Atelier Mashenka

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2006.01.28
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カテゴリ: アート
一村雨さんのブログ
国宝の長谷川等伯の「松林図屏風」が今なら見られると知り、
会期ぎりぎりでようやく上野の国立博物館へ行ってきた。

国立博物館はじっくり見るのは初めて。
広いしたくさんあるし、2Fの「日本美術の流れ」を見るだけで手一杯だった。
こういうときは、一番見たいものまでまっさきに突き進み、
あとはざっと見て、もう一度見たいものだけ戻ってじっくり見る。

目指す「松林図屏風」は、一段照明を落とした国宝室にあった。
淡い。

それを全体で感じ取ったときにまず私を貫いたのは
もっと仏教を知らなければ、という唐突な思いだった。

そしてこれを見に来ているたくさんの人を含め、
無神論・無宗教者である私も含め、
日本人の多くはやはり基本的に仏教徒なのだ、
日本はもはや後戻りできないほどに仏教の国だと今更のように実感した。

何故突然「松林図屏風」を見てそう思ったのか定かではないが、
その墨絵の空白に、
仏教の色即是空の思想が、日本でなじんだ日本的な仏教や禅宗の思想が、
空間や時間のとらえ方、山水のとらえ方、美意識などが
集約されているように感じられたからだろう。

共通して持っていると感じたからだろう。

2双の大きな屏風に松が4群配置されている。
空白のほうが広いくらいで、それは松林に立ち込める霧のようだ。
左の屏風のかなたにはかすかに山の稜線が描かれている。
朝だろうか、霧の中に松の木々がぼうっと立ち上り、


しかし不思議なのは、4群のそれぞれ主となる4本の松の木の
すぐ脇に生えている松が必ず淡く描かれていることだ。
奥まった松が淡く描かれているのは、霧のためか遠景のためかすんでいるというのがわかるが、
主となる木のすぐ隣り合っている木が霧にかすんでいるのは不思議。

主となる木を引き立てるためかもしれないが、
4群の、どの4本にもペアとなるように淡く描かれているので、
あたかもそれが分身のようにも見えるし、
あるいは霧にうつった影のようにも見える。
不可思議な世界に迷い込んで、目の錯覚を誘われているようにも見え、
さらには霧の中の人影と、その脇にあらわれた霊魂のようにも見え、
一瞬ぞっとする。
昨年100km歩いたとき、真夜中の山道で
意識が朦朧としていたのか、木や草が人影に見えたことを思い出したりして。

その二重性は、実は奥の松の木にも言える。
枝ぶりのよく似ている松が背後でもやはりペアになっているのが
いくつか見られる。
これは意図したものではないだろうか?
(それとも、海沿いだとよく同じ方向に枝が向いていたりするけれど
 山の松林でも、やはり斜面や日照の関係で同じ形になりやすいのだろうか?)

そんなことを考え、
その幽玄な雰囲気の中に確実にとらわれていく自分を感じた。
これは写実ではない、どこにもない風景だ、と何かで読んだが、
まさに写実ではなく、目に見える世界とはまったく違う、異世界だと思った。

国宝に指定されるくらいだから、安土桃山時代からこれまで、
どれだけの多くの日本人が、この屏風の異世界をさまよい、
これを日本の美意識、日本の精神として尊んできたことだろう。

かすかな山の稜線と、墨で描かれた松、
筆を入れないことで表現されている、立ち込めた霧─すなわち空(くう)─、
たったそれだけのものが、これだけ日本人をひきつけ、
何か虚実の境に紛れ込んだような淡い時空に引き込み、
恐らく日本人の魂を吸い上げてここまで生き延びてきているこの屏風は、
どこかそら恐ろしい存在のような気もする・・・



※国宝、長谷川等伯「松林図屏風」の展示は2006年1月29日で終了しています。





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Last updated  2017.02.16 13:38:48
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mashenka @ Re[1]:生誕120年 棟方志功展(11/12) 一村雨さんへ お久しぶりです! 私もうな…
一村雨 @ Re:生誕120年 棟方志功展(11/12) お久しぶりです。 この展覧会、棟方志功の…
mashenka @ Re[1]:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 一村雨さんへ 素晴らしい障壁画でしたね…
一村雨 @ Re:サントリー美術館「京都・智積院の名宝」(01/21) 安部龍太郎の「等伯」を読んで、この親子…
mashenka @ Re[1]:横山操「ウォール街」(10/31) 一村雨さんへ 横山操の手にかかるとNYの…

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