2002/04/08
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
人称代名詞/野坂昭如
 小説家の書くことを信用してはいけない。後書きに「自分を見つめるしかないのだ」と著者は書いてはいるが、それでこの小説に書かれていることが全て事実だと信じてはいけない。素直に信じれば、祖母に死んでもらうために致死量の睡眠薬を飲ませたことと、著者は自分そっくりの人形とある時入れ替わって、今生きている野坂昭如は肘のところがスポンと取り外しが出来る人形であるということを同時に事実と認めなければいけなくなる。
 天皇のことを書いている最終章「あなた」を除けば、「俺」「お前」「彼」「ぼく」の各章は野坂昭如自身の物語と読めるが、決してそうではない。一人称で書かれた物語は全て作者の話だという安易な思い込みが、私小説というジャンルに対する多くの人の誤解を招いている。小説の中で太宰治がいくらダメ人間を演じてみても、原稿を仕上げられる程度にはまともな神経を彼も持っていたのだ。
 第三章「彼」と、吾妻ひでお「夜の魚」などの作品を並べてみる。そう違いはないように見える。夢と妄想と現実の追憶と記憶の混乱とによって書き出された世界は、根底に事実があったとしても、それらを読み解かず素の形で味わう方が楽しい。

野坂昭如「人称代名詞」(講談社文芸文庫 在庫切れ)
2002/04/08 16:43:55

真名仮名の記/森内俊雄
 某双子とは関係ない。
 藤枝静男「悲しいだけ」で、主人公の骨董品への愛着、彼の場合は主に土器、陶器だが、それを読んで、おじいちゃん可愛い、と思った。こちらの場合主人公が追い求めるのは筆、書である。
「酒を断って六年」とあるから、「氷河が来るまでに」の頃と比べると大分作者の気分は安定しているように見える。ただ、この人はキリスト教者であるのも影響しているか知らんが、「~を範とする」姿勢が強すぎるように思える。書の教科書ともいうべき本を幾つかあげているが、それらに囚われすぎているのではないだろうか。小筆蒐集に対する熱も、アルコールの代替物と見えなくもない。

 細野不二彦「ギャラリーフェイク」は、様々な美術品への興味を湧き立たせてくれる便利な漫画だが、そこで知った知識をそれだけで満足して使うことは、刃森尊「破壊王ノリタカ」を読んで格闘に強くなったつもりになることや、弘兼憲史「課長島耕作」を読んでサラリーマン稼業を勉強するのと同じように危険である。そういう人を知っている。ちなみに私は島本和彦「卓球社長(単行本はなし)」を読んだ翌日卓球をしたら、以前為す術もなくやられた友達に圧勝した経験があるが、これは関係ない。卓球をすることもそれ以来ないから、今やるとどうか分からない。
 だから、この本を読んで書について多少知った気になってはいけないから、少しでもまともに語りたいなら、もっと書について学び、実作もした方がいいのだが、今のところそこまで頑張ろうという気にはならない。本は面白かったが、書についてはまだまだ距離がある。もっと歳をとろう。

森内俊雄「真名仮名の記」(講談社)
2002/04/08 1:02:46





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2002/04/08 04:43:55 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Comments

nobclound@ Vonegollugs &lt;a href= <small> <a href="http://hea…
Wealpismitiep@ adjurponord &lt;a href= <small> <a href="http://ach…
Idiopebib@ touchuserssox used to deliver to an average man. But …
HamyJamefam@ Test Add your comments Your name and &lt;a href=&quot; <small>…
maigrarkBoask@ diblelorNob KOVAL ! why do you only respond to peop…

Profile

村野孝二(コチ)

村野孝二(コチ)

Keyword Search

▼キーワード検索

Archives

2024/12
2024/11
2024/10
2024/09
2024/08

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: