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2008.03.02
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カテゴリ: 小波の日々
拝啓

三月に入ったとはいえ、まだ信州の空気は冷たく、
頬に刺さる気がいたしますのは、
父のいなくなった今年だからでしょうか。
先生におかれましては、
お忙しい毎日をお過ごしのことと存じます。

先生とお別れをしたあの日、二月十一日が昨日のことのように思われます。
あれから慌しい葬儀までの日を迎え、
そしてお悔やみをいただいた方々へのお返し、御礼行脚の一週間が終わりました。

母一人となったボロ屋では、隙間風と線香の匂いが、
寂しさを際立たせております。

先生にお会いして、きちんとお礼がしたいという強い思いは、
私のみならず、弟そして母も持っており、
そして見届けてくださった最期までの様子を伺いたい気もいたします。

しかし先生の担当されてる患者さんの多いことも存じておりますので、
こうして感謝の気持ちを手紙にさせていただくことに総意でなった次第です。

思い起こせば昨年の11月初め、1本の看護師さんとの電話から、
私たちは救われました。
「すぐにいらしてください」

どちらの病院でも先ず予約優先、資料優先、紹介状ありきの現在の診療体系の中で、

大変ありがたかったです。

更にK病院との関係も考慮してくださり、
今後もしあちらにかかることになっても良い状態にしていただけたことは、
驚きと感謝でいっぱいでした。

「優しい」などと簡単な言葉では片付けられない、

初診で帰宅した日は、父も弟も私も、興奮と安堵で、
「何てすばらしい先生と看護師さんなんだろうね」と
元気にさえなったくらいでした。

その後の経過は先生の方がご存知のとおりですが。
長きに渡る患者家族として幾つかの病院と多くのスタッフにかかわり、
今回お世話になりましたことは、最上級のもてなしを受けた中で、
最期の時を迎えられたと実感でき、一番の幸せであったと、
一同口を揃えております。

父は看護師さんたちのケアを大変必要とする(手のかかる)患者であったと思いますが、
そんな言葉やそぶりは一度もスタッフから聞いておりません。
むしろ、遠方からたまにしか顔を出さない私たちの体や生活を崩さぬようにと、
声をかけていただくほどで、弟も涙が出るほど感激したと、
今でも言っております。

父は入院した翌日から、自分を浦島太郎に例えて、
食事も美味しい、ピンクのエプロンをつけたスタッフがヒラヒラ動く様を
竜宮城のようだと話していました。

「もっと早く入院させればよかった」という思いもよぎります。
しかし、本人が「入院は寂しい」と言うので、出来る限り家で看たかったのです。

母は病院で死なせてしまった事を悔いており、
「病院に見捨てたみたいで…」と声を詰まらせます。
そうじゃないでしょう。浦島だぁ、って喜んでたじゃない。
苦しければ酸素吸入もすぐにできたんだから。
摘便や浣腸だって、何度もプロにしてもらえたんだから、
良かったんじゃない、と繰り返される会話です。

亡くなる前の週、隣家2軒全焼するという大火事がありまして、
母は我が家に延焼するのではと、肝を冷やしたようです。
そのため火事後のお手伝いに連日借り出され、父に会いに行かれず、
亡くなる三日前、金曜日にようやく一人で、バスと電車を乗り継いでそちらに伺いました。

結局この日が、話が出来た最後の日であり、
父の日記もこの日で終わっています。
このことからも、翌日からガクンと体調が悪くなったことがわかります。

亡くなる前日、私が息子と病院に行った日は日曜日でした。
にもかかわらず、先生にお会いでき、病状をうかがうことが出来ましたのは、
偶然でしょうか。
「呼吸を楽にする薬を使うと意識が混濁するので、会わせたい人がいたら会わせて…」というお話に、
早速弟二人にメールを送り、来週には孫たちを連れてこようという話になっていました。

まさか、その晩のうちに逝ってしまうとは……

長患いしたくなかったのでしょう。
母は、入院時、先生から「春まではもたないでしょう」とのお話に、人寄せの準備を始めておりました。
玄関の割れたガラスを入れ替え、障子を張替え、納戸の食器を全部出し洗い終えたところでした。
まるで「もう、いいかい?」と言わんばかりのタイミングでした。
そしてあの夜、母は一人でなく、娘の私も実家に泊まりましたから。
…なんという偶然。

残された者は、勝手にこうして結びつけたがるのかもしれませんが、
タイミング的には、そんな感じがいたします。

今月末に四十九日法要の日程も決まり、それが済みますと、父の遺品の片づけが始まると思います。
家中いたるところ、父のものであふれており、まだ何一つ動かさない母の気持ちを思いますと、辛くなるのですが、時と共に気持ちの整理もついていくと思われます。


とにかく感謝の気持ちをお伝えしたくてペンをとったのですが、
長々と取りとめも無く書いてしまいましたこと、お許しください。

最後に、Y先生はじめスタッフの皆様に心より感謝し、
このような形でしか、お礼を申し上げる事ができませんことを、
お許しください。

これからも患者さんとそのご家族のために精を出されることと存じます。
どうか先生のお体も大切になさってください。

敬具

コウジの娘、小波







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最終更新日  2008.03.02 16:58:46
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