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中央葡萄酒は、1923年に初代・三澤長太郎氏が勝沼に創業したのが始まりです。
1959年に設立されたのが中央葡萄酒株式会社で、三代目にあたる三澤一雄氏が現在の土台を築き、ワインブランド”グレイス”が誕生しました。
”日本のワインで奇跡を起こす-山梨のブドウ「甲州」が世界の頂点をつかむまで”(2018年7月 ダイヤモンド社刊 三澤茂計/三澤彩奈著)を読みました。
伝統ワイナリーの夢を継ぎ世界屈指のコンクールで最高賞を連受賞した、中央葡萄酒株式会社の革新的な父娘の挑戦を紹介しています。
ぶどう栽培からのワインづくりをモットーに、従来からの2haの農園に加えて、新たに8haの農場を拓きました。
1980年には12万本のワインを貯蔵する熟成庫を地下に設け、1983年に国内初の原産地呼称ワイン=勝沼町原産地認証ワイン第1号を醸造しました。
1996年に新しい甲州種ぶどうを生み出すため、毎年500粒の種蒔きからの実生栽培に入りました。
1998年に日本初の国際ワインコンクールで最優秀国産ワインのトロフィーを受賞し、計4大会でトロフィーを受賞しました。
2002年にワールド・アトラス・オブ・ワイン第5版に、グレイス甲州が記載されました。
2005春にはぶどうの植栽が全て完了することとなり、ブドウ栽培に力を入れています。
ただし甲州種については、一部の農家に限定して原料ぶどうの契約栽培を実践しています。
ワインの香りや味わいはブドウが決定づけるとの確信があり、醸造に関しても出来る限りナチュラルなワイン造りを信条としています。
現在、4代目の三澤茂計さんが社長に就任し、2007年から長女が醸造責任者として腕を振るっています。
三澤茂計さんは1948年山梨県甲州市生まれ、東京工業大学を卒業し大手商社勤務を経て、1982年に中央葡萄酒株式会社入社、1989年より代表者を務めています。
2009年に海外展開を目的とした甲州オブジャパン=KOJを設立し、甲州という品種や産地の認知向上に貢献してきました。
2014年に主力銘柄”キュヴェ三澤”で、世界で最も権威があるといわれるワインコンクール、デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード=DWWAで、日本で初めて金賞を受賞しました。
三澤彩奈さんは現在、中央葡萄酒株式会社取締役栽培醸造責任者を務めています。
マレーシアのワインイベントを手伝った際、自社ワインを愛飲してくれていた外国人夫婦に感激してワイン造りの道へ入ったといいます。
ボルドー大学ワイン醸造学部=DUADに入学し、卒業後、更にブルゴーニュの専門学校にも通い、2006年フランス栽培醸造上級技術者資格を取得しました。
その後、家業に戻り新たな知見を吸収しつつ、ブドウ栽培や醸造を父とともに見直してきました。
そして、スパークリングワインやロゼワインなど新たな仕込みにも挑戦し、DWWAでは2014年以来、5年連続金賞を受賞し、2016年にはスパークリング部門でも最高賞を受賞しました。
15年前、新たに拓いた三澤農場は、勝沼ぶどう郷駅から40キロ離れた県北麓に位置しています。
ブドウ畑は南に望む富士山をはじめ四方が山に囲まれた、いわば盆地山梨の縮図でもあります。
東には深田久弥の終焉の地・茅ヶ岳があり山麓は広大で、EUにも輸出している”グレイス茅ヶ岳・甲州”の重要な産地です。
北には八ヶ岳があり冬の八ヶ岳おろしは冷たく厳しいため、植え替えたばかりの若木となれば凍害から守るためにブドウ樹に藁を巻きつけます。
西に仰ぐ南アルプスには3000m級の山々が連なり、西から流れ込む低い雨雲を遮ります。
この地の日照時間が日本一である所以であり、標高700mにあり、夏には爽やかな南風が心地よい冷涼感をもたらします。
ブドウは、その土地の条件や気候によって特有の成分が育まれ、ワインの出来栄えは、ブドウ個性の良し悪しに左右されます。
そして、栽培と醸造に関わる人が存在し、ワインにその土地独特の風味が醸し出されます。
世界各地にある銘醸地で必然的に良いブドウが生まれるわけではなく、恵まれた条件を備えていることに加え数十年、数百年の努力の積み重ねが背景に存在しています。
ワインは商品としての存在価値が第一ですが、伝播する文化の側面をもち合わせています。
こうした合目的性と不変性の間をさまよいながら、ワインの魅力に取り憑かれ深く掘り下げようとしてきました。
1975年からはじまる良い食品づくりの会では、伝統に基づき本物への希求を続け、食の4条件と4原則を掲げ、異業種でありながら互いに切磋琢磨してきました。
4条件は、なにより安全、おいしい、適正な価格、ごまかしがないであり、4原則は、良い原料、清潔な工場、優秀な技術、経営者の良心です。
甲州というワインは甲州という品種のブドウから造られた白ワインであり、コーカサス地方に発祥したワイン専用のブドウ品種の系統をもっています。
シルクロードを通って中国大陸を渡り日本へたどり着いた、ミステリアスなブドウです。
甲州という品種は、4ヘクタールの自社畑から試行錯誤の末に結実した、小房で糖度の高いブドウです。
このブドウからは、今までの甲州とは格段に違うワイン用ブドウの味わいが感じられました。
本書は二部構成で、第1部”成長前夜”は、父・茂計さんにより、甲州の栽培と醸造を工夫し、産地として国内外でPRすることに腐心してきた軌跡について書かれています。
第2部”飛躍のとき”は娘・彩奈さんが、シーズンオフに南半球のワイナリーで武者修行して鍛えられてきた様子などが書かれています。
そして、海外で学んだ科学的な栽培・醸造手法の実地にどう生かしたか、醸造家・小売店・消費者それぞれのワインの見方の違いなど、日ごろの気づきも含めてまとめています。
父の書斎で、ドイツ生まれでイギリスの経済学者であるF.アーンストーシューマッハーの”スモール・イズービューティフル”という言葉を大切にしているといいます。
はじめに 三澤彩奈
第1部 成長前夜 三澤茂計/第1章 “二流"の悔しさを忘れない/第2章 失敗が照らした新たなる道/第3章 貪欲に吸収する
第2部 飛躍のとき 三澤彩奈/第4章 「夢」を追い続ける/第5章 新たな挑戦を恐れない/第6章 さらなる高みをめざして
おわりに 三澤茂計