”名も知れぬ人たちへ”【承13】

・・・治らないのか,本当に・・・

私は,とにかく落ち込んだ。肩をガックリと落とし,頭は下を向いたまま。

でも,妻はそんな感じではなく,"自分の運命"を受け入れたかのように静かであった。傍から見れば平静を装っていたが心の中では,いったいどうだったのか?

二人そろって病室へ戻った。
そこに娘が待っていた。娘には悲壮な顔を見せる訳にはいかない。精一杯の笑顔を作り,こう答えた。
「他にも悪いところがあるかもしれないから,もう少ししたら付属病院に行くからね。」と。

面会時間ギリギリまで一緒にいた。妻と娘がキャッキャッ話をしているところを見るのが辛かった。
『どうして,妻なんだ???』 と心の中で,そう叫んでいた。

先生は,こうとも言っていた。
「あの貧血は,生理ではなく悪性腫瘍からです。生理は,すでに終わっていた。」と。
最初に診察したときに先生が言った言葉を思い出した。
『何故もっと早く来なかった?あと半年早かったら・・・』

・・・本当に悔やむ。何故?・・・

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