真夏のトモミ

真夏のトモミ

自宅で水中出産



彼女は自宅のお風呂で生まれた。
取り上げたのは、私。

出産を楽しみに待つという心境ではなかった。
長女出産の時の痛みや苦しみを思うと、正直言って出産が怖かった。
産前の鬱もあって、毎日生活するのが精一杯の状態だった。
お腹の子どもを思いやれない自分が嫌で自己嫌悪の日々だった。

救いを求めたのは、ソフロロジー。
これをやっているとお産の痛みが軽減すると聞いて、わらをもつかむ思いでCDを聞いていた。
ソフロロジーとは、陣痛を赤ちゃんが生まれ出ようとするエネルギーとして前向きにとらえようというもの。
普段から、リラックスできる音楽とイメージで練習して、本番もその音楽を聴きながら出産にむかう。
日々そのCDを聴いてはいたものの、本当に陣痛を前向きに乗り越えられるのか半信半疑だった。

出産直前、助産院の助産婦さんに長女出産の時の痛みの恐怖があって今度の出産も不安があることなどを話した。
その時、助産婦さんが私の足をさわって「足、夏なのにこんなに冷えてるんだもの。痛みも強く感じるはずよ。出産の前に温めておくといいわよ。お産は痛いよね~。いいんだよ、痛いって言って。」と言われ、すごく気が楽になった。

そして、夜9時半頃、いよいよ陣痛が来た!
自宅出産なので、布団をひいたりして準備する。
まだまだ余裕。
出産は明け方くらいになるかなと思った。
陣痛も不規則で、10分おきだったり15分おきだったりする。
助産院に電話をした。
「陣痛らしきものが不規則に来てるんですけど・・・」
「じゃあ、また1時間後に電話してね」
10時過ぎ、長女に寝るように言うが「やだー」と言って寝ない。
足を温めておこうと風呂に入ることにする。
すると、長女も「一緒に入る~!」ときかないので2人で風呂に入った。

お風呂はとても気持ちがよかった。
痛みもまだまだ平気で乗り越えられる。
でもそのうち、長女の相手をするのがしんどくなってきた。
「そろそろ出てちょうだい」と言うと、「やだやだー!!」と泣き出した。
どんどん陣痛が強くなってくる。
時計をみると、もうそろそろ1時間。
でも、この痛さは本物だ。
また助産院に電話をした。
「だいぶ強くなってきたので、きてもらえますか?」
「すぐ行きますね」との返事。

電話を切ると、猛然と痛みが襲ってきた。
もう長女と話も出来ない。
「ママがお話できなくなっちゃったよ~!!」と泣きわめく長女。
そのうち、泣きすぎて吐いてしまった。
夫は娘の着替えやら世話やらで、2人とも1階に下りていってしまった。
(我が家は2階にお風呂があるので・・・)

お風呂に1人残された私は、そろそろ出ようかなと立ち上がった。
でも、まもなく次の陣痛が来そうで怖い。
「まあいいや、助産婦さんが来たら一緒に出してもらおう」と思い、再びお風呂に座った。
ところが立ち上がったことが刺激になったのか、ものすごい痛みが襲ってきた。
かなりの痛み。でも長女の時のような恐怖感はなかった。
「赤ちゃんが降りてるんだ、赤ちゃんが産まれようとしているエネルギーなんだ」と素直に思えた。
ふ~っと息を吐く。とにかく息を吐こうと思った。
痛みが極まっていった。
そしてもうどうすることもできないと思った時、体が勝手にいきんでいた。
まだ助産婦さんが来ていない!だめ!と思ったけれど、もう止まらない。
「うーーーん!」勝手に声が出る。
なんかその声を冷静に聞いている自分がいた。
3回ほどいきんだだろうか、会陰に焼け付くような感じを覚えて思わず触ってみると、頭の感触が。
もう出てる!
しばらくして次の陣痛でずるっという感覚があった。
下を見てみると、自分の股の間に赤ちゃんが挟まっていた!!
しかもお腹まで半分出ていて、まだ卵膜をかぶったままだった。
「この卵膜って破ったほうがいいのかな?お水の中で呼吸できてるよね?」などと思いながら、次の陣痛を待っていると。
次の瞬間陣痛とともに、お水の中をふわ~っと浮いてきた!
すかさず、キャッチ!!
「んぎゃ~!うんぎゃ~!」すごく大きな声だ。
泣いてる!大丈夫だ!
お風呂の中だから、赤ちゃんは卵膜もとれて産湯を浴びたようにきれいになってる。
かわいい!!

泣き声を聞きつけて、長女と夫が2階にあわてて駆けつけた。
夫は目が点。長女は「ママ!やったー、よかったね、よかったね」と私と一緒に喜んでいた。
11時50分、陣痛が来てから約2時間半だった。

その後、すぐに助産婦さん到着で事なきを得た。

・・・・・
こんな出産だったのだ。
あれから1年。
元気に育ってくれていることを心から幸せに思う。
そして自分1人で赤ちゃんを産むというすごい体験は、人間はそういう力を持っているんだということを実感させてくれたし、自分に自信をもたらしてくれた。
恐れおののいていた私への神様からのギフトでした。



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