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2007.09.21

若きミフネが熱演！★「酔いどれ天使」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

黒澤明の遺言『夢』

「黒澤作品＝大掛かりな時代劇」という図式が頭にこびりついている方が、結構おられるようですが、
名もなき人々を主人公にした、ヒューマニズムに溢れた作品を数多く撮ったのも、見逃せません。
そのひとつが、　「酔いどれ天使」（'48年　東宝）でしょう。

DVD　酔いどれ天使（12/7 発売予定）

戦後の混乱が続く東京。
飲んだくれの身を持ち崩した初老の医師真田（志村喬）のもとに、
松永（三船敏郎）というりゅうとした身なりの羽振りのよいヤクザが、
出入りで撃たれた傷を治してほしいと訪ねてきた。
真田は松永がしきりに咳き込む様子から、彼が結核を患っていることを知り、
ただちに治療しろと忠告するが、松永は内心怯えながらも虚勢を張るばかり。
そのうち、松永の病状は次第に悪化し‥‥

黒澤監督はヤクザを心の底から忌み嫌い（まあ好きな人はあまりいませんがね）、
ヤクザという生き物が、どれほどくだらなく、また哀れな存在かということを、
この映画で訴えかけています。
それも腕は良いのに酒で身を持ち崩した医師という、非常にユニークな、人の世の裏側ばかりを見てきた、ある意味ヤクザと似た人間の目を通して。
自分が結核ではないかと怯えながらも、その怯えをヤクザ特有の虚勢で必死に隠そうとする松永に、真田が怒鳴りつけるセリフが、心に響きました。
「バカッ、俺はお前が病気を怖がってるのを笑ってるんじゃねえぞ。怖いものを怖がるのは当たり前だ！それを恥ずかしがるお前の根性がおかしいんだ！」
当時は不治の病といわれた結核。それは恐れられていたそうです。
人に因縁つけたり、脅したりする時は勇ましいトラでも
死に至る病を宣告されたら、たちまち気弱な子猫になる若いヤクザを、
デビュー間もない三船敏郎が熱演していました。
三船氏はカメラマン助手として東宝入社を希望していたのに、
従来の二枚目俳優にはない精悍な容姿
入社試験で「笑ってみて」と言われて、「そんな急に言われたって笑えませんよ」と切り返し、
「うーん、こいつは俳優としては不適格。不採用だな」と上層部が言ったのを、
「私が全責任をとるから、あの三船ってやつを入社させてくれ！」とお願いしたのが、黒澤監督。
まさかこの時は黒澤監督も、三船氏がのちに「世界のミフネ」になるとは想像しなかったと思いますが、
今までにないタイプを主役に抜擢するところなんぞは、さすが新しもの好きの監督ですね。
結核と闘いつつも明るさを失わない女学生（久我美子）と真田の心の交流のあたたかさは、もう言うことなし。
松永の情婦奈々江役の木暮実千代（当時では珍しい四年制大学卒の女優さんです）
バラック酒場の女ぎんを演じた千石規子。
薄気味悪いヤクザの親分役の山本礼三郎。
みな、それぞれの持ち味を出していましたね。

★もっと黒澤監督について知りたい方へ‥‥★