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★モイラの名画座★

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2007.03.11

君死に給うことなかれ★「二百三高地」

(11)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

太平洋戦争を知らない世代が人口の大半を占めている今、
日露戦争（1904～5年)なんて、もう遠い遠い昔のお話かもしれません。
しかし１世紀前のこの戦争でも、愛する女性や家族を残し、身を切られる思いで戦地に赴き、
とりたくもない銃をとって戦い、無惨な屍をさらした男性たちが、大勢いたのです。
大激戦地と呼ばれた極寒の旅順要塞で、苛酷極まりない戦いに臨んだ男たちの人間ドラマ、
日露戦争を壮大なスケールで描いた歴史大作 ‥‥
それが、1980年東映作品「二百三高地」です！

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日露戦争は、中国東北部（満州）占領を試みたロシア帝国と、日英同盟をバックに中国進出を狙った日本との戦争。
その戦争の指揮官は、今や神社に祀りあげられている乃木希典（仲代達矢）。
ところがこの乃木という人、極端なまでの精神主義者で、指揮官としてはてんで無能。
大勢の兵士を、旅順要塞で死なせてしまうんです。

召集された兵士は、小学校教員の小賀（あおい輝彦）、豆腐屋の九市（新沼謙治）、二人の幼子の父で友禅職人の米川（長谷川明男）、全身に見事な刺青を入れたヤクザの牛若（佐藤允）、太鼓もちの梅谷（湯原昌幸）と、
バラエティに富んでいるのが面白いのですが、
乃木将軍と軍幹部の後手後手の指揮のせいで、ロシア軍から砲弾と銃弾の雨あられ‥‥！
二百三高地はまたたくまに、日本兵の屍の山と化してしまいます！
新東宝の日露戦争映画では、日本兵はロシア軍に撃たれたら、苦悶しつつも、
「うぐぐ‥‥天皇陛下ばんざーい！」と両手を挙げて、勇ましく花と散りますが、
この映画は違う。撃たれてバタバタと倒れた兵士たちはみんな、「うう、苦しい‥‥」「痛い‥‥」「水、水‥‥」と、血みどろになって呻きながら、それは無惨に、見苦しく死んでゆきます。
（そもそも実戦で撃たれて、「天皇陛下万歳！」なんて叫ぶ余裕があるかぁ～?!）
そのリアリティに、モイラは思わずスクリーンから顔をそむけました。
激しい風雨の下、屍の山の中、両足を砲弾で飛ばされた喇叭兵が、断末魔の中、「君が代」を吹き、息絶える‥‥
爆撃され、目も鼻も耳もなくなった兵士が、瀕死の状態で幽鬼のように叫ぶ‥‥
「旅順要塞はお化け屋敷だ‥ 誰も生きて還れん、誰も生きて還れんぞ‥‥」
ここで、さだまさしの「防人の唄」とその歌詞が流れ、観客の涙を誘います。

ニコライ堂で知り合った恋人・佐知（夏目雅子）を残して、戦地に赴いた小賀を演じたあおい輝彦、好演でしたね。
日本軍に撃たれて瀕死のロシア兵に、「殺してくれ‥」と頼まれても、躊躇してとどめを刺せないシーンには、ぐっときました。
また、初めて戦地に赴く召集兵たちを暖かく見守る優しさ、特に妻をなくし、幼子二人を残した米川への配慮が、泣けました。
「いいか、米川だけは絶対に死なせるな！　なんとしてでも生きて子どものもとに還すんだ！」と、ほかの兵たちに護衛させるのです。
明治にはいたんですね、こういう心遣いをする士官が‥‥
それが昭和に入ったらどうでしょう‥‥神風特攻隊作戦ですからね。あれはひどすぎる。まだ人生これからっていう若い人たちを、人間爆弾に仕立てたんですから‥‥！

愛する人の還りをひたすら待つ明治の女性・佐知を演じた夏目雅子も良かった‥‥
女らしく、しとやかな中にも、シンの強さが出ていましたね。
乃木将軍を演じた仲代達矢も、さすがは名優、なかなかのものでした。
息子二人を戦争でなくしたこともあってか、明治天皇の前で戦果報告をしている途中で、
人目もはばからず、わーッと泣き崩れる‥‥本当に乃木将軍は、天皇皇后の前で泣いたそうですね。

けれども、モイラが思うに、なまじ日本はこの戦争で、多くの犠牲者を出しながらもロシアに勝ったから、
ヘンに自信を持ってしまって、のちの太平洋戦争の時、
「日本はあの大国ロシアを負かしたんだ！アメリカにだって勝てる！」なんて勇み足を
軍部も国民もしてしまったのではないかしら‥‥？

余談ですが、日本人はトルコに行くと、今もよく現地の人に言われるそうです。
「日本は素晴らしい！よくぞ日露戦争で、あの憎っくきロシアを負かしてくれた！」
オスマン帝国時代、さんざんロシアにいじめられたお国柄ですねえ‥‥

監督は「錆びたナイフ」「零戦黒雲一家」の舛田利雄、脚本は「仁義なき戦い」シリーズの笠原和夫。
森繁久彌、天知茂、丹波哲郎、平田昭彦、永島敏行、愛川欽也、野際陽子など、出演も豪華！

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最終更新日 2022.06.13 00:25:54
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■コメント

Re:君死に給うことなかれ★「二百三高地」

ドレミ王子さん

「二百三高地」‥話題作でしたね。
何度も見かえした作品です。

乃木希典の仲代達矢、児玉源太郎の丹波哲郎は好演技だったと思います。にしても、すごいキャストでした。さだまさしの主題歌も印象的です。 (2007.03.12 01:24:09)

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Re[1]:君死に給うことなかれ★「二百三高地」(03/11)

モイラ2007 さん

ドレミ王子さん、おはようございます♪

＞乃木希典の仲代達矢、児玉源太郎の丹波哲郎は好演技だったと思います。にしても、すごいキャストでした。さだまさしの主題歌も印象的です。
-----
丹波哲郎もいい演技していましたね。
「二百三高地」のキャスティングは、かつての「太平洋の嵐」「太平洋の翼」のような東宝の戦争大作映画にはおよびませんが、
それでも、巨額な製作費を投じて、いい作品を作ったなと思いました。

(2007.03.12 09:10:42)

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当時感動しました。主題歌シングルレコードも買いました。

ITOYA さん

戦争の最前線の悲惨さをちゃんと描いていました。
ラストの夏目雅子の演技も良かったです。

その悲惨な描写にさだまさしの歌が流れて（確か歌詞も映されたと）、大感動、大音響とともに第一部が終わり、今では珍しい「休憩」になったと思います。
主題化レコードを買ったら映画のアレンジと違っていたのを覚えてます。（たしか映画版はサントラLPに収録。）
特撮も少しだけありました。
(2007.03.12 10:18:46)

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Re:君死に給うことなかれ★「二百三高地」(03/11)

時計屋チョージさん

特撮得意な東宝は海戦中心でいけますが、東映は陸戦でしょう。。。
そこがまず｢凄い」

それから同じテーマの｢日本海大海戦」なんかの場合でもそうですが、東宝は｢偉い人｣視点になっちゃう。
「ロシア文学を愛する青年の下級将校」が主人公、というのがこの映画を傑作にした所以でしょう。

乃木将軍は、東宝の笠智衆の方が｢柄」ですが（仲代は明石大佐でした）、神将でも愚将（｢坂の上の雲」の影響大ですが）でもなく、苦悩する「帥」（参謀に人を得ず）として等身大に描かれていたように思います。
児玉源太郎（身分が上なのに、実質、師団の作戦参謀役を勤めたわけで）のような｢戦術家」が最初から参謀についていれば、ずいぶん違ったはずです。東郷に｢秋山真之」がついていたように。。。 (2007.03.12 10:21:28)

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当時感動しました。主題歌シングルレコードも買いました。

ITOYA さん

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私も観ました

takusyun さん

こんばんわ。
「二百三高地」は私も何度も観ています。
何の罪もない人々を戦場に送り込み、虫けらのように人を殺し、そして虫けらのように殺される戦争・・・、その人間の愚かしさをまざまざと見せつけられました。
しかし当時の男たちは、美しき日本そして親兄弟、妻子を守るため潔く散っていたかと思うと涙が出てきます。
そしてこの映画で一番涙を誘うのが、やはりモイラさんも書かれているように、日本に幼子を残してきた兵士に関するシーンです。これはほんとに身につまされ、涙があふれてきます。
また主題歌であるさだまさしの「防人の歌」も、詩自体は訳がわかりませんが、映画に非常にマッチしたいいメロディーだと思いました。 (2007.03.12 20:55:39)

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Re:当時感動しました。主題歌シングルレコードも買いました。(03/11)

モイラ2007 さん

ITOYAさん、こんばんは♪

＞戦争の最前線の悲惨さをちゃんと描いていました。
＞ラストの夏目雅子の演技も良かったです。
＞
＞その悲惨な描写にさだまさしの歌が流れて（確か歌詞も映されたと）、大感動、大音響とともに第一部が終わり、今では珍しい「休憩」になったと思います。
＞主題化レコードを買ったら映画のアレンジと違っていたのを覚えてます。（たしか映画版はサントラLPに収録。）
＞特撮も少しだけありました。

さだまさしの唄はモイラは正直、あまり好きではないのですが、
この「防人の唄」は、素晴らしいと思いましたね。
レコードは確かアコースティック・ギター版で、
映画で流れたのは、フルオーケストラ・バージョンでしたよね。
(2007.03.13 22:35:12)

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Re[1]:君死に給うことなかれ★「二百三高地」(03/11)

モイラ2007 さん

時計屋チョージさん、こんばんは♪

＞特撮得意な東宝は海戦中心でいけますが、東映は陸戦でしょう。。。
＞そこがまず｢凄い」

そのとおりですね！

＞それから同じテーマの｢日本海大海戦」なんかの場合でもそうですが、東宝は｢偉い人｣視点になっちゃう。
＞「ロシア文学を愛する青年の下級将校」が主人公、というのがこの映画を傑作にした所以でしょう。

あおい輝彦が、好演でしたね、本当に。
あのころ彼は、まだ「青年」でした‥‥
(2007.03.13 22:38:04)

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Re:私も観ました(03/11)

モイラ2007 さん

takusyunさん、こんばんわ♪

＞何の罪もない人々を戦場に送り込み、虫けらのように人を殺し、そして虫けらのように殺される戦争・・・、その人間の愚かしさをまざまざと見せつけられました。
＞しかし当時の男たちは、美しき日本そして親兄弟、妻子を守るため潔く散っていたかと思うと涙が出てきます。
＞そしてこの映画で一番涙を誘うのが、やはりモイラさんも書かれているように、日本に幼子を残してきた兵士に関するシーンです。これはほんとに身につまされ、涙があふれてきます。
＞また主題歌であるさだまさしの「防人の歌」も、詩自体は訳がわかりませんが、映画に非常にマッチしたいいメロディーだと思いました。
-----
この映画を観て、痛感したのは、
決して戦争なんかしてはいけない、
たとえどんな大義名分を国家や為政者が掲げても、
大量殺人に変わりないのだからということです。
自分たちの兵だけじゃない。他国の兵、ひどいときは民間人まで殺すんですからね。
米英のアフガン報復、イラク戦争など、その良い例でしょう。

乃木将軍の無能ぶりが新聞沙汰にもなり、
群集が赤坂の乃木邸に石を投げつけるシーンも印象的でした。
どれほど石を投げられても、静子夫人が、
「こんな家くらいなんです。好きにさせてあげなさい」と雇い人たちに言った言葉‥‥
さすがは明治女、武人の妻だと思いました。
もっともこの静子夫人も、最初は殉死を拒んだそうですね。

(2007.03.13 22:44:21)

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