趣味の漢詩と日本文学

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December 31, 2007
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カテゴリ: 漢詩・漢文
聽笛歌(留別鄭協律) 劉長卿
舊遊憐我長沙謫、載酒沙頭送遷客。
天涯望月自霑衣、江上何人復吹笛。
横笛能令孤客愁、■(サンズイに「碌」の右、ロク)波淡淡如不流。
商聲寥亮羽聲苦、江天寂歴江楓秋。
靜聽關山聞一叫、三湘月色悲猿嘯。
又吹楊柳激繁音、千里春色傷人心。
隨風飄向何處落、唯見曲盡平湖深。
明發與君別離後、馬上一聲堪白首。

【訓読文】
笛歌を聴く(鄭協律に留別す)
旧遊我の長沙に謫せらるるを憐ぶ、酒を載せ沙頭に遷客を送る。
天涯望月自から衣を沾し、江上何なる人か復た笛を吹く。
横笛能く孤客をして愁へしめ、■(サンズイに「碌」の右、ロク)波淡淡として流れざるがごとし。
商声寥亮として羽声苦しく、江天寂歴として江楓秋なり。
静かにを関山を聴き一叫を聞き、三湘月色猿嘯を悲しぶ。
又た楊柳を吹けば繁音激しく、千里の春色人心を傷ましむ。
風に随ひて飄へつて何れの処に向かひて落ちん、唯見る曲尽きて平湖の深きを。
明発君と別離しての後、馬上一声白首に堪えんや。
【注】

○鄭協律 未詳。「協律」は、協律郎。音楽を掌る役人。『旧唐書』《職官・三》「太常寺に協律二人有り、正八品上」。
○旧遊 旧友。
○憐 同情する。
○謫 左遷される。
○長沙 湖南省長沙市。

○沙頭 砂浜のほとり。
○遷客 左遷されていく旅人。
○天涯 天の果て。非常に遠い土地。
○望月 満月。
○沾衣 涙で着物を濡らす。
○江上 川のほとり。
○何人 誰。
○吹笛 晋の桓伊は、江左第一の笛の名手とされ、江上で笛を吹いたという。韋応物《聴江笛送陸侍御》「遠く江上の笛を聴きて、觴に臨んで一たび君を送る」。
○孤客 孤独な旅人。
○■(ロク)波 清らかな波。
○淡淡 水がたっぷりと緩やかに流れるようす。
○商声 五音(宮・商・角・徴・羽)の一。強くすんだ音。
○寥亮 音の澄んださま。
○羽声 五音の最も高い音。
○寂歴 なにもないようす。
○江楓 川べりのカツラ。
○関山 関山月の曲。後出の《折楊柳》とともに離別の曲。
○三湘 漓湘・瀟湘・蒸湘。
○猿嘯 サルの鳴き声。
○楊柳 折楊柳の曲。
○繁音 テンポの早い音。
○何処 どこ。
○平湖 平らかな湖面。
○明発 夜明け。
○白首 白髪頭の老人。
【訳】
笛歌を聴く。(鄭協律との別れぎわに詠んだ詩)
むかし馴染みの君はいま、とおく長沙に流されるわが身の上を思いやり、わざわざ酒を持ち来たり、舟に乗り込む砂浜のほとりに我を見送るか。
空の果てなる満月を見るに涙も目ににじみ、悲しさ添える笛の音を川辺に吹くは誰やらん。
横笛の音は旅に出る我が悲しみをかきたてて、清き流れは緩やかに波さえたたぬしずけさよ。
あるいは強くまた高く澄んだ音色を響かせて、川の上空くもも無く川辺のカツラ紅葉す。
耳をすませば聞こえくる曲はその名も関山月、三湘の空月清みて猿の鳴き声いと悲し。
次ぎなる曲は折楊柳、奏でる速さいよよ増し、千里はなれた春の色人の心を傷ましむ。
ヤナギのわたは風に乗りはてさてどこへ落ちるやら、曲は終わりて眺むれば深さ知られぬ洞庭湖。
明朝君と別ての後に、馬上に一声を聴かば老いたるこの我は堪えられようかその辛さ。





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Last updated  December 31, 2007 05:25:22 PM
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