みりの巣

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♪ 詩 『林と思想』他/宮沢賢治

『林と思想』/宮沢賢治

宮沢賢治詩集・中村 稔編

なんだか気に入っちゃった詩です。(^^)

( ) =読み仮名

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『林と思想』/宮沢賢治

そら ね ごらん
むこうに霧にぬれている
(きのこ) のかたちのちいさな林があるだろう
あすこのとこへ
わたしのかんがえが
ずいぶんはやく流れて行って
みんな
溶け込んでいるのだよ
ここいらはふきの花でいっぱいだ

   [一九二二年六月四日]

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『永訣の朝』/宮沢賢治
宮沢賢治詩集・中村 稔編

これは有名ですよね。「あめゆじゅとてきてけんじゃ(雨雪とってきてください)」と死に際の妹が言う詩。この後まだまだこの話の続きが別のタイトルでありますが、とりあえず有名なこの詩だけ書きます。
ひらがな多い・・・


( ) =読み仮名





『永訣の朝』/宮沢賢治

きょうのうちに
とおくへいってしまうわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
  1.(あめゆじゅとてきてけんじゃ)
うすあかくいっそう陰惨 (インザン) な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
   (あめゆじゅとてきてけんじゃ)
青い蓴菜 (ジュンサイ) のもようのついた
これらふたつのかけた陶椀 (トウワン)
おまえがたべるあめゆきをとろうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのように
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてきてけんじゃ)
蒼鉛 (ソウエン) いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといういまごろになって
わたくしをいっしょうあかるくするために
こんなさっぱりした雪のひとわんを
おまえはわたくしにたのんだのだ
ありがとうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてきてけんじゃ)
はげしいはげしい熱やあえぎのあいだから
おまえはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを・・・・・・
・・・・・・ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさみしくたまっている
わたくしはそのうえにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系 (ニソウケイ) をたもち
すきとおるつめたい雫 (シズク) にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていこう
わたしたちがいっしょにそだってきたあいだ
みなれたちゃわんのこの藍 (アイ) のもようにも
もうきょうおまえはわかれてしまう
2.(Ora Ora de shitori egumo)
ほんとうにきょうおまえはわかれてしまう
あああのとざされた病室の
くらいびょうぶやかやのなかに
やさしくあおじろく燃えている
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらぼうにも
あんまりどこもまっしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
3.(うまれでくるたて
  こんどはこたにわりゃのごとばがりで
  くるしまなぁよにうまれでくる)
おまえがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまここからいのる
どうかこれが兜卒 (トソツ) の天の食に変って
やがてはおまえとみんなとに
聖い (キヨイ) 資糧をもたらすことを
わたくしのすべてのさいわいをかけてねがう


[一九二二年・一一月・二七日]

原注
1.あめゆきとってきてください
2.あたしはあたしでひとりいきます
3.またひとにうまれてくるときは
 こんなにじぶんのことばかりで
 くるしまないようにうまれてきます





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『春と修羅』/宮沢賢治

これも私は聞き覚えのあるものだったのと、なんとなく惹かれたために載せました。(^^;)


( ) =読み仮名




『春と修羅』/宮沢賢治

   (mental sketch modified)

心象のはいいろめがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲模様 (てんごくもよう)
 (正午の管楽よりもしげく
  琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
(つばき) し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
 (風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路 (めじ) を限り
 れいろうの天の海には
  聖玻璃 (せいはり) の風が行き交い
   Zypressen 春のいちれつ
    くろぐろと光素 (エーテル) を吸えば
     その暗い脚並(あしなみ)からは
      天山の雪の稜さえひかるのに
       (かげろうの波と白い偏光)
      まことのことばはうしなわれ
     雪はちぎれてそらをとぶ
    ああかがやきの四月の底を
   はぎしり燃えてゆききする
  おれはひとりの修羅なのだ
  (玉髄 (ぎょくずい) の雲がながれて
   どこかで啼く (なく) その春の鳥)
  日輪青くかげろえば
    修羅は樹林に交響し
     陥りくらむ天の椀 (わん) から
      雲の魯木 (ろぼく) の群落が延び
       その枝はかなしくしげり
      すべて二重の風景を
     喪神の森の梢 (こずえ) から
    ひらめいてとびたつからす
    (気層いよいよすみわたり
     ひのきもしんと天に立つころ)
 草地の黄金をすぎてくるもの
 ことなくひとのかたちのもの
けらをまといおれを見るその農夫
ほんとうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
 (かなしみは青々ふかく)
Zypressen しずかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截る (きる)
 (まことのことばはここになく
  修羅のなみだはつちにふる)

あたらしくそらに息づけば
ほの白く肺はちぢまり
 (このからだそらのみじんにちらばれ)
いちょうのこずえまたひかり
Zypressen いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ


   [一九二二年四月八日]





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『丘陵地を過ぎる』/宮沢賢治

私がなんとなく宮沢賢治の人間味を一番感じた詩です。
この人も同じ?人間なんや~って。(^_-)
最初何の話かわかりませんが最後あたりでようやく何の話だったのか繋がりました。(^^:)

( ) =読み仮名




『丘陵地を過ぎる』/宮沢賢治


きみのところはこの前山のつづきだろう
やっぱりこんなごつごつ黝い (くろい:くろくて見えにくい、青みのかかったくろ色、あおぐろ) 岩なんだろう
松や何かの生え方なぞもこの式で
田などもやっぱり段になったりしているんだな
いつころ行けばいいかなあ
ぼくの都合はまあ来月の十日ころ
仕事の方が済んでから
木を植える場所や何かも決めるから
ドイツ唐檜 (とうひ) にバンクス松にやまならし
やまならしにもすてきにひかるやつがある
白樺 (しらかば) は林のへりと憩み (やすみ) の草地に植えるとして
あとは杏 (あんず) の蒼白い (あおじろい) 花を咲かせたり
きれいにこさえとかないと
お嫁さんにも済まないからな
雪が降り出したもんだから
きみはストウヴのように赤くなってるねえ
   水がごろごろ鳴っている
さあ犬が吠え出したぞ
そう云っちゃ失敬だが
まず犬の中のカルゾーだな
喇叭 (らっぱ) のようないい声だ
  ひばがきのなかの
  あっちのうちからもこっちのうちからも
  こどもらが叫びだしたのは
  けしかけているつもりだろうか
  それともおれたちを気の毒がって
  とめようとしているのだろうか
ははあきみは日本犬ですね
  生藁 (なまわら) の上にねそべっている
  顔には茶いろな縞 (しま) もある
どうしてぼくはこの犬を
こんなにばかにするのだろう
やっぱりしょうが合わないのだな
   どうだ雲が地平線にすれすれで
   そこに一すじ白金環さえつくっている


      [ 一九二四年三月二四日 ]            







宮沢賢治研究文語詩稿・叙説


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