2005/03/31
XML
カテゴリ: 国内小説感想
 今年2月に出た最新作品集。私小説を書いたことにより身体を壊したこと、強迫神経症になったこと、モデルにした人物と確執が出来たことなどが赤裸々に綴られている。「私小説廃止宣言」などと言って、私小説を書くことをやめたくなるのも頷ける。が、酷なことを言うようだが、『赤目四十八瀧心中未遂』以外、私小説の体裁をとらずに書かれた話は、あまり良いものはないから、これからも私小説を書き続けて欲しい。読者は残酷である。





『飆風』より



 文芸誌の予告に自分の名前が出ることを目指して躍起になったり、芥川賞を取り逃すと受賞者の作品をボロクソに言ったり、嫁(詩人の高橋順子)まで、本になる前から「『赤目四十八瀧心中未遂』で直木賞を取ります」と言っていたり(どこまで本当かはわからないが)、ということを書いているのに、講演を文章に起こした『私の小説論』の中では、


名誉など死ねばすぐ忘れられてしまいます。いまから五十年以上前に、堤千代とか田岡典夫とかいう人が直木賞をもらいましたが、いまでは完全に忘れられた人です。芥川賞の方も、これをもらっても、すでに生きている間に忘れられて行く人は多いですね。私も三島由紀夫賞とか直木賞とか、数々の栄誉を得ましたが、こんなものは、死後五十年も経てば、忘れられてしまいます。

『私の小説論』より


なんてことをちゃっかり言ったりしている。
 書くことに関してのこの人の文章は、危うい。死と隣り合わせである。何もそこまで根詰めなくてもやっていけるんじゃないか、と思う。書くことに妥協しては文士ではなくなるのだろう、彼の中では。なるべく死なないで欲しい。だけど私小説を書いて欲しい。


 小説を書くことも、人の陰口、悪口を容赦なく言うところからはじまります。悪口を言い合っている時ほど、話が盛り上がる時はありません。だんだんに言葉は大袈裟になり、嘘が混じって来る。その「嘘」こそが、創作のはじまりです。併し他人の悪口だけでは、文学は成立しません。自分の陰口をも容赦なく表沙汰にしなければならない時が来る。その時、どうするか。大抵の人はそこで小説を書くことを、小利口に、あきらめてしまいます。悧巧者には小説は書けません。阿呆になれないと、小説は書けません。悧巧者とは頭はいいけれども、頭の弱い人です。頭が強い人じゃないと、小説は書けません。
 小説は、小説を書くことによって、まず一番に作者みずからが傷つかなければなりません。血を流さなければなりません。世の中には、まず一番に自分を安全地帯に隔離しておいて、小説を書こうとする手合いがいますが、そういう人にはよい小説は書けません。まず一番に自分を安全地帯に隔離しておいて、他人の醜聞を覗き込みたいというのは、週刊誌の読者ですが、そういう読者と同じ精神では、すぐれた書き手にはなれません。自分は血を流したくはないけれど、併し名声だけは欲しいという人がいます。最低の人です。
 私は自分の骨身に沁みたことを、自分の骨身に沁みた言葉だけで、書いて来ました。いつ命を失ってもよい、そういう精神で小説を書いて来ました。生きるか死ぬか、自分の命と小説とを引き換えにする覚悟で書いて来ました。人間としてこの世に生れて来ることは罪であり、従って罰としてしなければならないことがたくさんあります。小説を書くことも、結婚をすることもその罰の一つです。

『私の小説論』より



 高橋順子の詩を挟みながら、迷妄の境を書き、編集者への呪詛を吐き、読む者を苦しめることを躊躇わない表題作がやはり一番良い。


講談社  2005年





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2012/04/10 07:17:44 AM
コメント(2) | コメントを書く
[国内小説感想] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Comments

nobclound@ Vonegollugs &lt;a href= <small> <a href="http://hea…
Wealpismitiep@ adjurponord &lt;a href= <small> <a href="http://ach…
Idiopebib@ touchuserssox used to deliver to an average man. But …
HamyJamefam@ Test Add your comments Your name and &lt;a href=&quot; <small>…
maigrarkBoask@ diblelorNob KOVAL ! why do you only respond to peop…

Profile

村野孝二(コチ)

村野孝二(コチ)

Keyword Search

▼キーワード検索

Archives

2026/09
2026/08
2026/07
2026/06
2026/05

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: