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Illusory Legends(KA)
「視察だと?そんな予定は聞いていないぞ」
ジョルズからローマの士官が来たとの知らせを聞いたランスロットは、他の騎士たちを円卓の間に招集するように伝えた。
アーサーはダゴネットを連れて前日から任務に出ている。
しかし、留守を任されたランスロットは視察が来るなどという話は聞いていなかった。
「指揮官は――アーサーはどこだ?」
クリアヌスと名乗った士官は、円卓の間に揃った騎士たちに鋭い視線を向けた。
小綺麗な甲冑と豪奢なマントが、実戦には出ていないことを伺わせる、典型的な上層階級の士官。
騎士たちは一様にうんざりした表情を浮かべた。
「アーサーはローマからの任務でここにはいない」
ローマからの、と殊更に強調し、そんなことも知らないのかと言わんばかりの口調でランスロットが答えた。
「・・・・・・ローマからの増援部隊を早々に失ったそうだな」
眉の端を吊り上げてランスロットを睨んでから、クリアヌスが言った。
ローマから増援部隊が派遣されて来たのはつい先月のことだった。
アーサーに任されたその部隊は、兵士とは名ばかりの寄せ集め集団で、先の戦闘で壊滅的な損害を被っていた。
増援部隊を失ったこのタイミングで、ローマから士官が来た。
それは指揮官の問責を意味する。
使い物にならないと判り切った兵を送ったこと自体が、アーサーに対する悪意を勘繰らずにはいられなかった。
言葉の意味を察したガウェインは、アーサーの不在は逆に好都合だと思った。
「私が――敵の勢力を甘く見たのです」
クリアヌスだけでなく、騎士たちが一斉にガウェインを見た。
「アーサーではありません。あの部隊は私が指揮を執りました」
「俺達が出る時はあんた以外の指揮官で頼むぜ」
クリアヌスが連れて来たのであろう、見慣れない傭兵部隊。
その一人が、ガラハッドと共に酒場へ来たガウェインに棘のある言葉を浴びせた。
「この野郎!!二度とその口が利けないようにしてやる!!」
声を荒げたのは、言われたガウェインではなく、横にいたガラハッドだった。
「相手にするな。酔っ払いの戯言だ」
ガラハッドの腕を掴んで、ガウェインは穏やかに諭した。
その穏やかさが、ガラハッドの怒りを更に煽る。
「放せよ!あいつはあんたを侮辱したんだ!!」
殴りかかろうとするガラハッドを、ガウェインは尚も抑えた。
そのガウェインの背後から投げられたナイフが、男の頬を掠めて柱に突き刺さった。
「手元が狂った」
振り返った二人に、ランスロットとナイフ投げをしていたらしいトリスタンがごく真面目な顔で告げた。
先ほどまでの威勢を失い蒼白になった男を見て、一気に怒りが冷めたガラハッドはガウェインに促されて仲間の卓へと向かった。
「すまんトリスタン。助かった」
ガラハッドの頭を軽く掌で叩きながら、ガウェインは笑う。
珍しくガラハッドは反抗せずされるがままになっていた。
動く的の方が面白い、と呟きトリスタンは的に向かってナイフを投げた。
それも含め中心に並ぶナイフはトリスタンのものが殆どだった。
「お前も動く的ならもっと当たるだろう」
意地悪く笑うトリスタンに、ランスロットは悔しそうに舌打ちした。
ランスロットのナイフは、中心の1本を除き、的には当たっているが中心から外れている。
「判った、お前の勝ちだ。今日の酒代は俺が払う」
ランスロットは手にしていたナイフを収めて、席に着いたガウェインとガラハッドに杯を勧めた。
「なんであんたがあんな事を言われなきゃならないんだ!」
幾分酔いの回った頃、ガラハッドが思い出したように蒸し返した。
「全くあんな素人の部隊を寄越しておいて、偉そうに・・・」
ランスロットは忌々しげに吐き捨てた。
いくらアーサーといえども、軍に入ったばかりで戦場を経験した事のない兵士だけで構成された部隊などを率いて勝てる筈がなかった。
「それよりもガウェイン、何故お前が指揮を執ったなどと言った?」
「あの時指揮を執ってたのは――アーサーだ」
ランスロットの言葉を継いだガラハッドは、アーサーを責めるつもりは毛頭なかった。
それでも、なぜガウェインがその責を負ったのか判らなかった。
「指揮官に必要なのは、伝説だ。彼の下で戦えば負けないという幻想だ」
ガウェインは杯を置き、言い聞かせるように言った。
ごく一部の人間を除いて、望んで戦場に赴く者はいない。
しかし兵役に就いた以上、戦場に向かわなければならない。
せめてその時、たとえそれが幻想でも、希望と共に向かえたなら。
「勝った戦はアーサーの指揮、負けた戦は他の誰かの指揮だ」
「負け知らずの指揮官など存在しない。そんな夢物語を誰が信じる?」
勝ちも負けも経験し、その事実を積み重ねて今のアーサーがいる。
それを歪める必要があるのかと、ランスロットは眉を顰めて反論した。
「兵士は――幻想を信じる愚者でいい」
トリスタンが静かに言った。
何か言いたそうにしていたランスロットは、敢えて何も言わなかった。
翌朝、アーサーの帰還を待たずにクリアヌスは城塞を後にした。
「なぁガウェイン・・・オレはアーサーを信じたいと思う。オレたちは――愚者なのか?」
城塞を出る兵士たちを見下ろして、ガラハッドは問う。
「兵士は命令によって戦い、命令の為に戦う」
ガウェインはクリアヌスに率いられた眼下の列とガラハッドを順に見ながら言った。
「俺たちはアーサーや仲間の為に戦ってるんだ。俺たちは戦士ではあっても――兵士じゃない」
上空からの鋭い鳴声につられて、二人は空を見上げる。
「もうすぐ、アーサーが戻るな」
「ああ――」
濁った空には、トリスタンの鷹が旋回していた。
presented by MISSING LINK/Oct.30.2004
ガウェが実は参謀的な役割だと面白い・・・そう思ってできました。
削りまくったおかげで、何が書きたかったか判らんかんじです。←オイ
実は腹黒なガウェに気付かないアーサー。
アーサーに理想を抱くランスは権謀術数には否定的で、嘘で塗り固めてまでイメージを作る必要はなくて、
勝ちもすれば負けもするという事実を隠すべきではないという考え方です。
対してガウェは必要なら嘘も方便だという考え方。
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