趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

December 30, 2009
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カテゴリ: 国漢文
【本文】四日、楫取「けふ風雲のけしきはなはだあし」といひて船出さずなりぬ。
【訳】二月四日。船頭が「きょうは風や雲のようすが非常に悪い。」と言って、とうとう船出しなかった。

【本文】然れどもひねもすに浪風たたず。この楫取は日も得計らぬかたゐなりけり。
【訳】けれども、終日波風たたなかった。この船頭は天候もよめない愚か者だなあ。

【本文】この泊の浜にはくさぐさの麗しき貝石など多かり。かかれば唯昔の人をのみ恋ひつつ船なる人の詠める、

「よする浪うちも寄せなむわが戀ふる人わすれ貝おりてひろはむ」

といへれば、ある人堪へずして船の心やりによめる、

「わすれ貝ひろひしもせじ白玉を戀ふるをだにもかたみと思はむ」

となむいへる。

「岸に寄せる波よ、打ち寄せてほしい、私が恋しく思う人を忘れることができるという忘れ貝を、そうしたら浜に降りて拾おう。」
と言ったところ、船にいた人が悲しみにこらえきれずに、気晴らしに作った歌、
「わすれ貝を拾ったりはするまい、美しい真珠のようだったあの子を恋しく思う気持ちだけでも、あの子が私に残してくれた形見と考えよう。」と言った。

【本文】女児のためには親をさなくなりぬべし。玉ならずもありけむをと人いはむや。
【訳】女の子のためには、きっと親というものは幼児のように分別がなくなってしまうのだろう。「いくら可愛かったとはいえ、真珠ほどではなかっただろうに」と他人が言うだろうか。

【本文】されども死にし子顏よかりきといふやうもあり。
【訳】けれども死んだ子は顔が美しいかった、という言葉もある。

【本文】猶おなじ所に日を経ることを歎きて、ある女のよめるうた、


「手をひてて寒さも知らぬ泉にぞ汲むとはなしに日ごろ経にける」。
【訳】まだ依然として同じところで日を過ごしていることを嘆いて、船の女性が作った歌、
「手を浸しても冷たさも感じない泉であるこの和泉の国で、水を汲むというわけでもないのに何日もむだに過ごしてしまったなあ」。





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Last updated  December 30, 2009 02:07:57 PM
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