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2007.05.19

むき出しの生と性！★「鬼婆」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

映画ファンにとって、観ていてガツーン!!　と頭を殴られるようなショッキングな映画との出会いは、
このうえなくうれしいものです。
もうだいぶ前に名画座で観たものですが、この作品がまさに、「頭ガツーン!!」でした。
'64年の新藤兼人監督・脚本作品、「鬼婆」（近代映画協会）です!!

鬼婆(DVD) ◆20%OFF！

戦国時代、農民だった中年女（乙羽信子）は、一人息子を戦にとられ
田畑も荒らされて百姓ができなくなり、
生きるために嫁（吉村実子）と二人で、落武者を竹槍で突き殺し、
鎧兜を剥ぎ、それを食料に替えていた。
ある時、女の息子と一緒に戦にかり出された村の若者・八（佐藤慶）が戻ってきて、
息子は戦乱のどさくさで殺されたと告げた。
ほどなく性欲を持て余した八は、女の嫁にしきりに言い寄るように‥‥
嫁は初めは無視していたが、やがて男の肌恋しさから、ついに八と男女の仲に‥‥！
夜、女が寝入ったすきに、白く不気味な月あかりの下、
原っぱ一面のすすきが風になびく中、嫁は八の小屋へとひた走り、
若い男女は獣のように互いの身体をむさぼるのだった。
しかし、そのつかの間の快楽は、血も凍るような恐怖の序曲だったのだ‥‥!!

日本の昔話（と言うより、怪奇伝説）のような形をとりながら、
人間が本来持つ生と性への執着、渇望を、実にダイレクトに、かつ象徴的に描いた
新藤監督渾身の力作です！
かつて「100万ドルのえくぼ」と呼ばれた清純派アイドルだった乙羽信子が、
バッサバサにふり乱した髪、照りつける陽光と土ぼこりで真っ黒になった顔、
それでいて目はやたらにギラギラさせ、まさに鬼婆そのもの！
これぞ、「迫真の演技」と言えるでしょう！
この映画の時は、40過ぎていたと思うんですが、上半身裸にもなっていましたね。
吉村実子も全裸で夜のすすきが原を走るなど、体当たりの演技をしていました。
（このシーンは、映倫でちょっと問題になったそうです。馬鹿だねえ、映倫って‥‥）
鬼の面をかぶった鎧兜の侍役の宇野重吉も
本物の夜叉のように恐ろしかったです。

この作品のモチーフは、新藤監督が幼い頃、お母さんから夜、枕元で聞かせてもらった恐ろしい昔話。
「鬼になった女」の話で、「子どもが寝入る時に怖い話を聞かせるお母さんって‥‥」と、思わなくもないですが、
のちのちそれが、こんな傑作映画として実を結んだのですから、
素晴らしい情操教育だったのでしょうね。
印旛沼にプレハブ宿舎を建ててのオールロケがまた、素晴らしい！
風にそよぐ原っぱ一面のすすき、墨のように黒い夜空に浮かぶまぶしいほどの月、
そして‥‥ 原っぱの中に不気味に黒い口をあけた大きな穴‥‥
この穴は、生きるものが決して避けられない「死」を象徴しているようですね。
モノクロームの映像ならではの光と影、白と黒のコントラストを、見事に表現しています。
林光の、どこかショッキングな音楽の効果が、この作品の恐ろしさ、業の深さ、そして味わい深さを倍増させています。

「原爆の子」「第五福竜丸」「裸の十九才」「午後の遺言状」など、
社会問題を提起した秀作を数多く撮ってきた新藤兼人監督は、 90歳を過ぎた今なお現役。
創作意欲は依然衰えておられないようです。

★もっと新藤兼人監督！★