冬のコマタ・後編
～怒涛の歓迎会・その１～
そして、その車間距離わずか１ｃｍの凄腕アジョッシ・ドライバーに無事に開放されたウリナラが到着した場所は、東大門にあるとある焼肉屋であった。東大門は、これまでも旅行で何度も訪れているが、週末でも無いのに夜遅くまでいつも沢山の人で賑わっている。そして、ここには、商品（衣料品）の上に出前でとったたまご入り辛ラーメンののったプレートを置き、携帯電話で会話をしながら、髪の毛をかきあげ食事をする店員さん（ショップオーナーかも？）を目撃出来るというミステリーゾーン・ミリオレがある場所でもある。貴方が購入した１０,０００ウオンのセーターにオレンジ色の染みが無い事だけを祈る心優しいたまこ係長である。
～怒涛の歓迎会・その２～
総勢１５名（あれっ？確か、会社を出た時は１０名程度だったはずような…？）のウリナラは、派手な花柄で縁取られた、韓国アジュンマ御用達ファッションをしたパッと見、テレビのワイドショーに良く出演していたどっかの座長を彷彿とさせるアジュンマに強引に迎え入れられ、各テーブルにキチンとティッシュペーパーが配置された長テーブルに陣取った。ほっ…っと、したのもつかの間、すぐにトイレの位置を確認する私。「アジュンマ、ファジョンシリ・オディエヨ？」だって、ビール飲むとトイレが近いんだも～ん。そして、続々と運ばれるメッチュ、及びおびただしい数のサイドディッシュ達（←これ、全部サービス！）嗚呼！ビバ！テハミンゴ！！
「カンペーイ」の声と共に、モクモクと店内に立ち込めるタンベ（＝タバコ）の煙。それにしても、この国の男子喫煙率は非常に高い。そして、実は女子の喫煙者も意外に多い。韓国には、兵役が存在する為、韓国男子一通りの大人への路は、その時の経験である場合が多いらしい。これは、女子しかも外国人であるわたしにとっては、決して踏み込めない聖域である。って、まっ、知らなくても困らないけど…。あ～、それにしても、目の前でその身を切なそうによじるカルビグイ達よっ。どーして、こんなにもわたしを幸せな気分にさせるのっ？っと、オオバと一緒に食そうとニンニクひとかけをを箸でつかもうとしたその時、テーブルの下に転がった。仕方なく、にんにくちゃんを逃がすまいと今度は己の身をよじりテーブルの下を覗いた瞬間、向かいに座る男性社員二人がお互いのヒザに片手を置いているシーン目撃し、わたしは我が身を凍らせた。フォ、フォワット？そう、ここは東洋唯一のラテン国家、大韓民国。女性達は、手を組み街中を闊歩し、男性とて日頃のスキンシップは欠かさない。彼等が、その濃すぎる同胞に対する友情を表わす手段として互いのヒザに手を乗せて食事をしていたとしても、何の不思議も無いはずであるっ！決して、男ホモダチというわけではあるまい。あ～、びっくりしたっと！
そして、わたしは己の身を立て直し、再びダッカルビちゃんと格闘すべく、ふと周りを見渡すと、一様に女性軍が片ヒザを立て、スッカラ（＝スプーン）片手にテーブルに置かれた一つのチゲを仲良く一緒にすすっているではありませんかっ！斜め向かいのチェ・ジウ似のアガッシは、もちろん長い髪の毛がチゲに入らないようにと配慮を忘れてはおりません。一緒に？しかもひとつのスープを同時に？ご飯をスッカラで？すくう？？たべる？？？マシッソヨ？？？？しかし――、このアガッシ軍団、何故ゆえにコートを着たままなのでしょうか？そう、もう既に貴方もお気付きでしょうが、ここは魅惑の国テハミンゴ。有効な外交カード――もとい――わたしのサバイバル・テハミンゴ辞典には、最初に大きな文字で一言こう記されておりました。ケンチャナヨ（＝気にしない、気にしない）
ふ～、お腹もいっぱいになった所で、女性社員とのコニュニケーションを図ろうを試みる私。先ず新しい環境では同性を見方に付けるべし。すると、わたしのモーレツな食欲に恐れをなしていた様子のイシがＢｏＡのような透明な声で話しかけてきた。「オンニー」＝おねーさん。えっ！わたしにソウルに妹がいたの？そーいえば、ウチのおとーさん１９８０年代に組合の旅行だっていっちゃー、ソウルやら台北やら行ってなかったっけっ？彼女は、年格好からいって、あの時の…などど、不埒な事を想像する必要は全く無く、もちろん彼女がわたしとの血縁関係を証明する為に「オンニー」と呼んだ訳ではなく、韓国では、その年令に応じた呼び方がはっきりと存在するのです。彼女（２０歳台）から見て、わたしは明らかにおねーさん。だから、呼び方も「オンニー」決して、わたしはまだアジュンマ（＝既婚女性に対する呼称）ではなくてよっ！韓国人は、初対面でも何の遠慮もなく年令を聞いてきます。それは、便宜上のためであって、決して三十路の貴方にケンカを売っている訳ではないのであしからず。
さあ、既に程よくメッチュ（ビール！）が体内を一巡し、即席ケンチャナヨ精神にも拍車がかかってまいりました。お～っと、わたしは、大事な大事なことをほったらかしにしていたではないかっ！今宵、私の一番の関心事は、カルビグイくんでもダッカルビちゃんでも無かったはず。そうっ！愛しのオッパ・キムシとの熱い・熱い夜ではなかったのかっ！っと、食い意地に負けて彼をすっかり忘れていたわたしは、本来のガイ・ハンターの本能を取り戻し、獲物の所在を確認してみた。すると…？やはり微笑みの貴公子、くちびるにグロス（？）な彼は、周囲に気を配りつつ笑顔を絶やさず、追加オーダーのプテチゲなどを注文していた。あ～、やっぱり素敵。
「たまこシ、パンチャニ メブチ アナヨ？」「＝おかずは辛くありませんか？」あ～、我が愛しのオッパはどこまでも紳士的だわっ！これは、運命の出会い以外の何物でも無い・ムニダ。（笑）彼が本家の長男であろーが、彼のオモニ（母親）がたとえ至上最強の姑・野○佐○代似であろうが、そんなことわたし達の愛に何の障害になるものですかっ！このとき、わたしは彼のジデク（＝実家）で、チュソク（＝旧正月）のパジョン（＝お好み焼きみたいなやつ）を焼いている自分を想像しニヤニヤしていた。そこに、また完璧なフルメークで颯爽と現れたナムシ。この人、いつも突然足音も立てずに現れるな～。
っと、我が愛しのオッパに向かい甘えた声で一言「ヨボ、チベガソ チョニョグル ハムニダ。」＝「あなた～、わたし家に帰ってから食事するわ。」はっ？ひっ？ふっ？へっ？ほ～？（隠せぬ動揺の嵐）今、確か「ヨボ」って、言わなかった？しかも、チベガソとかなんとか？～キムシとナムスシ…。へっ？韓国のキムタク＝ウオン・ビンと鉄仮面・小林幸子の夫婦って…。ありえね～。絶対あっちゃーいけね～。あーあー、そーやねんなっ。韓国では、結婚しても女性の苗字は変わらんのじゃいっ！あ～、紛らわしいっ！どないなっとんねんっ！この国はっ！私の三十路・韓国嫁入り大作戦は目の前で焼け焦げたサムギョプサルのひとかけらと共にあえなく玉砕したのであった。鉄板の上で取り残された三枚肉のひとかけらを己の身に置き換え、此れほどの愛情を持った眼差しを向けた日本人女性はわたし以外にいるまい。。。。。
（おわり）
追記： 研修終了一ヶ月後の私は、３ｋｇの体重増加した体と、両手一杯のキムチと韓国海苔を抱えて無事成田空港に降り立ったのだった…ふんっ、だっ！
記） ２００４年１１月２１日
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