”名も知れぬ人たちへ”・【承21】

・・・私が泣く場所は・・・

単身赴任地は付属病院から4時間ほど車を走らせないといけない,通しで走ると結構疲れる距離である。
我が家は三分の一くらいのところにあり付属病院に近い。

仕事で同僚に迷惑をかけたくない,といつも思っていたが今回だけは,この状況ではそれも無理。
普通休暇と積立休暇を有効に使いながら"最小限のご迷惑"でとどめるように努力した。
我が家で仕事をこなし,データにして会社へ。
サービス残業はダメとは言うものの急を要するものなどはやむを得なかった。

また,ノートPCを単身寮(1ルームで電磁調理器付き)に持参し仕事をしたときもある。
仕事に夢中になっていなければ,静寂に押しつぶされそうになる。

いつものように単身寮で仕事を。フッと時計を見ると夜の9時を回るところ,病院の消灯時間がせまっていた。
私は妻に携帯電話でメールを打つ。

"今日は,どうだった?検査まだつづいているのかい?"と。
"うん,まだ検査している状態"と絵文字を添えて返事がくる。
"痛みはどうなの?放射線治療の計画はまだ?"
"痛いけど,鎮痛剤をもらっているから。治療はまだだよ。・・・・決まったら教えるよ"と。

私は途中からメールの字が読めなくなる,涙で歪む。
"おうー,早く治療できるといいな,また今度行くからな"と時間をかけて入力する。

・・・私は布団をかぶって大声で泣いていた・・・
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