お茶かけごはん と ねこまんま

お茶かけごはん と ねこまんま

対決




 「あのねぇ!うちは何も、奥さんに対して悪徳な事をしようってんじゃない。解約させないなんて、これっぽっちも言っていないでしょ!」

 私はそれには答えなかった。

 「おたくの説明では、試験に合格したら仕事をいただけるということでしたよね。でもどう考えても合格させるつもりがあるとは思えないんですけど。私はプログラマーをやっている友人にも見せたんですよ。そしたら、どうして合格じゃないのか分からないって言われました。」

「だから、解約したければすればいいじゃないですか。その前にこっちが立て替えた分を返してもらいたいって話でしょう。2か月分、こっちで立て替えてますよねぇ。」

「解約したら、私が払った2か月分は返してもらえるんですか?」

「それはできないでしょうよ。いいですか?うちが奥さんと交わした契約は“教材販売契約”ですよ。契約書を見てください。そう書いてあるでしょう。」

「そうですね。」

「だから、うちは教材を売っただけ。試験に合格できるとか、できないとか、仕事がもらえるとか、もらえないとかはうちには一切関係ないんですから。そんな理由で解約するなんてうちにしてみればお門違いでしょ。わかります?」

 ―さあ、おいでなすった。例の“逃げ道”を行使する構えだな。でもこっちだって、生半可なことではわざわざ電話しやしないのだ。
“教材販売”?
ふん。笑わせてくれるねぇ。調べはついてるのさ。
 すでに知識を得ていた私は、男がいくらすごんで見せても、その反応があまりにマニュアルどおりに見えてかえって面白いほどだった。
 そして、受話器に向かってスラリと切り札を切って見せた。

「私もいろいろ調べたんですよ。私とおたくとのこの契約は“業務提供誘引販売”なんですってね。だとしたら、私はクーリングオフが20日間という書類を、いただいていなんですけど。だから契約はまだ成立していないことになるんですよね?」

 これは効いたようだ。声のトーンが一段下がった。

「…だから。いいですか?私はさっきから、解約に応じないなんて一言もいってませんよね?」

「だから。私が言っているのは解約ではなく、クーリングオフです。」

「…分かりました。さっきから言っているように、うちは奥さんを騙そうとか、悪徳なことをしようとか、そういうのでは一切ないんです。そこのところを分かってもらいたいですね。(わかるか!そんなもんっ!!)
 だから、本来なら解約するにあたってお支払いいただく違約金を、今回に限りいただかなくても結構です。(当然じゃっ!)
 ただ、立て替えた分だけは返していただきたい。借りたものを返すというのは人として当然ですよね?」

 盗人猛々しいとはこのことだ。なんであんたから人の道をただされなきゃならない?
 しかし根が善良な私は、一瞬返事に窮した。ここはこれ以上長引かせない方が懸命なようだ。

「とにかく、私としては解約ではなく、クーリングオフをしたいという事をお伝えしたくて電話しました。この件は既に消費者センターに相談してありますので、後ほどセンターからそちらに電話があると思います。これ以上私からお話しすることはありませんので失礼いたします。」

 最後はこちらから電話を切る事に成功した。
 次は消センに電話をしなければ。相手にクーリングオフする意思を伝えた事を知らせるのだ。
 第一、最初に消センに相談した時はクーリングオフのことなど一言も言われなかった。もし悪マニでこのことを教えてもらわなければ、どうなっていたのだろう。そう思いながらかけた電話に出た消センの担当者の反応は、意外なものだった…。


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