おい、板前奉行のIちゃん之助、この鍋はなかなかの具じゃなぁ。ほーう、タラとな。まことに持って大きなタラじゃのう。この面構えはなかなかのものじゃ。ほーう、ハマグリもカキもあるのじゃな。まことに持って用意周到じゃ。大儀であった。

さて、今宵の鍋奉行は誰じゃ?おうおう、信州回り役人のH郎か。そーれ、仕切ってみよ。
ふむふむ、初めは固いものから、とな。ニンジンだけかえ?色気がないのう。ちと、われに出汁をよこせ。うん、これもなかなかじゃて。塩分控えめとは健康大目付も良い仕事をしておる。
おっ、タラを放り込んだのう。何?アクを取ってほしいとな?今宵のアク代官は誰じゃ?何?このかっちゃんにアク代官をしろと!ええい、無礼な奴じゃ。腹を切れ!ん?タラの腹を切って白子を出したとな?こやつ、なかなかの味じゃのう。
おい、そこで何をしておる!野菜を入れる前から豆腐は野暮じゃぞ。あーあ、スが入ってしまうではないか。やっぱり後輩S兵衛か。町方風情の食生活が見えてくるようだわ!無礼な奴じゃ!腹を切れ!ん?酒を注ぐから許せとな?今回ばかりは目こぼしして進ぜよう。そちも飲むか?何?杯がないじゃと!アク代官のアク取りレンゲで飲めばよい。
おやっ、そうこうしているうちに、もう鍋が空ではないか!何?具が切れた。んー、んー、もう許さん、腹を切れ!何じゃと?赤ナマコを切ったと?どれ、んー、なかなかオツなものじゃ。褒めてつかわす。
こらぁ!赤ナマコを鍋に入れてどうする!この酔っ払いが!腹を切れ!ええい、酒じゃ酒じゃ、酒をこれい。はぁ?酒も切れたか。