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2009.06.05

彼は決して英雄ではない★「実録犯罪史　金（キム）の戦争」

カテゴリ：嗚呼なつかしのテレビドラマ♪

1968年冬、静岡県清水市でヤクザ２人を射殺したあと、寸又峡の温泉宿に逃げ込み、
経営者の家族や宿泊客13人を、猟銃を武器に、88時間にわたって人質にとった男が
一躍マスコミで有名になりました。
男の名は金嬉老（キム・ヒロ　本名クォン・ヒロ）。39歳。
清水生まれの在日コリアン２世でした。

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かねてから多くの日本人が抱き、今もなお抱いている在日コリアンへの差別や偏見を
告発した名作とも言われています。
金嬉老の母国韓国では、一時期彼は英雄のようにみなされていました。
しかし、ビートたけし演じる金嬉老は、英雄には程遠い、哀しい犯罪者、人生の敗残者とも言えました。
そういう視点で金嬉老という男を描いたのが、
視聴者の心をうったのだろうと思います。

貧しさと国籍から、小学校では同級生はもとより教師からもいじめられ、
丁稚奉公に出たけれど、窃盗で捕まり、
以後は少年院・刑務所とシャバを行ったり来たり。
シャバにいたほうが短かった、哀しいほどお粗末な青年時代でした。
そして、ヤクザという世間のクズのような連中と金銭トラブルになり、
そのクズどもからも、「朝公（あさこう）」と罵られ、
金の怒りは発砲という形で爆発したのです。

ニュースフィルムで見たことのある実際の金嬉老は、
篭城中、マスコミのインタビューに、明るい笑顔であれこれと答えていた上、
見た目、39歳という実年齢より若く見えましたが、
ドラマの金は、ほとんど笑顔を見せません。
ひたすらに世をすねた印象でした。
強烈に印象に残っているのが、金が篭城中、
ホルモン焼きの店を細々と経営するオモニ（樹木希林。超名演でした！）から
「せめて死に際だけはきれいに」と、真っ白く洗い上げた韓服を差し入れられた時の
張り裂けるような表情です。
そして、監禁された宿泊客の中に、国家試験を控えている人がいると聞いて、
「試験ってのは大事だよな‥‥」と、ポツリと呟き、
かつて自分も獄中で、努力して自動車整備士の資格試験に合格し、
出所後は自動車工場に勤めたけど、国籍のせいで、
どの工場も長続きしなかったことを話す場面も印象的でした。
でも、一番ショッキングだったのは、
金がこれまでの人生で、保身のために、使いたくもないのに使っていた十いくつもの日本名を
襖にずらりと書きつらねる場面です。
普通の日本人には、とても想像がつかない、哀しい迫害の歴史です。

このドラマは、まだ金嬉老が無期懲役で千葉刑務所で服役中に製作されました。
彼が仮出所したのは、1999年。もう70歳になっていました。
モイラは金嬉老仮出所のニュースをテレビで知った時は、びっくりしましたね。
彼はもうとっくにシャバに出ているもんだと、思っていたのです。
獄中で勉強しただけにしては、ずいぶん流暢な韓国語で、仮釈放の記者会見に答えていたのにも、びっくりしました。
オモニの遺骨を抱いて、オモニの故郷・釜山に渡った金ですが‥‥やっぱり彼は英雄じゃありませんでした。