みみ の だいありぃ

みみ の だいありぃ

奴の言い訳



だけど、彼女に対して、あたしは全く同情しなかった。

それどころか追い出されて当然だとさえ思った。



だって、あたしに向かって来たんだもの。

「もう、あんなオトコなんてどうでもいい」とか言っておきながら。

向かう相手が違うでしょ。



でも、諦めたのか、そのうちに雨の音以外、何も聞こえなくなった。



「あたしも帰る。悪いけど、こんなドラマ、あたしいらないよ。あんたはあの子をここまでさせた。もう、それで十分。」



そういうと、あたしも荷物をまとめて立ち上がった。



「駄目だ、君は行っちゃいけない。絶対に行かせない。」



奴は、またもやあたしを後ろから抱きしめた。

そして、ベッドの方へ、あたしもろとも、倒れた。



あたしは、何度も何度も奴から逃れようと、もがいた。

でも、奴は手の力をゆるめることを決してしなかった。



あたしは、思いっきり、奴の手を噛んだ。

でも、奴は手の力をゆるめなかった。



あたしは足で、腕で、爪で、頭で、あらゆるものを使って奴を攻撃した。

でも、どんなに暴れても、身長差が30センチもある奴に勝てるわけなかった。



散々暴れた後、ついには、あたしはベッドの縁に座り、奴がその後ろから抱きしめるような形で座ることを許した。



彼女が去ったのか去ってないのか、分からなかった。

でも、あたしは、なんとなく、本能で、今はすぐに家を出ない方がいいと感じた。

だから、あたしは、奴と二人っきりで部屋の中に残った、



後ろから奴に羽交い締めにされて。

聞こえる音は、雨の音のみ。

何一つ聞こえない。

誰一人動かない。



窓には、雨のしずくが当たっては垂れていた。

その様子をぼんやり見ていた。

もう外はすっかり暗かった。



そして、あたしのちっぽけな脳みそは、あれこれ考えるのに忙しかった。



なぜ、あの子のことを知らないって、言った?

XXの彼女って、どういうこと?

XXって?

なぜ、彼女はあたしに向かって来た?

一緒に帰ろう、こんな男は放っておいてって話してたのに。

なぜ?なぜ?



あたしの「なぜ?」はいつの間にか、金切り声に変わっていた。

そして、奴の腕から飛び出た。



「知らないなんて、どうしてそんな事、言ったの?ふざけないでよ!あたし、全部聞いたんだから!もう、いい!行かせてよ!あたしだけじゃ足りないんでしょ。あんたって人は!!あたしはあんたと一緒にいて幸せになれると思わないから!!」

あたしは、そう叫んだ。



「違うんだ!俺は君だけと一緒にいたいんだ!!君は何にも分かってない!」



「分かるわけないじゃない!現にあんたはあの女と浮気したじゃない!あんたの体は反応したんでしょ!!」



すると、奴はあたしにこう叫んだ。

「これは復讐だったんだ!XXを覚えているだろ?君のオトコだよ。」と。



あたしは言い返すことが出来なかった。

あたしはカウンターノックをくらった。

XXとは、やっぱり、嫌な予感の通りだった。



XXとは、たしかに、あたしが奴と出会いたての頃、浮気をした相手だった。

奴の友達と知らず、あたしが二股をかけていた相手だった。



本気じゃなかった。

ただ、若かった。



もちろん、そんなのが言い訳として通用するとは思わない。

でも、「いい男」がそこにいたから、あたしは浮気をした。

だって、奴のポケットから、引き出しから、あちらこちらから、いろんな女の電話番号を見つけていたし。

奴もしていることをあたしもしただけ。

奴とそいつ、どっちがあたしを良く扱ってくれるか、ちょっと天秤にかけてみたかったのだ。

ただそれだけだった。



でも、それがばれた時、奴は、ものすごく悲しんだ。

そして、静かに怒った。



だけど、あたしと別れたりなんかしなかった。

それどころか、奴はあたしに彼と別れさせた。

真横で電話をさせられ、「もう二度と会いません」と言わされたのだ。



その後、奴はあたしとの関係を更に発展させた。

もう、すっかり水に流せているんだと思っていた。



この、どしゃぶりの雨が、建物も、車も、道路も、何もかもの汚れを全て流し去るように。

あたしの浮気は、奴の中で、すっかり流れて消えていたんだと思ってた。



なのに、奴は、あたしと一緒にいた間、ずーっとそのことを忘れていなかったのか。

そのことは一切口にしなかったのに。



口にできなかったほど、あたしは奴を傷つけていたのか・・・。



奴の説明は、こうだった。



ある時、XXと彼女が一緒に歩いているところを見かけた。

そして、その後、奴は彼女が一人でいるところを見かけた。

あたしがヤッタ男の女。

そう思うとメラメラ怒りがわいてきた。

だから、声をかけてみた。

すると案外、簡単にのってきた。

電話番号をあげたら、わりとマメにその女からかかってくる。

どうしようか迷ったけど、 ある日、一緒に食事をした。

お酒を飲むと、彼女は奴の部屋に行きたいと言った。

そして、奴は、あたしとあたしがヤッタ男のことを思い出し、彼女とヤッタ。



奴いわく、後味が最高に悪かったらしい。

こんなに後味のわるい浮気だったのに、その女が勝手に家に押しかけて、あたしと鉢合わせになるなんて・・・って言っていた。



真相はどうだか分からない。

これは、奴からの一方的な説明だったから。



でも、あたしははっとした。



あたしの母や親友がいつも言う、「悪いことをしたら、必ず自分に返ってくる。バチがあたるんだよ。」という言葉。



あたしは、たしかにバチがあたったんだ。

浮気をしたから、バチがあたったんだ。



忘れた頃に。



浮気をされるということは、こんなに嫌なものなんだ。

あたしはひょっとして、奴に同じような嫌な気持ちをさせていたのか。



奴はあたしに近づいてきた。

そして、あたしの髪にそっと触れた。

奴が好きなあたしの髪。

そして、奴は、後ろからまた、静かにあたしを抱き寄せた。



「行かないでくれ。」



そして、しばらく、あたしたちは、このまま動かないでいた。



雨の音は、いっそう強くなり、まるで外に出るなと言っているみたいだった。


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