みりの巣

みりの巣

『文字一つの返し』/十訓抄(説話)

 『文字一つの返し』/十訓抄(説話)

宮中の女性に御簾の中から手紙を渡されて、返事しようとしたら偉い人が来ちゃって、はやくどっかいかないとあかんから、機転をきかせて一文字だけかえることで返事したっていうお話。_(._.)_

急いでてもそうしようと思いつくところがすごいなぁ(・。・)


●十訓抄
 ・訓:教訓の意。
 ・抄:テキスト、教科書の意。
 ・ジャンル:説話

●成範
 ・ 藤原通憲の子
 ・ 平清盛の長女と婚約したが、解消した。

● 平治の乱(1159年)

 ■ 白河院政で、院政下、院近臣である藤原通憲が実権を握っていたが、
  その時に平治の乱が起こった。
 ■ 平治の乱は伸西の専制強化による院近臣による対立で、保元の乱
  (1156年)で戦功のあった平清盛と源義朝の勢力争い。

 [結果&意義]
源氏が失脚し、平清盛による平氏政権の成立で、政治の実権が武士の手に移った。

 ・ 勝ち 平清盛(父)、平重盛(子)、藤原通憲

 ・ 負け 源義明、藤原信頼、藤原義平、源義朝、藤原成範





『文字一つの返し』/十訓抄(説話)

成範の民部卿 (しげのりのみんぶきょう) 、事ありて後 (のち) 、召し返されて、内裏 (うち) に参られたりけるに、昔は女房の入立(いりたち)なりし人の、今はさもあらざりければ、女房の中より、昔を思ひ出でて、

{ 成範の民部卿は事(=事件:平治の乱、権力者:平清盛、後白河上皇)があった後召還されて、宮中に参上なさった時に、昔は女房の入り立ちであった人が今はそうでもなかったので、たくさんいる女房の中からある女房が昔を思い出して、 }


雲の上はありし昔に変はらねど見し玉だれのうちやゆかしき

{ [歌意]
雲の上(宮中)は、以前(あなたがいた頃)と変わらないけれど(あなたが)見た、玉だれの中が見たいですか。 }



と詠み出だしたりけるを、返り事せんとて灯炉 (とうろう) の際に寄りけるほどに、小松の大臣 (おとど) の参りたまひければ、

{ と歌を詠んで(御簾の下から)出したので、返歌をしようと灯炉のきわに寄った時に、小松の大臣が参上なさったので、 }


急ぎ立ち退くとて灯炉の火のかきあげの木の端にて、や文字を消ちて、そばに、ぞ文字を書きて、御簾のうちへさし入れて出でられにけり。

{ 成範は急いで立ち去ろうとして(成範は配流の後に召還された身であり、既に入り立ちの身ではない上に、時の権力者は清盛の長男である重盛にかわっていたため、分不相応だから急いで立ち去ろうとした)、

灯炉の火のかきあげの木の端で、「や」という字を消して、そばに「ぞ」という文字を書いて、御簾の中へ差し入れて出て行かれた。 }



女房取りて見るに、文字一つにて返しをせられたりける、ありがたかりけり。

{ 女房がそれを取ってみると、文字一つで返歌をされていたのはめったにないことだった。 }

{ 文字一つで意味がどう変わったかは
・女房→成範
 「うちやゆかしき(内がみたいですか)」:「や」は疑問の係助詞

・成範→女房
 「うちぞゆかしき(内がみたいですよ)」:「ぞ」は強意の係助詞

・一文字を変えただけで問答になり、成範の機転の良さがうかがえる }






十訓抄


十訓抄の敬語表現についての研究


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: