2003/06/18
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
別れの挨拶 を書いたばかりの気がするのに、続編が出た。第二期は全8巻84篇。第一期との重複も一作家一篇なら認めるらしい。

『空間と犯罪』武田泰淳
『火の記憶』松本清張
『復讐』三島由紀夫
『寒暖計』椎名麟三
『夏の終り』倉橋由美子
『焚火』大岡昇平
『童女入水』野坂昭如

『紫頭巾』宮本輝
『ナンブ式』藤沢周

「性の根源へ」の巻で『マッチ売りの少女』を収録しておきながら、ここで『童女入水』もないだろう、と。被っている。18巻に予定されている「夢と幻想の世界」に『ぼくのお葬式』を収録してほしかった。野坂昭如。他は初見。一番面白かったのは一番意外な一番最後の『ナンブ式』。不審人物と警官の顔がどんどん荒木飛呂彦の描く絵でしか想像出来なくなり、可笑しかった。


「あ、蟻だ」
 警官がいう。俺は突然その幼児じみた言葉に耳を疑った。一気に血が逆流するような、そんな感じだ。俺の膝の上にのぼって来た蟻に警官は目を落としている。その目の表情が、さっきのガキを見ていた時よりも柔らかい。俺はすぐにも指でその蟻を弾いた。だが、蟻は俺の膝の上で潰れ、ひしゃげた。
「ありゃー」
 また信じ難い警官の声。まだ形を残した部分を俺は摘んで捨てる。俺は死にそうだ。


 遙か公園の端の方から子供の声がきこえて来る。警官も俺もそっちに目をやるが、「右のキンタマの次はどこがいい?」と俺はきく。三人の小学生がサッカーボールを蹴り始める。
「分からない・・・・・・分からないが、自分を貫くもの・・・・・・」
「じゃあ、左のキンタマだ!」
 俺はグリップを掴んで引き抜く。だが、弾倉が見える所までいしか上げなかった。俺はむこう側に行ってしまいそうな気がしたからだ。別に殺意がなくても俺は撃つ。これは間違いないことだ。




 椎名麟三や三島由紀夫を読んでもそこに画・荒木飛呂彦の登場人物達を想像することはない。いい悪いは別にして、藤沢周の書くセリフが現代漫画らしい、荒木飛呂彦らしいので、想像のスイッチが入る。収録作品は発表順に並んでいるので書き出してみると、1949、53、54、59、60、71、72、85、87、94とある。読んでいて突然違和感を覚えたのは『ナンブ式』に入ってからである。87年と94年の間に何があったのだろう。いろいろあったのだろう。考えるのも面倒なことだ。文芸誌が売れなくなった。本が売れなくなった。小説が読まれなくなった。バブルが弾けた。久慈と新庄が新人王を争った。他、他。描写が寂しくなった。作者が感覚的に書く文章に、さほど疑問を持たずに入り込めるようになった。それは実は漫画からの影響で、それほど熱心に文章を読みこなさなくても、頭の中で人物や背景が動きやすくなったからとは言えないだろうか。風物を文学的に文章に書き写すのではなく、漫画的に映像を喚起させるように書く。作者と読者との間に共通の下地があるから、長く詳しく描写する必要もない。だがそうすると、奥行きがなく舞台の書き割りのような世界の中で人物が動いているようになる。しかし元より立体的映像的に小説は書かれる必要もなく、現実から遊離したような作品の場合なら舞台にリアリティを持たせる必要もない。
 ボケエとしながら書いてるので飛躍が早い。
 他に武田泰淳、中上健次、宮本輝のものが良かった。

「戦後短篇小説再発見 11 事件の深層」(講談社文芸文庫)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2003/06/18 03:04:20 AM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Comments

nobclound@ Vonegollugs &lt;a href= <small> <a href="http://hea…
Wealpismitiep@ adjurponord &lt;a href= <small> <a href="http://ach…
Idiopebib@ touchuserssox used to deliver to an average man. But …
HamyJamefam@ Test Add your comments Your name and &lt;a href=&quot; <small>…
maigrarkBoask@ diblelorNob KOVAL ! why do you only respond to peop…

Profile

村野孝二(コチ)

村野孝二(コチ)

Keyword Search

▼キーワード検索

Archives

2025/11
2025/10
2025/09
2025/08
2025/07

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: