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彼女はもどらない (宝島社文庫 このミス大賞) [ 降田天 ]価格:691円(税込、送料無料) (2018/10/24時点) 先日、『スマホを落としただけなのに』というびっくりタイトルの本を検索していたら引っかかってきたのがこの本。降田天 『彼女はもどらない』なんでも「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した作家さんの受賞後第一作だとか。私はミステリー好きですがあまりこの賞には詳しくないので知りませんでした。amazonで割と高評価だったので図書館で借りて読みました。確かに引き込まれます。続きが気になってページを繰る手が止まらないタイプの本。ですが、登場人物、誰も好きになれない―。チクチクといやな感じがまとわりついてきてそれでも読んでしまう。これ、多分、イヤミス??湊かなえとか最近だと『ルビンの壺が割れた』とか。 明るい、さわやかな読後感を求めて読むものではないですね。《あらすじ》 綾野楓は子供向け雑誌『ヒロイン』の編集者。ある日、広告の小冊子に書いてあった謳い文句で炎上してしまいます。彼女が書いたわけではないのですが目が行き届かなかった、ということで責任を取らされます。担当を外されるんですね。その後、舞い込んできた100円均一の素材で子供用コスプレ衣装を作る親御さんたちについての企画。その第一人者といわれる「ソラパパ」ブログを知るのですが楓は娘のために必死で衣装を作る父親に懐疑的。「自己満足では?」「本当に娘さんを愛しているの?」とうがった見方をします。ちょうど、クレームで疲れていたこともあり、つい、「ソラパパ」のブログに批判的な意見を書き込んでしまいます。それから始まるネットストーカー、身近に迫る嫌がらせ。一体、犯人は???です。さて、あとは恒例のネタバレを含む感想。未読の方はご注意下さい。また、この本はこれくらいのあらすじだけ頭に入れて読んだ方がいい内容です。気になっている方はここでやめて下さいね。************************************ もともと、独善的でちょっとカリカリしている綾野楓。夫とセキセイインコのポムとマンションで暮らしています。子供は「作らない」主義。有能だけれど自分で「意識高い系」的なSNS発信をしています。一方、「ソラパパ」こと棚島は妻が事故(?)で意識不明・寝たきりになっていて一人娘を遠くで暮らす妹と母親に任せている国家公務員。ブログを見ていると「娘の衣装作りに頑張っているほのぼのパパ」ですが、かなりプライドが高く、やられたらやり返すタイプ。中盤までこの二人のネットバトル、に見えます。楓は「ソラパパ」とグルメサイトに投稿の「みーパパ」が同一人物だと察し、それを揶揄する書き込みをします。一方、棚島は言葉遣いやハンドルネームから楓の過去日記やSNSを発見。それを無記名掲示板に曝しあげます。 その後、楓の周辺に起こる嫌がらせ。ストーカー?実際にマンションでゴミが荒らされたり、カラスの死体が出たり。誰??そして、楓のもとには時々、愛人をナイフで刺して服役した母親から電話がかかってきますが、母親と楓の過去に何が??こんな感じです。楓が「ソラパパ」と「みーパパ」を同一人物では、と突き止めるくだりは理解出来るんです。結構、日付を追っていけば「あれ?この人どこかで、、、」ってありますから。でも、棚島が楓の過去日記とSNSを見つけるところ、こんなにうまく行くかな?と思いました。実は私は夫が元部下からもらった「ブログをしているので見て下さい。これ、アドレスです。」という紙をなくしてしまったために探したことあるんです。他人様のブログ。軽く考えていました。20代の女性、住んでいる都道府県、ペットの種類と名前、彼女の趣味、つけそうなハンドルネームが分かっていたんです。簡単だよね、とタカをくくっていました。結果 → 無理でした日本って広い! 人口多い!って初めて思いましたよ。まあ、沢山出てきました。彼女と同じ種類のペット、同じ名前をつけている20代女性のブログがわんさか。地域を絞っても駄目だったですよ。なのでこのあたりはうーん、、、、、、でしたね。(ついでに書きますが、友人のTwitterを教えてもらったとき、アカウント名だけだと同じものが山ほどあってこれも駄目。結局、本人にアカウントアドレスを教えてもらいました。妹のFacebook、本名だからいいと思ったら同姓同名がこれも何百人。夫と同姓同名の人はFacebookに何十人もいることが判明しました。)そして、実は綾野楓の夫 悟と棚島が同一人物。楓は実は妻ではなく「愛人」だったと分かるところは確かに驚きましたけど、はあ?????この物語は30人くらいの村人で構成されているのか?と思いましたね。○○の○○が実は○○の○○で、、、、、、が多すぎ!!!!!!!!!!!!楓に子供のコスプレ企画を持ち込んだ人が実は悟の知り合いで彼の妻 深雪に横恋慕していて、、、、ってうーん、、、。人間関係、こみ入りすぎ。小説は現実より「偶然」を減らさなければリアリティがないと言われるんです。芥川龍之介も言っているでしょ!彼もミステリー書いているからね。(谷崎潤一郎などあの頃の作家は探偵小説好きなんです。)結果、残念なことにSNSの投稿くらいで人間の全てが分かるわけではない揶揄されている日記が魂の叫びである場合があるという重たいテーマがかすんでしまっています。また、棚島の人物造型、その妻 深雪のキャラクターなど今までにないものがあっただけにもったいない印象。確かに驚かされましたし、半日で読み終わるほど没頭出来ましたがなんかなあ、、、、な一冊でした。
2018.10.24
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蜷川幸雄80周年記念 彩の国シェイクスピア・シリーズ番外編 NINAGAWA × SHAKESPEARE LEGEND 第2弾『ハムレット』 [ 藤原竜也 ]価格:5950円(税込、送料無料) さて、買ってしまいました。蜷川幸雄が80才の記念に、藤原竜也と2度目のハムレットということで話題になった舞台です。オフィーリアが満島ひかり、その兄レアティーズを実弟 満島真之介が演じました。叔父 クローディアスを平幹二朗、母 ガートルードを鳳蘭、ハムレットの親友ホレーシオを横田栄司。 こう書くと本当にそうそうたる顔ぶれなのですが、、、、、正直、舞台としては11年前の『ハムレット』の方が迫力があったな、と思いました。あの、檻の中で演じるハムレットですね。WOWOWでは放送されたのですが、DVDにはなっていません。これは当時、蜷川幸雄が藤原竜也の喉を考慮して、台詞を一部、カットさせたためでしょうね。シェイクスピアの舞台の中でももっとも長くて難易度の高い『ハムレット』。当時、最年少ハムレットだった藤原竜也の喉が潰れるのでは?と心配されたそうです。必死で覚えた台詞を長期の公演を考えてカットされてしまった、藤原竜也はとても悔しかったそうです。それは演出家も同じでしょうね。きっとそれで形として残すことを許さなかったのだと思います。完璧主義の蜷川幸雄らしい判断ですね。オフィーリアが鈴木杏、フォーティンブラスが小栗旬だったのですから、売れるはずの作品だったと思いますが。 今回は「原点回帰」がテーマだったのか、舞台装置が一変。古い日本家屋になっていました。『ハムレット』が紹介され、舞台にかけるため練習され始めた当時の日本を思い出すためだそうです。そうなると芥川比呂志より前の時代になるのでしょうか?(芥川比呂志の舞台映像も観たいものです。残っているのでしょうか?)この舞台装置の構造のせいか、音響が悪かったのか、どうも台詞が聞き取りづらくて仕方なかったです。 さすがに平幹二朗は存在感がありますし、藤原竜也、横田栄司は安定していますし、満島ひかり・満島真之介もよかったのですが脇を固める若手の俳優さんたち、発声がちょっと、、、、。特典映像を観たのですが車椅子で、酸素吸入をしながらの指導、駄目出しをする相手は9割が藤原竜也だったようで、他の部分には力を注げなかったではないか、と思わせられるメイキング映像でした。 満島ひかりの立場から撮られたドキュメンタリーも観ましたが、注意をされないことに戸惑っている様子が映っていて、ああ、、と思いましたね。 一般的に、最初に出る時には駄目出しをされないらしいのですが、特定の相手(寺島しのぶ、藤原竜也、西島隆弘など)には1回目からガンガン駄目出しをした蜷川幸雄。駄目出しの多さ = 期待値の高さという風に見えます。名指しされての出演だった満島ひかりからすれば、「え?」だったでしょうね。それでもさすがはプロ。今まで観たオフィーリアの中で、一番、木から落ちて川に流れていきそうなオフィーリアでした。正気の時とは違い、狂ってからのオフィーリアはウィッグも違いました。つやがなく、ぼわっと広がった赤みがかったウェーブのロングヘアー。まるでラファエル前派の女性像(ロセッティの妻 エリザベス)みたいでよかったです。焦点が定まっていない眼が本当に怖かったです。松たか子も鈴木杏もそれぞれよかったのですが、ひっくり返って足をバタバタさせて、すごく元気。川に落ちたら泳げそうに見えるんですよね。松たか子・鈴木杏が「動」なら、満島ひかりは「静」の狂気。松たか子は映画『告白』や舞台『sisters』のように静かな狂い方も出来るのですが蜷川幸雄が選んだのはこの見せ方だったというのは面白いですね。 満島ひかりのオフィーリアで思い出したのが、ある人の思い出話。昔、仲代達矢・平幹二朗・市原悦子の『ハムレット』を観に行ったそうです。なんだか「反則」っぽいキャスティングの凄さに聞いていて笑ってしまいそうになりましたが。その人が市原悦子のオフィーリアのことを「川に落ちたらクロールで戻ってきそうなオフィーリアだった」と表していました。声が高くてきれいで、演技がものすごく上手い女優さんですが、「流れていきそう」に、はかなげに見えるかどうかは別問題みたいです。
2016.06.27
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ボーイズ・ドント・クライ [ ヒラリー・スワンク ]価格:1000円(税込、送料無料)これは1993年にアメリカで実際に起きた殺人事件を元にした作品。被害者の名前からティーナ・ブランドン事件とも言われています。劇中、性同一性障害者を演じたヒラリー・スワンクの名演が有名です。 アメリカ中部の田舎町に暮らすティーナ・ブランドンは女性の体に男性の心を持つ人物。ブランドン・ティーナと名乗り本名を逆さまにして、男性として暮らす事を望んでいます。精神分析医も性転換を薦めたと言うから、本当に性同一性障害だったのでしょうが、手術には高額な治療費がかかりますし、ホルモン注射もしかり、、です。仕方なく、胸にさらしを巻き、髪型・服装・話し方などで出来るだけ自分の内面に近いように生きていました。 誰も知らない場所で、男性として暮らしたいと思い、隣町へ行きます。(これ、さすがにアメリカですね。日本なら隣町へ行くくらいでは身元を隠すなんて出来ません。)ある酒場でであったラナという女性に恋をし、相手からも好意を持たれるのですが、昔、手を染めた犯罪が元で警察に捕まります。(映画ではスピード違反、現実では小切手詐欺です)肉体は女性ですし、出生届も本名も「女性」。警察では女性と言うことで女性用の鑑別所に収監されます。そこに保釈を求めてやってきたラナ。事実を知ってしまいます。彼女は、同情・愛情でブランドンを受け入れるのですが、偏見の激しいアメリカの田舎町のこと、周囲が黙っていません。ラナの母親の愛人ジョン、その友人トム(どちらも元犯罪者)はブランドンを罵り、暴行を加え、警察に言わないように脅すのですが、怪我をして、屈辱と悲しみでズタズタになったブランドンにラナは病院と警察へ行くように説得します。当然です。病院で検査をされ、そこで暴行の事実が分かれば、病院側も警察に行くように説得しますしね。しかしながら、これも田舎町のこと。「警察」といってもこの郡は「保安官」なんですね。彼も性同一性障害者を全く理解せず、ひどい質問を浴びせ、なんと、犯人たちに警察にブランドンが来たことを知らせます。犯人たちは逆ギレし、ブランドンとブランドンに家を貸していた人たちを射殺してしまうのでした。。。。 細部については、ラナ(実際のラナ)が「事実と違う!」と訴えたり、アカデミー賞の授賞式でのヒラリーのスピーチにブランドンの母親がかみついたり、いろいろとあったようですが、深く考えさせられる映画でした。 どの俳優もすごく上手いし、この役を演じるために髪を切り、染め、ボイストレーニングをし、実際に「男性」として生活したヒラリー・スワンクの女優魂もすごいです。 ただ、、、、本当に辛い映画で、私はブランドンが暴行を受けるシーンではあまりのことに涙が出てとまりませんでした。 性同一性障害について詳しい人に言わせるとこの映画はその障害と同性愛の区別が曖昧であるなど、いろいろと難があるそうですが、世界に一石を投じたという意味でも貴重な作品だと思います。 それにしても、、、男性というのは本当に「弱い」ですね。自分たちが男性だと信じていた人物が肉体的に女性だったという事実、これが受け入れられずに性的暴行から殺人にまで至ってしまう。 これ、もし男女が逆だったらこんな事件は起きません。女性なら、まず相手に話を聞くことから始めますよね。(実際に、二人の交際に猛反対していたラナの母親もブランドンが暴行を受けた際には同情し、警察に行くように薦めたそうです。) 犯人たちは事件直後も現在も全く反省していないようで、トムは我が身かわいさでは司法取引をするわ、ジョンは無罪を訴えるわ、潔ささえ持ち合わせていないのです。ブランドンの存在が彼らのアイデンティティーや価値観を揺さぶったのでしょうが、それでこういった蛮行に及ぶなんてどれだけメンタルが弱いんでしょうね。ひとりの人間が暴行され、殺害されただけでなく、全く無関係の人間が3人殺害されたのにもかかわらず、未だに死刑が執行されていない、アメリカの暗部を覗いたような気にさせられる映画です。(適切な対処をしなかった保安官に対しては処罰があったようですが)タイトルの『ボーイズ・ドント・クライ』は「男なら泣くな」という意味の慣用句らしいです。日本でもよくいいますよね。「男の子なんだから泣いちゃだめだ」とか。監督は「男の子でも泣いていい」という反語的な意味でつけたのだそうです。泣いてもいい、そんな些細なことはどうでもいいから、本当の意味で強くなっていただきたいです。
2016.05.07
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64 ロクヨン DVD-BOX [ ピエール瀧 ]価格:9149円(税込、送料無料) さて、今現在映画館で前編・後編が上演されている佐藤浩市主演の『64(ロクヨン)』。来週の水曜日、観に行く予定です。それに先だって以前、一度読んだ原作の単行本を再読。去年 放送されて絶賛されたドラマ版を観てみました。うーん、これは、うなるほどよく出来ています。一部、キャスティングと台詞に言いたいことがありますが、素晴らしい出来映え。さすがは最近、報道は、、、なのでドラマにかけているNHK。映画版は今のところ、キャスティングと予告映像しか観ていませんので感想は来週、書いて比較しますが、分かっている部分だけ、触れさせて頂きます。 さて、まず原作について。横山秀夫の警察小説・ミステリーです。短篇も数多く優れた作品を発表されていて完成度の高い本を沢山出していらっしゃいます。これは『陰の季節』から始まるD県警シリーズの初長編。細部の積み重ねで現実味を出し、複雑な事柄を簡潔に説明しつつ、巨大な建築物の様な大作になっています。深いテーマ、描き混まれた細部、人物設定。引き込まれますね。647ページ、登場人物 150名以上、分かりにくい警察組織で入り乱れる人間関係―。これで辟易、読む気を失うという方はとりあえずウィキペディアで登場人物一覧をプリントアウトして読書されることをお勧めします。そうしてでも読む価値はあります。また、映像作品未見でもキャスティングを見て読むのも一興。一定以上の年齢の方ならドラマ版・映画版のキャスティングを観れば、重要な役は自然と分かるはずです。イメージを当てて読むと読みやすいのでお勧めします。特にドラマ版。なんだそれ!!と怒りたくなるのは主人公の娘 三上あゆみ役が入山杏奈 というところくらいです。誰それ?と思い検索したらAKB48とかいう歌も知らないアイドルグループの一員らしいです。これが唯一のミスキャスト。(今は映像作品で不美人の人材が不足している、なんていいわけは通用しません。劇団に個性的な風貌の方は沢山います。メイクでどうとでもなる世界です。視聴率目当てで作品の質と整合性を損なっているのは自覚するべき問題です。)《あらすじ》 D警察の広報官 三上。一課と二課で実績を上げた優秀な刑事だったのですが、なぜか、広報に異動させられます。以前にも一度、配属させられたことがあり、それは三上にとって負の歴史になっています。情報漏れがあるとすぐに広報出身が疑われる、、、。それを払拭するために必死に業績を積んできたのです。刑事部に戻りたい、、、そんな思いで仕事をしていますが、もともと硬派で努力家。広報にいるからには刑事部にいたことを利用して現場意識を持ち、上にたてついて仕事をしていました。マスコミからも期待されていたのですが、一人娘のあゆみが家出したことで一変します。 三上の妻 美那子は元婦警。ミス県警とあだ名されるくらいの美人。三上は「鬼瓦」と揶揄される外見なので美女と野獣、とささやかれていることは三上も承知しています。一人娘のあゆみは、三上に似ました。幼少期は家族関係は良好でした。それが年頃になるとあゆみは三上に似た顔を恥じるようになり、高じて病気になってしまいます。身体醜形障害。第三者が観れば「ごく普通」の外見なのに本人だけが「醜い」と思い込み、引きこもりになったり、顔を隠したりする心の病です。カウンセリングを受けても効果がなく、父親を責め、母親の美貌に嫉妬。「整形したい。貯めておいたお年玉を使うから同意書にだけサインして」と言います。怒った三上には「あんたは男だから醜くてもいいわよ!私は女なのよ!」と激昂。三上と大喧嘩になり、三上はあゆみの頬を叩いてしまいます。その果ての家出です。 特別に公開せず、探して欲しい。その方が娘も帰って来やすいだろう―。そんな当然の親心で上司に頼んでしまったために、娘を人質に取られた形で牙を抜かれてしまいます。 県警の上層部は殆どが昇進と保身しか考えていない人間ばかり。東京、と呼ばれる警察庁も同様です。上の顔色ばかりを伺う上層部に、なにも言えず、何も知らされぬままこき使われる三上。実情を知らない、「上」からの命令にマスコミとの板挟み。 自宅では妻の美那子が娘の失踪にまいってしまっています。かかってきた無言電話を「娘からのSOS」と思い込んでいます。いつ鳴るか分からない固定電話を見つめて外出もしない始末。食材は宅配に頼むほどの徹底ぶりです。妻を見守るしか出来ない三上。娘の生死すら分からない状態のため、同じ年頃の身元不明遺体が出る度に各地に出向く三上夫婦。仕事にも支障が出てきます。事情を知らないマスコミは変節した三上に苛立ちを隠せません。ある交通事故の加害者を匿名報道したことで火がつき、広報VSマスコミの闘いが始まります。そんな中、警察庁長官が視察に来ることが決まります。目的は「64(ロクヨン)」という符丁で呼ばれる昭和64年に起きた未解決の案件、雨宮翔子ちゃん誘拐殺人事件の遺族を慰問するためです。身代金は奪われ、被害者は殺害され、犯人は野放しという、悲惨な事件。長官の視察は「時効直前、情報収集の呼びかけ」という一面もあります。記者たちへの要請やスケジュール調整、質問の内容などマスコミとの連携は必要不可欠。しかし、それは危うい状態。14年前、誘拐事件の追跡で「64」に多少の繋がりがある三上は上司の命令で遺族 雨宮宅への慰問を打診しますが、こちらも父親に断られてしまいます。まさに四面楚歌。そこに三上の高校時代の同級生で、同じ剣道部に所属していた二渡(現 D警 警務課調査官)が動き回っていることが分かります。レギュラーだった三上とは違い、二渡は万年補欠。それが今では二渡は「警視」で「影の人事部長」と言われるほどの実力者。人には分からない確執があります。彼が「64」の関係者の周囲を嗅ぎ回っていることで、事態は更に混乱していきます。 どうして遺族は長官の慰問を断るのか?一体何があったのか?二渡が探している「幸田メモ」とはなにか?マスコミとD警 広報課の溝は埋まるのか?「64」の犯人は誰なのか?無言電話の相手は本当に娘のあゆみなのか?という謎に前半は引っ張られます。後半には「64」を模倣したと思われる誘拐事件も発生し、報道協定を巡って加熱する記者会見や犯人の追跡劇もあります。非常に「濃い」内容です。 このドラマ版、なにが良いと言って前述したとおり、娘役以外は、見事なキャスティングです。三上役がピエール瀧、妻の美那子役が木村佳乃、二渡が吉田栄作、三上が尊敬する参事官 松岡が柴田恭兵、被害者の父親 雨宮が段田安則、模倣事件の被害者が尾美としのり。そのほか、広報課のメンバーたちも警察内部も原作のイメージを損なわない人選です。本当に、娘役は悔やまれますね。言い訳のようにカウンセラーが「顔立ちが整った人ほどなりやすい病気」などと言う台詞がありますが、そんなデータはありません。そもそも、「本人がどう思っているか」が問題の病気なので。こういう病気に対して誤解を招く表現をマスメディアがするべきではありません。外見がきれいな子なので、原作のままの台詞があると違和感が半端ではありません。たとえば、三上の上司 赤間があゆみの手配写真を見て「本当にそっくりですね。かわいくて仕方がないでしょう」というシーン。え??誰に???です。妻の木村佳乃のこと??でも、それだと三上が記者たちに外見を揶揄されてぐさっと来るシーンの意味が分かんなくなりますが。手練れの「刑事」が外見を貶められたくらいで普通、あの反応はないです。 それ以外は本当に皆さんいい仕事をされています。映像、カメラワーク、構図、構成。脚本も原作の複数あるテーマを絞り込み、登場人物を極力減らし、引き締まった作りにしてあります。600ページ以上、文庫本だと上下巻ある作品を5回にまとめた力業に拍手。 魅力のある場面が満載、名台詞満載の原作を大胆にカットできるのも映像作品ならではの強みを活かしたやり方を心得ているから。原作では広報課の苦労や現実味を出すためにD県警と隣接するF県警の不祥事が連発し、ネタ元を巡る疑心暗鬼や記者との攻防に多くを割かれていますが、そこはタイトにまとめてあります。 地元マスコミを代表する主軸となる記者である 東洋新聞の秋川を永山絢斗が演じているのですがこれがまたいいんです。斜に構えているようで、素直な部分もあり、記者魂もあり。映画版では兄の瑛太が演じるようですが、こちらはドラマ版での秋川像を踏襲したという事でしょうか??映画の制作発表は2015年2月、ドラマは2015年4月から放送されたので詳細が気になりますね。大幅にカットした部分はありますが、主要な台詞、場面、テーマはきちっと押さえてあり、原作ファンも、言いたいことはありつつも楽しめる工夫が沢山なされています。これは2015年度 映像作品の収穫ですね。こういう作品がもっと海外に紹介されるといいんですが、、。 ところで映画版はこの三上が佐藤浩市というちょっと格好良すぎる配役。彼に不釣り合いな妻なんて、うーん、、、、夏川結衣ってかなりお似合いじゃないですか。ここは三上をつり上げた分、美那子も檀れいとか宮沢りえとか中谷美紀とか水野真紀、吉瀬美智子など40代前後の光り輝く「美女」を持ってきて欲しかったところ。あゆみ役は芳根京子という子で、かなり頑張ったチョイス。二渡は仲村トオル、キーパーソン 松岡参事官は三浦友和という手堅い布陣です。ただ 広報課の紅一点 美雲が榮倉奈々というのはちょっと退きました。ドラマ版の山本美月の方が原作のイメージ通り。若き日の美那子に少し似ていて、典型的な美人というところ。変にパブリックイメージがついていないところがいいです。榮倉奈々が男社会で女性一人となると『図書館戦争』や『99,9』を彷彿とさせて軽くなります。こういうキャラに「正論」を振りかざされると観客は「またか!」「うざっ!!」と感じますしね。難しいです。ドラマ版の完成度が高いだけに映画は比較されて厳しいと思いますが、その分 豪華すぎるキャスト。難役が多く演技派が勢揃いしていて好きな俳優が沢山出ているので、観てきます。幸い、前編はすこぶる好評のようです。 横山秀夫が元記者だけに記者会見のシーンの迫力は原作もドラマも圧巻です。さて、この小説は実際に起こった事件が元になっているとか。2002年に時効を迎えた日本で唯一 未解決になってしまった営利誘拐事件。群馬県で起きた通称「功明ちゃん誘拐殺人事件」です。横山秀夫が記者の時に起きた事件であり、細部も似ていることからモデルになったのでは、といわれています。これを知って、こんな誘拐事件に時効なんて存在してはならないだろう、と改めて思いました。
2016.07.17
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【総額2500円以上送料無料】連続テレビ小説「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック/TVサントラ さて、昨日はテレビのあるところにいたのでリアルタイムで観ました。「あまちゃん」面白いですね-。 すっかりステージママになった春子(小泉今日子)、プレッシャーを感じつつも、衣装が出来てよろこぶアキ。太巻が苦々しげにつぶやいた、「あの薄汚いシンデレラの娘!」これ、35歳以上限定で分かるネタでは???私が中学生の時、大映ドラマ『少女に何が起こったか?』で小泉今日子が演じるヒロインに石立鉄男が演じる男がお約束のように浴びせていた台詞のパロディーです。 (^o^)今考えるとこのドラマのタイトルだってハリウッドの名作映画のパロディーですけど。 (^_^;)いやー、懐かしすぎて大笑いしました。 これの台詞はアレンジされて『マンハッタンラブストーリー』に出てくる劇中劇でも使っているので、セルフパロディにもなるわけですが。(「この薄汚い泥棒へび!」でした?) それにしても、宮藤官九郎も堤幸彦もこういう大映ドラマのパロディーを使いますが、若い方には面白いのかな??? と不思議に思っています。親の世代だけが大受けして、ぽかーんとしているのでは????まあその部分だけ分からなくても面白いですけどね。 (^_^;) さて、CDデビューは決まったものの、アキ親子を厄介払いしたい太巻はこの一曲が1万枚売れなければ解雇なんて胸算用をしている、厭な展開です。恩人とその娘にこの仕打ち、、、、、。まあ、いますけどね、こんな人。 (^_^;)古田新太さん、不気味で気持ち悪い役がうまくて観ていて感心します。このドラマ、本当にみんなはまり役ですね。
2013.08.01
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