★モイラの名画座★

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2007.05.23

これぞ教育の原点★「学校」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

数年前から教育現場では、学級崩壊なるものが騒がれ、
不登校児は相変わらず多く、給食費の不払い問題なんてものも浮上しています。
さまざまな問題を抱える現在の学校‥‥
きょうは、「教育の原点とは何か？」を問う素晴らしい映画をお届けします。
タイトルはずばり、「学校」（'93年　松竹）。

学校

東京下町の片隅にある夜間中学。
そこには、年令も職業も国籍もさまざまな生徒たちが通っていた。
髪を染めた不良少女のみどり（裕木奈江）、
日本語の読み書きが不自由な６０近い在日韓国人のキムさん（新屋英子）、
昼間は肉体労働で汗を流す勤労少年カズ（萩原聖人）、
昼間の中学でいじめにあい、不登校だったえり子（中江有里）
数年前に日本に移住してきた日中ハーフの張青年（翁華栄）、
経済的な事情で、子どもの頃、ほとんど学校に通えなかったイノさん（田中邦衛）、
担任の黒井（西田敏行）は、読み書きの不自由な生徒たちには、熱心に読み書きを教え、
他人との交流が苦手な若い生徒たちには、ゆっくりとでも学校というものに慣れさせようと、地道な努力を重ねていた。
そんな中、浮上する生徒の就職問題。ことに張は日本人とのコミュニケーションがまだ不得手で、なかなか彼を受け入れる職場が見つからなかった。
それでも、普通の中学と同様、修学旅行を楽しむ生徒たち。
しかしある時、イノさんが胃ガンに冒されているのがわかった‥‥

「寅さん」シリーズの山田洋次監督が、なんと１５年もの間、あたためていた企画で、
製作にあたって、夜間中学をいくつも取材したそうです。
読み書きがうまくできずに、「私はバカだ‥‥」と泣くキムさんを励ます黒井先生の言葉が、じーんときましたね。
「キムさん、キムさんのどこがバカなんだ？日本に来て一生懸命働いて、焼肉屋繁盛させて、３人の子どもを立派に育てて。そんなことがバカにできるか？」
生徒が落ち込んでいたら、先生は励ます。生徒が勉強が進まず、悩んでいたら、先生は手助けする‥‥
これぞまさしく教育の原点ですよ！
生徒が間違えたり、できなかったりすると、すぐ「こんなこともできないのか?!」と怒る先生に（実際そういうのが多い）、黒井先生のセリフを聞かせてやりたいです。

それぞれに挫折を経験し、苦労を重ねた生徒たちの物語は、
ともすれば湿っぽくなりがちですが、そこは山田監督、
笑えるところは大いに笑わせます。
イノさんがカタカナの書き取りの授業で、オグリキャップの有馬記念優勝の模様を、
まるで講談師のようにとうとうと話す場面には、ゲラゲラ笑いました。
あと、漢字がほとんど書けないイノさんなのに、競馬狂ゆえ、
「配当」とか「連勝」という漢字は読めるというのも。

この作品は、山田監督が最も得意とする分野「人情悲喜劇」でもありますが、
「学校の本来あるべき姿とは何か‥‥？」という問いかけが、全篇にあふれています。
そして随所に、「生徒たちが学ぶ喜び」が描かれています。
極論かもしれないけど、モイラは、学校は本来、勉強を教える（できれば国語を重視）‥‥これで十分だと思います。
やれ髪の毛の色がどうのこうの、服装がどうのこうの‥‥そんなくだらん校則、一切いらな～い！
生徒に知らなかったことを知る喜び、学ぶ喜びを与える‥‥これがいっちばん大事です！
事実モイラは小学１年生の秋、初めて漢字というものを学校で勉強し、
へったくそな字ながら、ノートに「先生」と書けた時は、
「やった！あたしも漢字書けるようになった！」と、もう飛び上がるくらいうれしくて、
早速、近所の幼稚園の子どもたちを集めて、「先生」という字を書いてみせ、教えたものです。

現在の教育現場の先生方も、ずいぶんがんばっていらっしゃるんでしょうけど、
生徒に「学ぶ喜び」を与えられない人は、教師を続ける適性がないと言えるでしょうね。
映画人もそうです！
観客の心を動かす映画を作れない人は、もはや映画人ではない！