Atelier Mashenka

Atelier Mashenka

2005.09.23
XML
カテゴリ: アート
Bunkamuraミュージアムで開催中の 「ギュスターヴ・モロー展」
祝日ながら、仕事帰りに夜行ったので空いてて嬉しかった。
これがBunkamuraミュージアムのありがたいところ♪


空いてはいたけど、(空いていたからよりそうなのかもしれないが)
展示室に入るとそこはとても充実した空気が満ちているのを感じられる。
油絵の展示は50点足らずだが、その他の習作が100点以上展示され
興味深いものが多かった。
ある意味、習作こそ執念を感じ、圧倒される。


何度も何度も繰り返され、練られていく絵画の構図や形、
そのエネルギー、苦闘、情熱、思考などを直に感じさせる。
じっくり鉛筆などでデッサンされたものも多いが、
インスピレーションを取り急ぎ色彩でざっと描いたようなものもあり
それらはとても感覚を刺激する。

「サロメ」や「キマイラ」などの習作は特に、
一瞬の色彩の流れの中に、しかし確かに人物や物語の熱がうごめき、
ただならぬことが起きてることを予感させ、
それだけでも素晴らしい。
すでに抽象画の様相を呈している。
その情熱、色彩のほとばしりは、走墨を思わせるものもある。



サロメに題材を取った「出現」が、やはりよかった。


ギュスターヴ・モロー「一角獣」のちらし
「一角獣」


「一角獣」は印刷よりもずっとずっと明るく美しく瑞々しい。
彼の色彩は、特に深く重厚な紅・緑・青が美しく、高貴な感じを与える。
その中で一角獣の白も輝いている。


この絵は、パリのクリュニー美術館(中世美術館)の
6枚1組の大きなタピスリを元にしているという。

このタピスリは、ジョルジュ・サンドが
フランスの地方の城館で見つけ、世に知らしめた織物で、
私は数年前これを見に パリへ行った ようなものだ。
辻邦生氏の「回廊にて」という小説が
20代のころ私のバイブル的存在だったのだが、
そのラストに出てくるタピスリだから。

そうか~、あれが元になってるんだ、と嬉しくなった。
見ていて心地いい作品だ。


また、サロメを描いた「出現」はやはり圧巻だった。

ギュスターヴ・モロー「出現」

2002年秋に上野で開催された「ウィンスロップ・コレクション」で
もっと小さな「出現」を見たが、そのときはそんなには感銘を受けなかった。
ロセッティやバーンズの大きな美しい作品に目が奪われてしまってたし。

が、今回初めてモローの凄さにがんとやられた。


今回はいくつか描いている「出現」の中でも
一番出色の作品じゃないかな~?他にもあるのかも知れないけど・・
これは見れば見るほどいい作品だと思えてくる。

物語では、ヨカナーンは聖者で、サロメはその首を褒美として欲する、
血のにおいのする悪女として書かれているが
この絵では、サロメは悪女に見えなくなる。

サロメはいったい何と対峙しているのだろう?
周囲のすべてが遠のいていくような描写だ。
すでに物語の役割を超えて、サロメとヨカナーンの首、
その超現実的な邂逅が、緊迫感をみなぎらせている。

物語に引き込まれるというよりは、
物語の中から2人の緊張関係がこちらへぐわっと踏み出してくるようだ。

背景のもやめいた色彩、くすんだ緑、茶、えんじなどが
大きな宮殿内の空気や人々を描いているが、
後に描き加えられたという建物の装飾模様などの丹念な輪郭線が、
不思議な神秘的な雰囲気をかもし出している。

意図したかどうかわからないが、
そのことにより、まるで幻が立ち上がってくる感じが出ている。
二重うつしの世界 ─虚と現─のようだ。

「出現」したものを見てしまったときから、
現実から浮遊してしまっているような・・
ある意味四次元的空間が描かれているのかもしれない。

しかし、サロメは意志的なまなざしと指先で
自己の存在を今ここに踏みとどめようとしているようにも見える。
決然と「NON!」と叫んでいるように見える。

彼女はこの後、王から踊りの褒美として男の首を手に入れるが、
結局、忌むべき者として王の命により殺されてしまう。
そうしたこれから起こる(まさにこれから"出現"する)、
未知のことすべてに対し、強い意志を掲げているように見える。
裸で、白い蓮の花を持ち・・

サロメの絵には、豪奢な衣装を着てこれから王の前での踊りを
はじめるためにしずしずと歩き出す構図もあるし、
習作では実際衣装を翻して踊っている構図もあった。
豪奢な衣装は美しく、オリエンタルな雰囲気で
当時のフランスでは喜ばれたに違いない。

しかし、さまざまに構図やポーズの変奏曲を重ね、
結局裸で、この意志的な強いポーズに行き着いたのではないだろうか。
サロメの踊りがストリップ的なものだったということもあるだろうけど
でもこれまでいろんな絵を見てきて、初めて
「裸」であることの強さ、をこの絵で強烈に感じた。
この超現実的な現象と向き合っているサロメは、
彼女自身が盾であり、剣であったのではないだろうか。

これはサロメであって、サロメを超えている、と思った。
その意志こそが私たちの前に「出現」した作品だ。
そのことに、心打たれた。

ああ、離れがたい作品だった。


そのうちぜひパリのモロー美術館へ行ってみたいものだ。
彼のアトリエ兼自宅にところ狭しと作品が飾られ、
きっと濃密な時間の流れる、ひとつの小宇宙のようだろうな・・・


帰りは近くの店によっていつものあたたかいチャイを飲み、
渋谷の街並みを眺めながら、ぼーっとモローの世界に浸った。

ここは小さい間口だけどオープンカフェになっていて、
これくらいの季節だとほどよく涼しく心地よいし、
壁などが適度に古びたいい感じになっていて、
アメリカン・レトロなカラーリングや装飾がうるさすぎない程度で、いい。
とてもいい夜だった。


そういえば、先日名古屋で「ボストン美術館展」を見たとき、
ミュージアムショップで美術の手引書を2冊購入した。
オールカラーで平易で、図説やイラストもたくさん、読みやすい。
かなりくだけた雰囲気なので、
眺めて楽しい入門書を手元に置きたい方におすすめです♪


巨匠に教わる絵画の見かた
視覚デザイン研究所 編
「巨匠に教わる絵画の見かた」


↑こっちのほうが画家別の目次になっていて、
より平易な入りやすい本。
知ってる人には物足りないかもしれないけど・・

私にとっては、ある画家に対し、同時代または後世の画家が
どんな感想や評価を持っていたかが、イラストで描かれていて
それを読むのが楽しかった!

しかし、入門書とは言え、私の好きなホイッスラーが
取り上げられてない・・・ホイッスラーを切るなんて!
ラファエロ前派もばっさり抜けてるし・・・


名画に教わる名画の見かた
視覚デザイン研究所 編
「名画に教わる名画の見かた」


↑こちらは「自画像」「アトリエ」「説明」「構成」「オマージュ」など
テーマや手法を切り口に、絵画の進化に沿って繰り広げられているので
絵画そのもの、芸術そのものがどこへ向かうのか
それを探る旅に出かけるような感覚が楽しいし、興味深い。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017.02.15 23:42:39
コメント(8) | コメントを書く
[アート] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

mashenka

mashenka

Favorite Blog

はにわ  東京国立… 一村雨さん

ブログは移動しまし… コヨーテ3377さん
happy-happy happy-tamachanさん
take it easy!! 【masashi】さん
松峰な世界 松峰さん
ロルファーサイトウ… M Saitoさん
reichel!の美味しい… reichel!さん
地方暮らしが変える1… かじけいこさん
お気楽! 幸せの種… れおなるど21さん
クサノタヨリ すもも5970さん

Comments

mashenka @ Re[1]:生誕120年 棟方志功展(11/12) 一村雨さんへ お久しぶりです! 私もうな…
一村雨 @ Re:生誕120年 棟方志功展(11/12) お久しぶりです。 この展覧会、棟方志功の…
mashenka @ Re[1]:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 一村雨さんへ 素晴らしい障壁画でしたね…
一村雨 @ Re:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 安部龍太郎の「等伯」を読んで、この親子…
mashenka @ Re[1]:横山操「ウォール街」(10/31) 一村雨さんへ 横山操の手にかかるとNYの…

Freepage List

Calendar

Archives

2024.12
2024.11
2024.10
2024.09
2024.08

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: