動く重力

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エーテルとグラタン(完)

エーテルとグラタン(完)

<四日目_朝_楓>



 また、朝だ。
 私は昨日の夜更かしのせいでまだまだ眠かったのだが、気合で何とか起きた。長岡にも遅刻するなといった手前、私が寝坊するというのも変な話だ。
 そういえば、今日は夢を見なかった。少年は本当にいなくなったらしい。短い期間だったとはいえ、いないと寂しくなるものだ。

 集合場所の公園には私より先に長岡が来ていた。
「長岡、今日は早いね」別に今まで遅かったわけでもないが、昨日の出来事の次の日なので、私はそう言った。
「いや、今日は朝から警察から電話があって」
「電話?」
 話によると、コンビニ強盗を捕まえた件で長岡が表彰されるという事だった。長岡にしてみれば表彰はいいから寝させてくれというところだったんだろうが、警察はしっかりこいつを表彰してくれるようだった。長岡は一応、私の命の恩人でもあるので、表彰してもらうのはいい事だ。

「そういえば長岡さ」私は長岡が命の恩人である事を思い出し、長岡に聞いておく事があるという事も思い出した。「長岡は私の命を助けてくれたわけよ」
「まあ、そういう風に仕向けられただけなんだけどな」
「だからさ、なんか私にして欲しい事は無い?」
「俺が、楓に?」
 うーん、と考える長岡。何か突拍子もない事をふっかけられたらどうしようと思いながら、出来る限りは頑張ろうと思った。何と言っても命の恩人なのだ。
「あ、じゃあさあ」長岡は私に何をさせるか決めたようである。この気軽さから見て私に無理難題をやらせようとは思っていない事が分かり、内心ほっとした。「スリープスのアルバムを貸してくれよ。『エーテル』が入ってるやつ」
 私は少し驚いた。強盗との死闘の見返りがそんな事でいいのだろうか?
 私の思った事を理解しているように長岡は言った。
「あのとき俺が頑張ったのは自分のためだったから、楓に何かしてもらう事自体おかしいと思うんだよ」
 まあ、長岡がそれでいいんならいいだろう。
「分かった。『エーテル』が入ってるやつね。お安い御用ですよ」
「そうか、ありがとう」
 気になる事は、何でこいつが『エーテル』を知ってるかという事だ。私は長岡に話した事はない。
「『エーテル』なんてどこで知ったの?」
「いや、少年とちょっとね」
 私に詳しく教えるつもりはないようだ。まあいいだろう。今はそんな事より学校へ急いだ方がいい。私が少し遅れてきたせいか、ぎりぎりの時間だ。
「長岡、時間」
「分かった。走ろう」
 こうして私達はまたいつも通りの生活に戻っていく。
 ただ私は、できればいつも通りの生活に、遅刻を防ぐために走るという項目は入って欲しくない、と切に願うのだった。

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