【SS】no title

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【SIDE:A ロックオン・ストラトス】


4人いるガンダムマイスターの最後の一人だと、スメラギが連れて来たのはまだ年端も行かない少年だった。

「まだ子供じゃないですか」

眉根を寄せて言ったアレルヤの反応が、普通の人間のそれだっただろう。
こんな子供が戦場でやっていけるのか?
こんな子供を戦場へ送るのか?
アレルヤ自身も決して大人とは言い難いのだが、アレルヤの言葉に込められていたのは、むしろ後者の非難が大きかった。
俺が初めて生きた人間に向って引き金を引いたのはいつだったか、ぼんやりと思い返す。

「年齢なんて関係ないだろう。よろしくな、刹那」

笑ってみせた俺を見返してきた強い瞳が、一瞬だけ怖れを映して消えた。
ああ――こいつは人を殺してるなと、その時直感した。

「じゃあロックオン、後はお願いね。
刹那も移動で疲れてるでしょうから、今日は適当に案内してくれればいいわ」

刹那から視線を外すのと同時にスメラギから降りて来た言葉は、思いもしないものだった。
てっきり、施設の案内はスメラギが済ませているものだと思っていた。

「・・・・・・案内もまだなんですか?」

「当分は同部屋なんだし、ちょっとでも早く親睦を深めておいた方がいいでしょ?」

同意を求められた刹那は、硬い表情のまま固まっていた。
トレミーの最終的なクルー配置が決まるまで、あと数週間はかかる。
その間は人の出入りも激しく、一時的にとはいえマイスターも個室を諦めざるを得なかった。
アレルヤがティエリアと同部屋を選んでくれたおかげで個室のようなものだったのだが、それも今日までらしい。

「はいはい、仰せのままに」

頼んだわよ、と言い残してスメラギが踵を返すと、アレルヤとティエリアがシュミレーションルームに行くと言ってその後に続いた。
二人だけになった途端に、空気が一層張り詰めた気がした。

スナイパーだった過去は、徹底して殺人者の貌を隠す方法をこの身に覚え込ませた。
たとえターゲットの横に立とうとも殺意を悟られないように、警戒心を抱かせないようにと教えられた。
一見しただけで見抜かれるような、半端な気配の殺し方はしていない。
雑踏に紛れて一般人を装う同業者に気付けるかどうかが生死の境を分けることも少なくなかった。
命の遣り取りを知る人間が纏う闇を感じ取ったなら、この子供はかなりの手練だ。
だからこそマイスターに選ばれたのだろうが、それにしても幼い。
周囲からの庇護を受けるべき時期に、殺しを覚えていたであろう子供。
ヴェーダが選んだという理由で、少年を更なる戦場へ駆り立てることを納得してしまう大人。


――世界は、歪んでいる。




* * *




【SIDE:B 刹那・F・セイエイ】


笑顔を向けてきた男と目が合った瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
こいつは、命懸けの戦場を知っている。
揺れを見せたのは一瞬だったが、見透かされているだろうという確信があった。
子供という外見に惑わされない大人。
これは――恐怖か。
オレが恐れているというのか。
殺意の欠片も見せていないこの男を?

「えーと・・・刹那、とりあえず居住区から案内してやるよ」

ロックオンと名乗った男は、スメラギと他の二人が向ったのとは逆の方向に位置する居住区を示した。
ついて来るものと確信して前を行く、無防備に晒された背中。
オレが警戒している理由に気付いていない筈がないだろうに。

少し進んだところで、ロックオンが振り返った。

「どうした?」

それが、図らずも距離を保っていることへの問い掛けだと気付くまでに多少の時間を要した。
ロックオンが一歩近付いて来たので、思わず一歩下がってしまった。

「何故お前はオレに背を向けていられる」

オレの言葉の意味を理解したのか、ロックオンはそれ以上近付いて来なかった。

「ここは戦場じゃないんだぜ?身内警戒してどうするよ」

そう言って、少しだけ困ったような顔で、ロックオンは笑った。

「オレがお前を攻撃しないと思っているのか」

「・・・・・・やってみるか?」

穏やかな表情を崩さないまま、ロックオンは両手を広げてみせた。
無条件に寄せられた信頼は、一体何を根拠にしているのか。
丸腰と知って安心しているのかとも思ったが、恐らくそうではない。
オレが戦場にいたことを、即座に見抜いたのだ。
人を殺すのに、必ずしも得物が必要ではないことも十分に判っている。

「初めて会った人間を、何故信用できる」

「信じてやればよかったって後悔するより、信じて裏切られる方がマシじゃないか?」

示された根拠は余りに短絡的で、呆気に取られた。

「それは――甘さだ」

他人と顔を合わせば、まず敵か味方か見極めようとする。
味方の顔をして近付いてくる敵を見過ごせば、自分だけでなく仲間も危険に晒す。
同族以外を信じるな、我々の神を崇めないものを信じるな――。
そう教えられてきた。

「手厳しいな。だがそんな世界を変えたいから此処に来たんだろう」

オレの考えていることが判る筈もないのに、どこまでも見透かされているような気がした。

「お前はお前の意志でこの道を選んで、今此処にいる。それがお前を信じる根拠だ」

口元は笑みを含んでいたけれど、その瞳はもう、笑ってはいなかった。
そして、気付いた。
理屈ではなく、本能的に悟ったというべきか。

――ああ、こいつには勝てない。




悠然と前を行く背中を、信じたいと思った。









presented by MISSING LINK/Sep.19.2008






ちなみに「やってみるか?」と聞くロク兄、初対面で刹那を信じているんじゃありません。
格の違いというか、あの状況で 勝 て る 自 信 が あ る からです。
背中を向けているのを”無防備”だと思ってしまった時点で、刹那の読み負けです。
刹那が知っているのは、剥き出しの殺意が溢れていた戦場。
一瞬前には冷徹なスナイパーの貌になって引き金を引いていた人間が、次の瞬間には何食わぬ顔で雑踏を歩くような騙し合いの世界とは根本的に違います。

そして簡単に「信じる」とか言うロク兄、どれだけ言葉でそう言ってても、本人は絶対に信じてません。
徹底的に信用してる振りはするんだけども、必ず裏切られた場合を視野においてるかんじ。
「どこに行くんだ」とか「一緒に行ってやろうか」とは言うけど、自分の行き先は言わなかったり、「一緒に来るか」とは聞かなかったり。
笑顔と優しさは、本心を隠すのに一番いい手段だと思います。

そんなロク兄が、マイスターやトレミークルーとの交流で変わればいいな、と思ったりする訳です。



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