そして今日も日は過ぎる

2003/11/10
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カテゴリ: 司法関係覚書
 昨日の衆議院議員総選挙の投票率は60%を下回ったそうですね。私が投票に行ったときには普段からは想像もつかぬほど人がいたので、投票率が上がっているものだとばかり思っていましたが。

 オーストラリア等で採用されている、投票に行かないものに罰金刑を科すという制度の採用の話です。
 このような制度が果たして憲法上認められるか。これはかなり興味深い話であり、憲法学上の論点ともなっています。
 『選挙権は権利ではないか。何故投票しないと罰金を科されるのだ』と疑問に思う向きもありましょう。また少し憲法をかじったことのある人であれば『投票を強制する事は、棄権の自由を侵害し、思想良心の自由(19条)に反するのではないか』と疑問を抱くかもしれません。
 しかし、憲法学上の通説に従えば、必ずしも投票義務制は違憲ではないと言うことになります。
 まずもって問題となるのは選挙権(15条)の行使は権利であり義務ではないのではないかと言う点。確かにこのような学説も有力ではありますが、憲法学上選挙権の行使は権利であるだけでなく『公務』でもあるという考えが一般です。
 つまり、選挙権の行使は、国民が国民代表を選択するための権利ではありますが、一方で国民が選挙人団を構成し、国政を担う代表を選択するという点で『公務』としての側面も有すると言うわけです。このように考えますと、純粋な権利よりもその、公務としての性質から制約がある程度許されることになる。これを受けていわゆる選挙犯罪人の選挙権停止などの制度が正当化されるわけですな。
 かかる観点からしますと、投票を義務付けても、『公務』を遂行するための措置として合理的な制限であり違憲ではないと言うことになるのです。

 ここで留意すべきは、棄権の自由と言っても二つの形態があると言うことです。
 1:投票場に行かない自由。
 2:有効投票を強制されない自由(白票を投じる自由)。
 義務投票制で侵害されるのはあくまで1に留まります。一番国民の内心にかかわる2については侵害されないわけです。
 仮に2まで侵害し、必ず誰かを選択し、いずれかの政党を選択しなければならないとなれば、これは選挙権行使にあたっての人の内心の根本的部分・良心を侵害することになり、違憲の疑いが強くなるわけですが、2の自由が保障されている限り1の自由の侵害は、選挙権の公務的側面から導かれる合理的な制限として、合憲とされることになりやすい。
 以上のように、あくまで通説に従えばの話ですが、義務投票制度もその内容次第(あまりに過重な刑罰を科すとか、2の自由を侵害する制度で無い限り)では合憲になるというわけです。
 今後義務投票製の採用の可否が取りざたされた場合は、以上の点を留意しておくと、より深い理解が出来ることと思います。

 蛇足ながら、棄権の自由と最高裁判所裁判官国民審査制度(憲法79条2項)と棄権の自由についても付記しておきたいと思います。
 昨日、この国民審査も行われたわけですが、実はあれ、2の意味での棄権の自由まで侵害されているのではないかと言われています。
 つまり、国民審査に当たっては『罷免を可とする裁判官』にのみ×をつけるというシステムになっていますので、『罷免すべきではない』『どっちだかわからない』が一緒くたに『罷免を可としない』表として計算されてしまっているのです。判断の保留が出来ないというか、保留した判断が『不可』にいれられてしまうので2の自由を侵害しているというわけです。
 確かにそうです。しかし、選挙権と国民審査では別異に考えるべきなのです。というのも選挙権の行使は、『積極的に代表を選ぶ』行為なのに対し、国民審査では『裁判官を罷免する(争いがありますが判例はこう解釈しています)』行為なのです。

 実際上国民審査制を、裁判官罷免制度と解する以上、2の棄権の自由が審議されていても、合理的な制約であると個人的には解釈しています。





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Last updated  2004/12/23 11:43:03 AM
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剣竜 @ パク・チャヌク監督作品 ocobaさんへ その2つの映画,評価高いよ…
ocoba@ Re:殺人の追憶(03/04) 韓国映画では、パク・チャヌク監督の「オ…
剣竜 @ Re[3]:投票義務制の問題点(11/10) サムスさんへ いえいえあまりお役に立てず…
サムス@ Re[2]:投票義務制の問題点(11/10) 剣竜さんへ ありがとうございます!
剣竜 @ Re:投票義務制の問題点(11/10) ありがとうございます。 随分昔に書いたの…

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