みみ の だいありぃ

みみ の だいありぃ

ジャカランタ






3週間くらい前のこと。
ちょうど母と祖母が遊びに来ていた。

あたしたちは、買い物嫌いの旦那を置いて、3人でショッピングに行った。

その帰り道。
あたしはむっとして運転をしていた。

だって、母が「いいんじゃない?買ってあげるわよ。」とせっかく言ってくれたのに、祖母に「やめときなさい。あんた、何枚同じような洋服あんの?」とやわらかい京都の言葉でたしなめられたから。

実はあたしと旦那は、この母と祖母が訪ねに来たとき、一緒に行くベガス旅行のため、ここしばらくお金を使わないで頑張ってきた。
だって、母と祖母に豪華旅行(??)を味わってもらうために。

だから、母が、「いいわよ、これ、買ってあげる!」と言ってくれて、あたしの目はキラキラ輝いていた。

久しぶりじゃん!新しい服!!
いいの?お母さん!ありがとう!!

なのに。
祖母の一言であたしの洋服はあっさり棚に戻された。

もーーーーーーーーー!!
なんだよーーーーーーー!!
おばあちゃま、自分は老人会のなんとかさんとかいって、山盛りお土産買ってるくせにぃ!!

あたしはふてくされながら、車に乗り込み、そして二人を乗せて家に向かって運転していたのだ。

モールからうちまでの10分弱の間、紫の花が桜のように咲き乱れている。
そこで、祖母が言った。

「ああ、ほんま、きれいやねぇ。この花、なんて言うか、知ってる?」

母は「なあに?」と答えた。
ふてくされていたあたしは答えなかった。

「ジャカランタ、いうんねん。きれいやろ~。」

「ジャカランタってなんか、歌の名前にありそうね。」

母は明るく、ジャカランタの歌を即興で作り、歌い出した。

あたしは、「へえ、ジャカランタか。」なんて思いつつ、やっぱりふてくされていたので、返事をしなかった。

それ以来、なんどもなんどもジャカランタの木の下を通るとき、祖母は言った。

「この木、なんて言うんだったっけ?覚えてる?」って。

母は、おちゃらけて、その都度、

「ジャカランタでしょ。ジャカランタンタン」と歌い出す。

あたしは、その度、また気まずさを覚え、何も言わなかった。
言えなかった・・・。




考えてみると、あたしは、祖母に対して、何度もふてくされてきた。

あたしの留学先での卒業式に母と祖母が来たとき、本当は彼氏と遊びたかったのに、祖母たちがいるからってホストファミリーに外に出してもらえなかったとき、あたしはふてくされた。

最初にイギリスに旅行に行ったときも、祖母がイギリスイギリスって言って、あたしのアメリカンアクセント(っていっても、ジャパニーズアクセントも入ってるけどね)を直すから、神経にさわり、ふてくされた。
祖母のイギリス旅行に付き合わされるより、その当時の彼氏と一緒にいたかったとかまで思ったりしたし。

次にヨーロッパに旅行に行ったときも、同じ。
以上にヨーロッパの歴史について誉める祖母に少々うんざりきてた。

それ以外にも、祖母と出掛けては、ふてくされた事が数知れず。
だって、祖母は、あたしの買い物癖(日本ではかなり派手に買い物していたのでね)について説教をすることが多かったから。
黒人と一緒にいることについても、家族のために、うんちゃらかんちゃらを延々に言われたこともあり、その度に反発した。

そして、その度に、ものすごく後悔した。

だから、今回、母と祖母が訪ねに来たときは、一度も、一度たりともそういう態度は取らないと固く胸に誓っていたのに・・・。

ジャカランタっていう名前を初めて知ったその日、あたしは、またもや祖母に対してふてくされてしまったのだ。

ああ。
後悔しても、もう遅い。




祖母はどんどん年を老いてきている。
当たり前。
だって80だから。

ラスベガスに行ったときも、ここら辺にいたときも、祖母の老いを感じずにはいられない場面がいくつもあった。

車をあけるのにも時間がかかる祖母。
気持ちばっかりせって、つんのめりそうになって歩く祖母。

祖母はずっと教師をやってきていた。
本当にやる気マンマンで、今でも英会話に水泳に讃美歌に刺繍に英語講読会に外国人への日本語クラスに積極的に活動している。
本当にシャキッとしたタイプの人だ。
今でも背筋は80歳とは思えないほど、伸びている。

だから、ドアを開けようとノロノロしたり、つんめりそうに歩いたり、そういった姿を見ると、祖母らしくなく、寂しくなる。

祖母は、それでも、生きていられる間に、出来るだけのことを吸収しようと、必死に生きている。

ラスベガス旅行について、涙を流してあたしたちに感謝してくれた祖母。
「時間が許す限り、色々な経験をしたいんや。この旅行も生まれて初めてのことばっかり。ほんま、こんな素晴らしい思い出をありがとさんな。」って。

あたしに向かって「あんた、○○(旦那)さんはほんまええ人やなぁ。しっかりしてるし考え方も賢いわ。おばあちゃんやお母さんのためにこんなに一生懸命してくれるし。あんたも負けないように頑張りなさいね。」と言ってくれた祖母。

空港で、母と祖母が帰るとき、3人で、見えなくなるまで手を振り合った。
ほんとに、見えなくなるまで手を振り合った。

昔、あたしが祖母の家に遊びに行くたびにそうしてくれたように。
あたしが人込みの中に紛れても、絶対に振った手を止めなかった。




ああ、あたしは祖母をものすごく尊敬していて、愛しているのに、どうしてああいう態度を取ってしまったんだろう・・・。

これから、あとどれくらい生きてくれるか分からない。
いつ、どこで何があるか、分からない。

ああ、あの時にああしておけば、と後悔だけはしたくない・・・。
尊敬していることをもう一度、もう二度、伝えたい。




今年の夏も、あたしは日本に帰る。
絶対に、絶対に、絶対に、そんな後悔する態度はとらないって今日ここに誓う。



今日もジャカランタの下を通り、心の中でつぶやいた。

ジャカランタ、でしょ!おばあちゃま!!
あたしはまだ覚えているよ。
一生覚えているよ。
絶対に忘れないよ。
洋服なんていらないから、おばあちゃま、長生きしてね。
ずっとずっと元気でいてね。


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