★モイラの名画座★

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2007.03.17

美とはかくも残酷なものか‥‥！★「ベニスに死す」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

1976年のきょう３月17日、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督は、64年という、決して長くはない生涯を閉じました。
ミラノの貴族の家に生まれ育ち、それゆえ、貴族を作品の題材にたびたび取り上げた彼が、生涯に撮った映画の数は18本。
その中でも、映画ファンから熱狂的な支持を得ている名作といえば‥‥やはり、これでしょう。

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この「ベニスに死す」 ('71年　伊=仏）は、ドイツの文豪トーマス・マンの同名小説を映画化したもので、
小説では主人公は作家ですが、映画では作曲家になっています。
愛する妻子を失い、人生に絶望しかけた初老の作曲家（ダーク・ボガード）が、心の疲れを癒すためにベニスを訪れ、
海辺で、母と姉に連れられた、女と見紛うばかりの、まるでギリシア神のような美しい少年タッジオ（ビョルン・アンドレセン）を、偶然見かけます。
作曲家はその少年タッジオに究極の美を見出し、海辺で彼の姿を眺め、時には彼の姿を求めて浜に続く回廊をさまよいます。
作曲家は少年に直接声をかけることはありません。否、少年があまりにも美しく、神々しいので、声をかけられないのです。
少年を心の底から愛し、その美しさを追い求めながらも、手に入れることができないもどかしさ‥‥
その悶々とした思いから、娼婦を買い、つかの間の快感を味わっても、なおもつのる少年への思い。
そんな時、疫病が作曲家を襲い、彼は病にやつれた顔を隠すため化粧を施し、浜辺のデッキチェアに腰掛け、少年を遠目から恋慕いますが、
病は完全に彼を蝕み、化粧は醜く剥げてゆき、やがて病苦と少年への思慕の果てに‥‥

モイラは名画座のスクリーンでビョルン・アンドレセンを観た時、
そのあまりの美しさに、思わず息を呑みました！
「世の中に、こんな美しい人がいるなんて‥‥！」
ヴィスコンティ監督は、原作通りのギリシア神のような美少年を探すため、何度もオーディションを行い、やっと彼を見出したそうです。
よくもまあ、これほど美しい人を見つけたものだと、モイラは監督の執念に心底感動しました。
セリフがとても少ない映画でしたが、だからなおのこと、ベニスの美しい海岸の風景、
主人公の愛と苦悩、そして何より、少年の美しさが浮き彫りにされているようです。
映画の全篇に流れるマーラーの交響曲第五番が、映画の美しさと残酷さを盛り上げていましたね。
疫病が町に蔓延しても、少年の中に見出した美を追求したい一心で、死をも辞さず、町にとどまる主人公‥‥
美しさとは、なんと残酷で罪深いものでしょう‥‥！
モイラはこの映画を観ながら、大好きな八木重吉の詩を思い出していました。

「わたしみづからのなかでもいい
　わたしの外の　せかいでも　いい
　どこにか　『ほんとうに　美しいもの』は　ないのか
それが　敵であつても　かまわない
及びがたくても　よい‥‥ 」

そう‥‥美しいものは、たいていの場合、及びがたいものだし、敵である場合も多いものなのです。
少年の若さと美、主人公の老いと醜‥‥その残酷なまでの対比がまた、印象的な作品でした。

★もっとヴィスコンティ！★