”名も知れぬ人たちへ”・【転25】

・・・三日間の睡魔・・・

 妻は,人口透析したあと,泌尿器科の病棟に移った。点滴を数本ぶら下げ,妻の細くなった右腕,細くボロボロになった血管に容赦なく注射針を挿入する。眠ったままであったが,うごめいている。
10秒ごとに,頭に手を添えてこらえている,差し込む感覚が無意識にそうさせていた。
 私は,なす術もなく,ただ,ただ妻の膝から足の甲にかけてさすっていた。『頑張れ,頑張れ』と何度も心の中で叫んでいた。

 それから,少しして保険会社の人が妻のおばさんと娘を連れてきてくれた。
本当に申し訳なく,いくら感謝してもしきれない。
おばさんは,妻のもとに来て,名前を呼びながら泣いていた。
妻はうごめくが眠ったままだった。とりあえず,入用なものは,持ってきてもらったから,看病に専念できる。

 病室は個別ルームで私と娘が寝ることができるくらいの広さだった。布団を用意し,娘に『疲れたろ,寝てもいいぞ,父さんはまだ診ているから』。

 しばらくして,私は,会社の上司に連絡し,病名について説明した。そして,私しか看護できないことを伝え,二週間ほど特別休暇をいただいた。仕事を途中で投げ出したため,緊急のときは電話をもらうことに。
 私は,寝ずに妻の足をさすった。10秒間隔だった差込みが15秒となり,二日目には1分近くまで広がった。その様子は,回復に向かってるんだと自分に言い聞かせ,娘にもそのことを聞かせた。蒼白だった顔がすこし赤みを取り戻した。だか,深い眠りから覚めない。長い長い夢を見ているようだった,苦しい夢なのか?はわからない。

・・・長い眠りから・・・

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