趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

June 13, 2009
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カテゴリ: 国漢文
【本文】
十七日、くもれるくもなくなりて、あかつきつくよいとおもしろければ、ふねをいだしてこぎゆく。
【訳】正月十七日。空にどんよりとくもっていた雲が無くなって、夜明け前の月がひじょうにすばらしいので、船を出して沖へ漕いで行く。

【本文】このあひだに、くものうへもうみのそこもおなじごとくになむありける。
【訳】こうやって沖へ出ると空も海面も同じような色だなあ。

【本文】むべもむかしのをのこは「さをはうがつなみのうへのつきを。ふねはおそふうみのうちのそらを」とはいひけん。
【訳】なるほど昔の男は「棹は波の上に映る月を突き刺し、船は海に映った空の上に覆い被さる」とは、よくいったものだ。

【本文】ききざされにきけるなり。
【訳】この漢詩は聞きかじりに聞いたものだ。


「みなそこの つきのうへより こぐふねの さをにさはるは かつらなるらし」。
【訳】また、ある人が詠んだ歌。
水底の月のうえを通って漕ぎ進む船の棹さきにゴツゴツと触れるものは中国の古い伝説にいう月の中に生えているという桂の木らしい。

【本文】これをききて、あるひとのまたよめる、
「かげみれば なみのそこなる ひさかたの そらこぎわたる われぞさびしき」。
【訳】この歌を聞いて、ある人が再び詠んだ歌。
月の光を見ると、波の底にある空を漕いで渡る月と同様に私が一人ぼっちでさびしいことだ。

【本文】かくいふあひだに、よやうやくあけゆくに、かぢとりら「くろきくもにはかにいできぬ。かぜもふきぬべし。みふねかへしてむ」といひて、ふねかへる。
【訳】こんなことを言い合っているうちに、夜もしだいに明けていくので、船頭らが「黒い雲が急に出てきてしまった。そのうちきっと風も吹くにちがいない。海が荒れないうちに船を岸へ引き返してしまおう。」と言って、船が引き返した。

【本文】このあひだに雨ふりぬ。いとわびし。
【訳】こうやって、港へ帰るうちに雨が降り出してしまった。とても辛い。





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Last updated  June 13, 2009 03:59:18 PM
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