第四夜 03.7-24






      第四夜 03.7-24






      いつかここに来る僕じゃない僕へ…。




      もうすぐで僕は死ぬだろう…。
      人はその運命から逃れる事は出来ないのだから。

      でも
      今、僕にとって重要なのはその事ではない。

      今生きている
      この時がリアルかどうかだ。

      そして
      今間違いなく僕は、僕の人生の中で初めてのリアルを感じている。

      それが…僕にとっての全てだ。




      「…大分やられてしまったわね」

      長い黒髪をポニーテールに束ねた彼女が少し俯きながら、そう呟いた。

      僕達には仲間がいた。

      特に仲の良い仲間が…
      彼女を中心に僕を含めて三人いた。

      今は僕達二人だけ…
      二人だけで煙の立ち昇るこの場所にいる。

      かつて、山の頂上付近だったであろうこの場所に僕等は今陣取っている。

      昔、山の内部が学校だった事など、
      現状からは想像出来ない程この場所は荒れ果てていた。

      「一度世界が滅びかけてからの
       政府のやる事には、本当涙が出そうな位呆れてしまうわ」

      彼女は銃を点検しながらは腹立ちそうに言った。

      「こんな山の内部で
       一体何の悪巧みをしているのかしらねぇ…」

            ・
      「さぁな、俺達には想像も出来ない位の悪巧みだろうな」

      昔の学校は、今や一つの基地の様な物になっていた。
      戦争を起こす為の兵器が沢山詰まっている。

      内部にいる人達は何を願い、迷彩服を身にまとっているのだろうか。

      じっと灰色の空を見詰める僕に、彼女が声をかけて来た。

      「…やっと喋ったな。
       どうしたんだ? 先程から黙り込んでいたが、考え事か?」

      「いや、
       …君は信じないかもしれないが、俺はこの光景を見た事があるんだ」

      「……?
       それは予知夢というモノか?」

      「いいや、そうじゃないんだ。
       なんと言うか、今までの俺はただ見ているだけの世界にいたんだ。
       風を感じる事もなく、
       涙を流してもその熱さを感じる事もない、ただ見ているだけの世界だ」

      「………」

      「色々な世界を見て来た。
       しかし、どれもリアルを感じる事は出来なかった。
       沢山見て来た世界の中に今のこの場所もあった。
       けれど、
       その時の俺は君だったよ。
       君の姿でこの世界を走り回っていた」

      「………そう」

      「……君は今から頂上を目指せばいい。
       俺は内部の情報を出来るだけ詳しく君に伝えるよ」

      「でも、それは…」

      彼女の言葉を遮る様に僕は話し続ける。

      「これは運命だ。
       誰にも変える事は出来ない、止める事も出来ない。
       だが、俺は満足だ。
       あれほど願っていたリアルがある、感じられる。
       これが俺にとっての、生まれて初めての人生になる」

      そう語る僕に彼女は少し淋し気な微笑みを見せた。

      「もう、
       心は決まっているのだな……未来も」

      俯いていた彼女が、次の瞬間にはいつもの様に強い意志を瞳に宿し、僕を見詰めた。

      「なら、中は頼む。
       ……必ず勝利を手にしよう」

      「ああ。
       ……一つ聞いてもいいか?」

      「何だ?」

      「君はこの世界でリアルを感じているか?」

      「……いや、残念ながら感じてはいないようだ」

      「そうか」

      「いつか私も感じる時が来るのだろうな、リアルを」


      その時が楽しみだと言い残して彼女は頂上へと向かった。

      ここから先は僕も知らない未知の世界になる。
      ただ漠然と死が訪れる事を感じるだけだ。

      僕が彼女だった時、全てを終えて勝利を手にした時僕は帰らなかった。
      死を迎え深く哀しみ、虚無感だけが残った。
      でもそれは、
      どこかプログラムされた様な感覚も残っていた事も覚えている。

      全てが終った時、彼女も感じるのだろう。



      山の内部に潜入して随分経った。

      かなりの数の兵士が見回りをしている。
      銃を片手に構え、規律通りの歩き方で周りに目を配らせる。

      内部はまるで迷路の様に複雑だった。

      当時学校だったという面影が少し残っている。
      ここは教室だったのだろう。黒板が置いてあった。

      不思議な空間を感じていたのも僅かで、次第に周りが騒がしくなり始めた。
      どうやら進入がばれたらしい。

      もうすぐで僕は死ぬだろう。

      でも後悔は無い。



      いつかここに来る僕じゃない僕へ…。
      君はリアルを感じていますか?







―― 終 ――








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