翻訳学者犬徒然草

何故家主はカルメル修道院に(二)

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家主はしばしば、相方の知り合いなどから、そのお国柄で温厚で、悟っているように思われているらしい。周囲の者に時々、昔は仏教のお経などを覚えていたと言い、般若心経などをブツブツ唱えても、誰も分からず、「またいつものように煙に巻いている」と無視されるのである。しかし小生は家主が一人の時は、何か真剣に考えているような気配を感じる時があり、ふと気がついたように、小生の両手を取り、遠くを見ているように小生の顔をじっと眺める。しかし、すぐに「OK、外に散歩に行こう」と言い、老母を呼び、隣の林に向かうのである。「生まれる前の自分に戻るのだから、自分だけのために何かを信じる必要はない、他の人のためになるのなら、それはそれで存在価値があるだろうが」と相方の意向を全く受け付けない。相方もそのことを真剣に考えているのではなさそうではあるが。その家主が黒茶色の服を着た修道女と和やかに話しをしながら、ゆっくりと坂道を登ってきたのである。周囲の静けさの中で、枯葉の散るチャペルの横を通り、小生が閉じ込められている車に向かって来た。修道女は両手に大きな籐の椅子を三脚抱えていたが、家主がその内の一番大きい肘掛のついた椅子を取り、残る椅子と共に地上に置いた。家主はいつもと違った爽やかな微笑みを見せている。

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