三を見た。「あのさ、姉貴・・」「何よ?」「俺、勝っちゃんと京に行こうと思うんだ。」歳三がそう言ってのぶを見たとき、姉は口をあんぐりと開いていた。「あんた、一体何言ってるの?」「だからぁ、勝っちゃんと一緒に京に行って名を上げようって思ってるんだよ!」歳三の横っ面に、のぶの平手が飛んだ。「あんた、いつも毎日ブラブラして遊び歩いているにも飽き足らず、京へ行って名を上げたいだって!?寝言も休み休み言いなさいよ!」「痛てぇよ、やめろって!」「この馬鹿弟!あんたって子は、何処までも情けないのよ!」のぶは、そう言いながら歳三の頭を殴り続けた。「痛ってぇ、あんなに殴るこたぁねぇだろうが・・」歳三は姉から叩かれた頬を擦りながら、井戸で顔を洗った。「トシ、どうしたんだ、その顔は?また女にでも振られたか?」「違ぇよ。姉貴に京へ行くって話したら殴られたんだよ!」「のぶさん、気が強いからなぁ。」「なぁ勝っちゃん、本当に京へ行く気か?」「ああ。俺は何かを成し遂げたいんだ!」「そうか、あんたがそういうなら少し助けてやってもいいか。」歳三がそうぼそりと呟くと、勇は嬉しそうな顔をして彼を見た。「じゃぁ、一緒に京に行ってくれるのか!?」「まだ決めてねぇよ。」そう言いながらも、歳三の中で既に答えは決まっていた。「わしはちょっくら京へ行ってくるぜよ!」「龍馬さん、またそんな藪から棒に・・」桂はそう言うと、また龍馬が変なことをしでかすのでないのかと思うと頭を抱えて溜息を吐いた。にほんブログ村
2013年06月17日
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気のせいかと思い歳三がその声を無視していると、勇が彼の顔を覗き込んできた。「うわ!」「そんなに驚くことはねぇだろう、トシ?」「一体何の用だよ?俺ぁあんたとは会わないって言ったはずだぜ?」歳三がじろりと蒼い双眸で勇を睨みつけると、彼は少し落胆した表情を浮かべた。「宗次郎のことは、俺だって気に掛けてはいるんだが・・あいつら、俺が留守にしている隙を狙って宗次郎を痛めつけているんだ。」「それでそのまま見てみぬふりしてきたってわけか?あんたが宗家を継いだら、天然理心流は終わりだな。」「トシ・・」歳三の辛らつな言葉を聞いた勇は、ますます顔を歪ませた。「なぁ、どうすればいい?」「んなこたぁ自分で考えろよ。用がねぇならさっさと出ていってくれ!」勇は何かを歳三に向って言ったが、歳三はそれを無視して彼が家から出て行くまでそっぽを向いていた。 後日、歳三は久しぶりに試衛館を訪れると、道場では試合形式の稽古が行われていた。歳三が少し様子を見ていると、宗次郎はいつも自分を痛めつけている内藤から一本を勝ち取った後だった。「宗次郎、良くやったな!」勇はそう言って宗次郎を抱き締めると、彼は照れくさそうに笑っていた。(あいつ、やればできるじゃねぇか。)歳三はほほえましげにその光景を見ながら、道場から立ち去っていった。「あらトシさん、今日は勇と稽古しないのかい?」「ああ。今日は俺が出る幕はねぇよ。」ふでは何故歳三が笑っているのかわからずに首を傾げた。「トシ、久しぶりに来てくれたのか!」「ああ。宗次郎とはあれからどうだ?うまくやってるか?」「ああ。はじめは俺のことを警戒していたが、本当の兄貴のように俺を慕ってくれてるんだ。」「へぇ、それは良かったじゃねぇか。例の件はどうなった?」「内藤達は道場を辞めていったよ。まぁあいつらは色々と問題を起こしてたから、周斎先生の堪忍袋の緒が切れたんだろう。」「そうか。宗次郎は?」「ああ、今日は俺と一緒に出稽古に行くから、その支度をしているよ。」「そうか。」歳三は宗次郎の部屋へと向うと、そこには支度を済ませた宗次郎が立っていた。「お久しぶりです、土方さん。」久しぶりに会った宗次郎は、最初に会った頃よりも表情がいきいきとしていた。「これから勝っちゃんと出稽古だってな?」「はい。帰りに団子を食わせてやるって、若先生が。」「そうか。元気そうでよかったぜ。じゃぁな。」 試衛館を出た歳三は、いつものように薬を売っていた。「今日はあんまり売れなかったなぁ・・」少し重い薬箱を抱えながら、歳三は溜息を吐いてその場から立ち去ろうとした。だが、その時誰かに尻を揉まれた。「柔らかい尻じゃぁ。」「てめぇ!」縮れ毛の男が何か言う前に、歳三は彼の顔に拳骨を喰らわせた。「またですか・・」顔を腫らした男が帰ってきたのを見て、桂は溜息を吐いた。「ちょいと尻を触っただけぜよ。それでこのザマぜよ。」「当たり前でしょう。一体あなたの手当てをするのはこれで何回目でしょうねぇ?」「さぁ、多すぎて忘れたぜよ。」桂の嫌味も、男はとぼけた振りをしてサラリと受け流した。その飄々とした態度は桂をイラつかせるのだが、当の本人はそれに気づいていない。尻を触られた相手はさぞや気の毒だろうなと桂は思いながら、男の腫れた頬を思い切り押さえた。「痛いぜよ!」「これ位、我慢なさい。」にほんブログ村
2013年06月17日
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「おい宗次郎、酒買ってこい。」「後で買いに行きます。」宗次郎は兄弟子からおつかいを頼まれても、平然とした口調でそう言うと庭掃除を再開した。そんな彼の反応に苛立った兄弟子の一人・内藤が、傍に置いてあった桶を蹴飛ばした。「さっさと行けよ、殴られてぇのか!?」彼はそう怒鳴って拳を振り上げたが、宗次郎は無視して庭掃除をしていた。「生意気な餓鬼だ、使用人の癖に・・」「少しは痛い目に遭わせねぇとなぁ・・」内藤達はそう言うなり、黙々と庭掃除をしている宗次郎に突然蹴りを入れた。 大人の男の蹴りをまともに食らった宗次郎の身体は、土塀の方まで吹っ飛んだ。「てめぇら、何してやがる!」彼らの暴行を見かねた歳三がそう叫びながら宗次郎の方へと駆け寄ると、彼は蹴られた痛みに呻いていた。「大丈夫か、立てるか?」「はい・・」「宗次郎っていったか?ここはもういいから、おかみさんの所へいきな。」歳三の言葉に宗次郎は静かに頷くと、中庭から去っていった。「おい、余計なことしねぇでくれるかな?俺達は兄弟子として宗次郎を躾けてるんだ。」「躾けだぁ?一方的に蹴ったりするのが躾けだっていうのかよ?勝っちゃんもお前らがしていることには承知してんだろうなぁ?」歳三が蒼い瞳で内藤達を睨みつけると、彼らは少したじろいだ。「あんた、師範代の友人だか何だか知らねぇが、うちのやり方に口出ししねぇでくれるかな?」内藤はつかつかと歳三の元に近づくと、そう言って歳三を睨みつけた。「トシ、来たのか!」「し、師範代・・」「内藤、どうしたんだ?トシに何か用か?」「いいえ。では俺達はこれで。」勇の顔を見るなり、内藤達はそそくさと中庭から去っていった。「勝っちゃん、あいつら宗次郎のこと・・」「もうとっくに知ってるさ。あいつらは俺が居ない間、宗次郎をいじめていた。」「おかみさんや周斎先生には言ったのか?」「いや・・」「何で言わねぇんだよ!事が大きくなる前に、何とかすべきだろう!」「そんな事言われてもなぁ、トシ。内藤達は剣の腕が立つし・・」「弱い者いじめをしても、あんたは黙認するってのか?あんたがそういうつもりなら、もうあんたとは絶交だ!」「トシ、そんな・・」歳三から顔に汚物を投げつけられたかのように、勇は彼の言葉に傷ついた顔をした。「もう俺はあんたんところには来ねぇよ!じゃぁな!」歳三は勇に背を向けると、試衛館から去っていった。 その言葉通り、翌日も翌々日も歳三は勇の元には来なかった。「勇、どうしたんだいボーっとして?」「母さん・・」稽古の後、勇が門の方を見ていると、ふでが溜息とともに彼に声を掛けてきた。「別に俺は何も・・」「あの子のことをまた考えてたんだろ?」「俺、一体どうすればいいんでしょう?」「そんなこと、あたしに聞いたって知らないよ。さっさとあの子のところへ行ってきな。」ふでは勇の肩を押すと、家の中へと戻っていった。「トシ、あんた勇さんに会ってないんだって?」「あいつなんかもう知らねぇよ!」宗次郎の件で勇に腹を立てた歳三は、行商を終えてその日も寄り道せずに帰宅した。「何があったのよ、あんたがそんなに怒るなんて。」「別に何もねぇよ。もうあいつとは絶交だ!」 歳三がそう叫んで畳の上に寝転がった時、外から勇の声が聞こえたような気がした。にほんブログ村
2013年06月17日
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翌朝早く、宗次郎は勇やふでが寝静まっている頃に起きて、道場内の掃除を始めていた。寒さが幾分か和らいだものの、やはり朝夕は肌寒くなり、雑巾を絞る手が冷たく感じた。「宗次郎、どうしたんだ?」「若先生・・」宗次郎が顔を上げると、そこには道着姿の勇が立っていた。「皆さんが来られる前に道場の掃除をしようと思いまして・・」「そうか。宗次郎は偉いな、小さいのにいつも我慢して泣かないなんて。」「ありがとうございます・・」いつも暗い顔をしている宗次郎が、勇の言葉を受けて明るく輝いた。「宗次郎、そうやって笑ってろよ。しかめっ面のお前よりも、笑っている顔のほうが俺は好きだ。」「若先生・・」この試衛館に来て一週間が経ち、勇に励まされてこんなに嬉しかったことはなかった。「若先生、あの・・」自分にも剣の稽古をつけてくれないか、と宗次郎が勇に言おうとしたとき、ふでが道場に入ってきた。「宗次郎、何してんだい!さっさと庭の掃除をおし!」「わかりました・・」項垂れて道場を後にする宗次郎を、勇は心配そうに見つめた。 一方歳三はいつものように行商を終え、試衛館へと向かっていた。「勝っちゃん、居るか?」「トシ、また来たのか。」そう言って自分を出迎えてくれた勇の顔が、何処か暗いことに歳三は気づいた。「どうしたんだ、勝っちゃん?変なもんでも食ったのか?」「いや、宗次郎のことが心配でな・・」「へぇ、そうかい。じゃぁ俺が来なくても良かったってこったな。」「トシ、そんな事は言ってねぇだろう!」少し歳三が拗ねると、勇は慌てて出て行く彼を引き留めようとした。「何だよ、じゃぁどういうつもりで言ったんだよ?」「それは、その・・」勇が困ったように頭を掻くのを見た歳三は溜息を吐いた。「じゃぁな、勝っちゃん。」「待ってくれ、トシ~!」慌てて勇は歳三を追いかけたが、遅かった。「何やってんだい、勇。あんたはまたあの子の尻を追いかけてんのかい?」ふでが呆れたように勇を見ると、家の中へと戻っていった。(トシの尻を追いかけてる・・か。)道場で素振りをしながら、勇はふでの言葉を思い出していた。 歳三と知り合い、いつしか勇は彼が好きになった。だがそれは恋愛感情としてではなく、友人として好きなのであった。そんな感情を抱いている勇に、ふでは時折疑惑の目を向けていた。(あんなに初心な勇が、あの子を前に赤くなったり青くなったりして・・怪しいもんだよ。) 翌日、歳三は試衛館に来なかった。落胆して肩を落とす勇に、ふではこう尋ねた。「あんた、あの子のことが好きなんじゃないかい?」「何言うんだよ、お義母さん!俺は別にトシのことを・・」「あたしが気づかないとでも思ってんのかい?あんたがあの子を見る目、恋する女が男を見る目と同じさ。向こうは気づいてんだか気づいてないんだか・・」「やめてくれよ、俺は絶対にトシをいやらしい目で見ていないからな!」勇はそう叫ぶなり、家から飛び出していった。「やれやれ、あの調子じゃぁ両思いになるのは無理だろうさ。」ふでが溜息を吐いていると、見慣れた人影がこちらへとやって来るのを見た彼女はふっと笑った。「あらあんた、今更来たのかい。勇ならさっき外へ飛び出していったさ。」「なんだいおかみさん、気色悪い顔して。変なもんでも食ったのか?」「相変わらずの減らず口だねぇ。あたしの相手よりも勇を探しな。」ふではそう言うと歳三の肩を叩き、家の中へと入っていった。(なんだぁ、おかみさんやっぱり変なもんでも食ったのか?)ふでの態度に不審を抱きながら歳三が道場へと向かっていると、彼は庭掃除をしている宗次郎を見かけた。 声を掛けようとしていた時、数人の兄弟子達が彼を取り囲んでいるのを見た歳三は、嫌な予感がした。にほんブログ村
2013年06月17日
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「姉貴、どうしたんだよ?」「トシ、また昨夜の人来ないでしょうね?」「馬鹿、来るわけねぇだろ。」「でも・・」心配する姉の手を振り払い、歳三は行商へと向かった。(よし、今日はいねぇようだな・・)いつもの場所に、あの男の姿が居ないことを確認すると、歳三はいつものように薬を売り始めた。 町で稼いだ後、歳三はある場所へと向かった。「勝っちゃん、邪魔するぜ。」「おおトシ、来てたのか!」そう言って歳三を笑顔で出迎えたのは、天然理心流の道場・試衛館の師範代である島崎勝太だった。元は農家の生まれだったが、剣術の才を天然理心流宗家である近藤周斎に見込まれ彼の養子となって今は近藤勇と名を改めていたが、歳三は未だに「勝っちゃん」と呼ぶ癖が直らないでいた。「今日はどうだったんだ?」「結構売れたさ。それよりも最近周斎先生はどうしてる?」「ああ、先生は最近忙しくてな、俺が専ら稽古をつけてるよ。」勇がそう言った時、道場の中から大きな音がした。歳三と彼が道場へと向かうと、そこでは兄弟子達が一人の少年をいたぶっていた。「お前達、何をしているんだ!?」「師範代、これは・・」兄弟子達は少年をいたぶるのを止め、皆一様に驚愕の表情を浮かべながら勇を見ていた。 勇は彼らを無視して、道場の床に蹲る少年の方へと駆け寄った。「宗次郎、大丈夫か!?」「若・・先生。」俯いていた顔を上げた少年は、翡翠の瞳で勇を見た。「こんなにやられて・・痛かっただろう?今手当てするからな。」「いえ、大丈夫です。」少年はそう言って勇に頭を下げると、道場から去っていった。「勝っちゃん、あいつは?」「ああ、トシはあいつと会うのは初めてだったな。あいつはうちの内弟子の、宗次郎だ。家の事情があって、うちに来ることになったんだ。」「そうか・・」歳三は、宗次郎の小さな背中を無言で見送っていた。「なぁトシ、これからどうするんだ?」「さぁな。ひと稽古でもするかな。」勇は歳三の言葉に、にやりと笑った。「そうか、それでこそトシだな。」彼は歳三に向かって一本の木刀を放った。「久しぶりにしようか、トシ。」「あぁ。」歳三はそう言って勇に笑顔を浮かべた。そんな親友の笑顔を見ているだけで、勇は幸せだった。いつも勇が見る歳三は、怒りの顔ばかりだった。 道場に木刀を打ち合う音が響く中、宗次郎は兄弟子達に殴られた傷を擦りながら庭掃除をしていた。箒を持つ手がまだ痺れていたが、この前よりも酷くはなかった。そっと着物の袖を捲ってみると、先ほど兄弟子達に殴られた腕が内出血を起こして赤紫色になっていた。自分を苛めるのは兄弟子達だけではない、周斎の妻・ふでも事あるごとに自分に暴力を振るったりする。“あんたみたいな痩せっぽちのチビ、穀潰しにしかならないんだから!”憎々しげにそう自分に吐き捨てるふでの顔は、鬼に見えた。姉の元に飛んで帰り、温かい言葉を受けて姉に抱き締められたらどんなにいいだろうと時折思うことがある。だが、姉は結婚して子を宿し、病身の母の為に働いている。家が大変な時に自分が弱音を吐いてはいけないのだ。(頑張らないと・・) 幼いながらも、宗次郎は辛い境遇に必死で耐えていた。にほんブログ村
2013年06月17日
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歳三がクルスを落とした場所へと翌朝向かうと、何処を探してもなかった。あいつらが持っていったに違いないと、彼は確信していた。(畜生!)歳三は舌打ちすると、薬の行商へと向かっていった。「今日も良く売れたな・・」江戸で薬を売り、すっかり空となった薬箱を背負いながら歳三はそう呟くと溜息を吐いた。 もうクルスのことは諦めてしまおうか―そう彼が思っていると、誰かに肩を叩かれた。「これ、おんしのかえ?」歳三が振り向くと、そこには縮れ髪の、背の高い男が立っていた。彼の手には、必死に探していたクルスが握られていた。「ほうかえ。おんし、名は?」「・・てめぇの方から名乗るのが筋じゃねぇのか?」「すまんのう、わしは坂本龍馬いうき。」「土方歳三だ。」歳三は男からクルスを奪い取ろうとするが、彼はひょいと歳三の手の届かないところへとクルスを持っていった。「てめぇ、何しやがる!早くそれを返せ!」「そんなに怒ったら、美人が台無しじゃぁ。」男がにやにやと笑う顔を見たとき、歳三の中で何かが切れた。「返せっつってんだろうが!」怒りに瞳を滾らせた歳三は、そう叫ぶと男の向こう脛を思い切り蹴飛ばした。男が呻いた隙を狙い、歳三は彼の手からクルスを奪い取った。(ったく、変な野郎だったぜ・・)「あたたぁ~、美人の癖に気が強いのう。まぁ、嫌いじゃないき。」男はそう言って笑うと、元来た道を戻っていった。「トシ、帰ってたのね。」「ああ。」「ねぇトシ、あんた薬の行商ついでに道場破りもしてんだって?」「なんでそんなこと知ってんだよ?」「あんたにめちゃくちゃに倒された道場の門下生達が、血なまこになってあんたのことを探してるって噂よ。夜道に一人で歩くんじゃないわよ。」「わかってるよ。」歳三は姉の言葉に頷き、風呂に入った。 その夜、歳三が部屋で寝ていると、外から大きな物音が聞こえた。「どうした?」「トシ、ちょっと来て!」のぶに連れられ、歳三は庭へと出た。するとそこには、昼間会った男が立っていた。「お前ぇ、何しに来た!?」「おんしに会いに来たにきまっちょるき~!」男はそう叫ぶなり、歳三に抱きついてきた。「気安く俺に触んじゃねぇ~!」男の頬に、歳三の拳が飛んだ。「相変わらず気が強いぜよ。」男はそう言って笑いながら、歳三に再び抱きつこうとしたので、彼はもう一発男の頬に拳を振り下ろした。「こいつ、外に捨てといてくれ。」眉間に皺を寄せながら、歳三はそうのぶに言うと部屋へと戻っていった。「美人はやっぱ気が強いんかの~」「全く、龍馬さんったら・・今度は一体何処の女にやられたんですか?」歳三に殴られ、江戸へと戻った龍馬を、一人の男が冷めた目で見ていた。「違うき、女やないき。女みたいに綺麗な面しちゅうけど、男やき。」「もうあなたには付き合いきれませんから、さっさと寝てくださいね。」男は溜息を吐くと、さっさと龍馬の部屋から出て行った。「全く、冷たいのぉ桂さんは。」一人残された龍馬は、そう呟くと大の字になって寝転び、たちまち鼾をかきはじめた。 彼は再び歳三に会うことになろうとは、彼自身も歳三も知る由もなかった。「じゃぁ、行ってくる。」歳三はいつものように薬の行商に向かおうとすると、のぶが彼を引き留めた。にほんブログ村
2013年06月17日
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千代の訃報を聞いた歳三は、その日から罪の意識に苛まれ、食事が喉を通らず、元々華奢だった彼の身体には肋の骨が浮き出るようになるまで痩せてしまっていた。「歳、あんた大丈夫?」「大丈夫だよ。じゃぁ、行ってくる。」歳三はそう言うと薬箱を担ぎ、行商へと向かった。 二度目の奉公先を追い出されてから、歳三は石田散薬を売り歩いては道場破りをするという毎日を過ごしていた。(何してんだろう、俺は・・)武士になることを夢見て、剣術をしていたのではなかったのか。それなのにどうしたことだろう、女一人の死でうろたえるなど。今の姿を千代が見たら、彼女は笑ってこう言うだろう。“馬鹿な男だね、あんたは。そういうところに惚れちまったのさ。”だがもう千代はこの世にはいない。彼女が何故死んだのかは解らないが、彼女の死は歳三の心に暗い影を落としたことは紛れもない事実だった。前に進もうとしているのだが、その方法がわからぬまま彼は行商をしていた。「歳さぁ~ん!」「相変わらず男前だねぇ~、薬ひとつちょうだいな。」「あいよ、毎度あり。」行商をしていると、歳三の美貌に引かれて女達が自ずと集まりだしてきては薬を買っていく。中には、軽々しく歳三の身体に触る者も居た。だが千代の一件で、歳三は女性と深い付き合いをすることを止めていた。遊びの内はいいが、深入りすると後戻りできなくなる。歳三はもう、あんな思いをするのは嫌だった。大切なものを失うことにより、感じる深い喪失感を。「じゃぁ、また来てねぇ~」「待ってるからねぇ~」女達がそう言って歳三に手を振りながら、一人二人と去っていった。「今日は沢山売れたな・・」金が入った袋が重たくなっているのを確かめ、歳三はにこりと笑いながら日が暮れようとしている江戸の町を後にした。彼の後を、数人の男達が尾行していった。「てめぇら、いい加減出て来い。」歳三は背後から妙な気配を感じてそう呟くと同時に、彼の周りを数人の男達があっという間に取り囲んだ。「てめぇら、なにもんだ?」「お前が土方歳三か?」「そうだが、てめぇらは?人に名を聞く前に、まずはてめぇの名を名乗りやがれ。」蒼い瞳で男達を睨みつけると、彼らは一斉に抜刀した。「そなたのような優男に、練兵館の看板を任せられるものか!」男の言葉を聞いた歳三は、彼らがこの前道場破りをした練兵館の者達だと気づいた。「へぇ、集団で闇討ちたぁ、卑怯極まりねぇなぁ。丁度むしゃくしゃしてたところだ、相手になってやるぜ!」歳三はふっと笑うと、男達を睨みつけた。それを合図に、彼らは一斉に歳三に襲い掛かってきた。真剣相手に負ける気などさらさらなかったので、歳三はあっという間に男達を倒した。「はん、練兵館の門下生が聞いて呆れるぜ。これに懲りて闇討ちするのは止めておくんだなぁ。」歳三はそう彼らを嘲笑うと、闇の中へと消えていった。「くそう、あの男、いつか痛い目に遭わせてやる・・」歳三に倒された男はそう言って低く唸ると、ゆっくりと地面から立ち上がった。仲間を助け起こそうとした彼は、ふと何かが光っていることに気づいた。「何だ?」彼がその光るものを拾い上げると、それは邪教の神を象ったクルスだった。 夜明け前、歳三は家族が寝静まっているのを確認して家の外へと出た。朝の祈りを捧げようとしてクルスを取り出そうとすると、いつも懐に入れていたそれがないことに気づいた。(畜生、きっとあそこで落としたに違いねぇ!)歳三はすぐさま闇討ちに遭った場所へと向かった。にほんブログ村
2013年06月17日
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「で?俺をこんなところに呼び出して何のつもりだ?」「決まってるじゃないか。」女はそう言うと、そっと歳三の手を握った。「歳さん、あんた切支丹だろう?」耳元でそう女に囁かれ、歳三の美しい眦があがった。「なんでそんな事知ってんだ?」「だってあたしも、あんたと同じ切支丹だからさ。」女はじっと歳三の顔を覗き込むと、そっと彼の頬を撫でた。「そんなこと、信じられるかよ。俺をからかってるんなら、もう行くぜ。」歳三がそう言って立ち上がろうと腰を浮かしかけた時、女が彼の手を掴んで自分の方へと引き戻した。「秘密を知られたくなければ、あたしの話を聞いておくれ。」「わかった。」「そうかい。あたしは千代っていうんだ。ここは人目があるから、どっか他の場所で話さないかい?」「そんなつもりじゃぁ・・」「じゃぁ、どういうつもりだい?あたしに会いにきたってことは、あたしを抱きたいってことだろう?違うのかい?」女―千代にそう言われ、歳三は返す言葉がなかった。 その後、二人は待合茶屋へと向かった。「手が震えてるねぇ、大丈夫かい?」「ば、馬鹿にすんじゃねぇ!」千代にからかわれ、歳三は怒りで顔を赤くした。「ふふ、可愛いねぇ。ますます惚れちまったよ、あんたに。」千代はそう言って笑うと、歳三にしなだれかかった。その日を境に、二人はその待合茶屋で逢引するようになった。「ねぇ歳さん、デウスを信じてるのかい?」「何だ、藪から棒に?」いつものように千代を抱いた後、歳三にそう彼女が聞いてきた。「信じてるに決まってんだろ。」「ふぅん、そうかい。あたしもデウスを信じてる。でも最近こう思うんだよ。どうしてあたしらは迫害されなきゃならないんだろうってね。」そう言った千代の横顔は、どこか寂しげなものだった。「あたしらは人を殺しちゃいないし、物を盗んでもいない・・それなのに、どうしてあたしらは虫けらのように殺されなきゃいけないんだろうね。」「千代・・」「ねぇ、いつか切支丹が生きやすい世の中が来るのかねぇ?そうしたら、あたしらはこそこそと隠れないでお天道様の下を歩けるんだろうかねぇ・・」「歩けるさ、きっとな・・」歳三はそう言うと、千代を抱き締めた。 彼は千代と所帯を持つことなど考えておらず、ただズルズルと彼女との関係を続けていた。そんな中、ある日歳三は奉公先の番頭に呼ばれた。「歳、お前ぇ千代と懇ろになったっていうじゃねぇか。そりゃぁ本当か?」「どうして、そんな事を・・」「今朝千代が暇を出してくれって頼みに来てな。何でもお前ぇさんとの子を孕んだからだって。」番頭はそう言うと煙管を吸い、小気味のいい音を鳴らしながら煙管の中にたまっている灰を火鉢の中へと落とした。「歳よ、正直に今ここで話せば許してやってもいいぜ?」「申し訳ありません・・」千代との関係が奉公先に露見し、歳三はそこから追い出されることになった。「歳、あんたって子は!」「お前がそんな体たらくだとは思わなかったぞ!」日野に戻ると案の定、歳三は兄と姉達から厳しく叱られた。「これからどうすんだい、あんた?その女と所帯を持つのかい?」「そうするよ。男としての責任だからな。」「あたしらは絶対に認めないからね!」信たちから千代と所帯を持つことを反対され、歳三はどうすることも出来ぬまま悶々とした日々を過ごした。 そんな中、千代が死んだという知らせを歳三が受け取ったのは、暑い夏の日だった。「千代が・・死んだ?」「ああ。何でも女中部屋の鴨居で首を吊ってて、丁稚が見つけたんだと。」(俺が、あいつを殺した!) 取り返しのつかぬことをしたと気づいたときには、もう遅かった。千代の死を知った歳三は、罪への意識に苛まれ、食事が喉を通らなかった。にほんブログ村
2013年06月17日
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キリシタン達を役人が惨殺したのを歳三が目撃してから、数日が経った。 歳の離れた母代わりの姉やその夫、村人達は彼らの身に起きたことを知っているようだったが、敢えて口に出さずに農作業や行商などに勤しんでいた。だが、歳三だけは違った。 あの日、彼はキリシタン達とミサに参加する予定だったが、姉に家の用事を言いつけられて遅くなってしまい、危うく難を逃れたのだった。自分がキリシタンであることを、家族の誰にも話していない。天領であるこの多摩という土地柄で、もしそのことが露見したら命を奪われる。多摩だけではない、幕府は鎖国して以来キリシタンを捕らえては迫害し、殺害しているのだ。被害を被るのは自分だけではなく、姉やその嫁ぎ先である佐藤家にも及ぶことになり、この村から追放されることにもなる。だからこそ、この秘密は隠し通さねばならないのだ。「歳、どうしたの?」「何でもねぇよ。」自分の様子がおかしいと訝しがる信の前で慌てて平然と振る舞いながら、歳三はさっさと家の仕事を始めた。歳三は次第に、あの日のことを忘れようとしていた。幾度となく季節が巡る内に、歳三はすっかりあの日のことを忘れていた。「歳、気をつけてね。」「わかってるよ。」月日が経ち、歳三は17となり、江戸にある呉服屋で奉公することになった。「この前みたいにまた番頭と喧嘩して帰ってくるんじゃないわよ、わかったわね!?」「うるせぇなぁ、解ったよ!」信の小言をそれ以上聞きたくなくて、歳三はさっさと家から出て奉公先へと向かった。「おい新入り、さっさとそこ片付けちまいな。」「モタモタしてんじゃねぇよ。」 奉公先の呉服屋で働き始めた歳三だったが、人目をひく美貌に嫉妬した兄貴分の丁稚たちは、何かと歳三を呼びつけて自分の仕事を押し付けていた。そんな彼らに怒らず、歳三は与えられた仕事を黙々とやっていた。「あんた、良い男だねぇ。名前、なんていうんだい?」いつものように庭の掃き掃除をしていると、不意に歳三は一人の女中から声を掛けられた。「土方歳三っていいます。」「へぇ、じゃぁ歳って呼んでもいいかい?」女中は猫のように目を光らせると、歳三の全身を舐め回すかのように見た。 それからというものの、歳三はあの女中の視線をいつも感じるようになった。彼女の視線が意味するものが何なのか、歳三は解っていた。「ねぇ歳、あたしの事どう思ってんだい?」「別にどうも思ってねぇよ。」「嘘をお言いよ、あたしの事を抱きたくて堪らない癖に。」女中は自分から顔を背けようとする歳三の前に回りこみ、じっと彼の顔を覗き込んだ。「あんた、綺麗な顔だねぇ・・宝石のような蒼い瞳に見つめられたら、あたしあんたのために何でもしてやりたいよ・・」まじまじと女中に見つめられ、歳三は顔を羞恥で赤く染めた。「そんなに見るんじゃねぇよ。」「ふふ、何照れてんだい?まぁ、あんたのそういう所に惚れてんのさ、あたしは。」女中はそう言うと、歳三に何かを握らせると去っていった。「おい、待て!」慌てて彼女を追いかけようとしたが、彼女の姿はもうなかった。「ったく、変な女だぜ・・」歳三は溜息を吐きながら、手を開いて彼女が握らせた文を読んだ。そこには、“午の刻にて茶屋で待つ”とだけ書かれてあった。「誰が行くかってんだよ・・」歳三は文を破り捨て、仕事へと戻ったが、何故か女中のことが気になって結局茶屋へと来てしまった。「やっぱり来たんだねぇ。」そう言った女中は、嫣然(えんぜん)とした笑みを歳三に向けた。にほんブログ村
2013年06月17日
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「聖なる神、デウスよ、今日もわれらを護り給え。」「我らに多くの糧を授けたまえ。」 武州のとある民家の中で、数人の村人達が異国の神へ祈りを捧げていた。彼らの手にはクルス(十字架)が握られており、幼子イエス=キリストを抱く自愛の聖母マリアの像が床の間に置かれていた。熱心に村人達が祈りを捧げていた時、突然外から男達の怒号が聞こえたかと思うと、荒々しく扉が乱暴に蹴破られた。「居たぞ、キリシタンだ!」「一人残らず捕らえよ!」村人達は役人達が不意に押し入ってきたことに一瞬虚を突かれたかのように動かなかったが、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。だが彼らは役人が振るう刃の下に次々と倒れていった。骨と肉が断たれる音とともに、彼らの身体から噴き出す血しぶきが叢(くさむら)の緑を汚した。「退くぞ。」「もう誰も居らぬようだからな。」懐紙で村人達の血を拭い、刀を鞘に納めた役人達は満足したかのように惨劇の場を後にした。彼らの気配が全くしなくなった時、叢から一人の少年が出てきた。艶やかな漆黒の髪を高い位置で結び、雪のように白い肌に蒼い瞳を持った彼は、物言わぬ骸と化した村人達を見て絶句した。彼は胸の前で十字を切り彼らの冥福を祈ると、その場から立ち去った。「歳、どこ行ってたの?心配したんだから!」姉の信に怒鳴られ、少年は俯いた。「ちょっと寄り道してた・・」「最近物騒だから日が暮れたらさっさと帰ってくるのよ、わかった!?」「わかったよ・・」少年―土方歳三は姉の言葉にそう頷くと、彼女とともに家へと入っていった。にほんブログ村
2013年06月17日
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