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会場に足を運ぶか 前日まで悩んでいた。
これは 普段の大会でも毎回のことであるが 明日は ミュージアム杯だ。
無差別級の時 決勝までいった航の姿を
主人は一人で 心臓が口から出そうになりながら観ていた話を聞いていた私は
「そこに私が居たら 失神起こして倒れていたよ」と思った。
だいたい 明日は予選落ちで話が終わるかもしれない。
それでまた 帰りの電車の中で
「あの手はなんだ!」「情けない あー情けない」と言う言葉を
延々
と浴びせる主人を見るのも
また その言葉を小さな肩を落として聞いている航を見るのも忍びないのだ。
当日「何時ごろ出かけるの?」と主人に予定を聞く。
いろんな気持ちが交差したまま 出かけるほうに気持ちが向いていた。
予想通り きわどい運びで予選を突破した。
気の小さい母は もうここで納得である。
もう どこで敗れても ここへ来た甲斐があったというものだ。
しかし 航も 航のちちも「ここからだ!」という気持ちでいっぱいだったろう。
二人にとっては いよいよなのだ。
決勝トーナメントに入ってから 私は一度も航と視線を合わさなかった。
怖くて合わせられなかった。
私は 試合を見るところではなく 航のちちとは少し離れたところで
ただ 頭を下げて祈っていた。
すると 天の声が・・・「お母さん ちゃんと見てた方がいいですよ」
「ハハ」 私は 顔がひきつっていた。
準決勝戦の最後は やっぱり 目をつむってしまった。
周りの大きな声に負けたのだと思った。
顔を上げると 航はカードを広げながら ちちの元へ走り寄っていた。
準決勝の席に着いたとき
スキャンするカードが見つからず 慌てる場面があった。
多分 「カードがみつからなかったんだよ」とちちの元へ行き
「何やってんだよ!」と また 叱られるんだろうと 二人を見ていた。
すると 周りの様子が少し違う。
どうやら 勝ったらしい。
気が付いたら 決勝まで来ていた。
決勝前に向けられたマイクに 航は 「優勝します!」と言った。
あれは 私の血ではない。
私だったら 間違っても そんなこと言わない。
いや 言えない。 あれは 間違いなく ちちの血だ。
このちちは 航が どんなに心細い視線を投げても
「こっちを見るな」と 視線を投げ返す。
「すべて 自分でやって意味があるのだ」と。
航は 自分を信じるしかない。
その証拠に 昨日 あんなに ちちと練習したのに
その時のデッキとは違うカードをスキャンしている場面が多かった。
今日、今、信じられるカードをスキャンしているのだろうと思った。
そして 決勝・・・。この試合は 見てあげなくっちゃ。
先ほどの声が頭の中でリフレインしている。「ちゃんと 見たほうがいい」
この天の声の主は 「奇跡を呼ぶバスターズ」の父である。
私は このバスターズの奇跡を知っている。その父の言葉は 重たいものだった。
決勝では 惜しくも敗れてしまった。
航は ちちの懐に顔をうずめ 涙をこらえていた。
「負けても 泣くな」 いつも 言われている。
特に 決勝で負けた時は 泣くなと・・・
「主催者を困らせるな。周りに迷惑をかけるな。何より 勝者に気を遣わせるな」
これも ちちの教えである。
それでも 溢れてくる涙を・・・ ちちは 責めたりしなかった。
名前を呼ばれると 航は 涙をさっと拭いて 準優勝者として中央に立った。
負けてしまったけど・・・ 君は 立派だったよ。
(2005.11.27)