ミッドナイトドリーム

ミッドナイトドリーム

取引所の日々の泡風呂敷―PART9



昨日の夜の事?
さあてね。覚えてないな。そんな昔のこと。

んな訳はないけど
僕たち二人の間でその事が話題になったりしない。

ミューが男に抱かれたのを僕は知ってるって
ミューは知ってる。

ミューが悔し紛れに抱かれたのも
僕には分かってるってミューは知ってる。

ミューが誰の女か、
ミューがつくづく分かったって事も、僕に伝わってる。

だから二人が改めてそれに付いて話す事なんてない。

何でもかんでも筒抜けになっちゃうのって全然、悪くない。
最初から嘘がつけないのが分かってるから
嘘をついて誤魔化そうなんて気にもならない。

僕が指定席で画面を眺めてると
ミューがやって来て僕の横で恥ずかしそうにしてる。

ミューの胸には
『貴方だけに見て欲しい』カードがぶら下がってる。

それには『私は貴方の女です、ご主人様』
って書いてある。

うん、うん、うい奴。

ミューは僕がそのカードの文字に
気づいてるかどうか心配そう。

ミューは僕にそれを是非、見て欲しい。
見て欲しくてたまらない。

僕はミューの後ろからそっと
ミューのスカートの中に手を入れる。

僕の手の平にミューの太股の温かさ。
僕はミューの太股の裏側をギュッとつまむ。

ミューはなよっと、うれしそう。

何?もう一度してくれ?
犬かお前は。

僕はもう一度同じ事をする。
ミューは満足したみたい。

ちょっと頬を染めて仕事に向おうとするミューを
僕は呼び止める。

「ねっ、あそこの物陰で、
 こっそりお医者さんごっこしない?」

「えっ、お医者さんごっこ?」

ミューはしたいって感じてる。
アホかお前は。

「えっ、冗談なの?
 変な冗談言わないで、
 お仕事するのが辛くなるから」

値動きは、
この所ずっと入ってた変な上げの動きが抜けて
二円ほど下がってく所。

この変な上げに入ってこられると本当に参る。
当然下がらなきゃいけない所で上がってく。
物凄くやりにくくて、ストレス、たまりっぱなし。

散々悪さした挙句、どーっと下がってく。
その時には、感覚に
すっかり変な上げを警戒する癖が刷り込まれてる。
うん、参る。

上げの天下を満喫した挙句、値段をポイと投げて、
すっかり上機嫌でブラッディ・マリーがやって来る。
何時もクールな彼女には珍しく鼻歌かなんか歌いながら。

「ねっ、小鳥ちゃん。
 飛ばしたでしょ?
 あそこの所で」

「あれはないよ」

僕は憮然としてる。

「楽しいよね。相場って」

「楽しくない。
 最近、凄くストレスたまってる。
 誰かさんのお陰で」

「あら、アイスマンは楽しくて仕方ないって言ってるよ」

僕はアイスマンが何処でどう打ってるかは分かる。
分かってるけど、値段が実際に動いてる時に
そんな風には打てない。

「前にアナベルが変な男を見つけたと言ってたんだけど
 本当に変な男だった」

僕に笑いかけてるブラッディ・マリーの悪戯そうな目。

僕は不思議そうにブラッディ・マリーを見つめる。
これ、本当のブラッディ・マリー?

僕は何か気づいたように
ブラッディ・マリーの顔を指差す。

「ご名答」

「そこまで似てるなんて気づかなかった」

「あら、似ないように苦労したもんよ。
 昔はね。
 私達、双子なの。
 ほら、あの子さ、
 大衆の前で演説ぶったりする訳無いでしょ。
 んで、仕方なく私が代役」

アナベルは後ろのテーブルに駆け上ると
身振り手振りを織り交ぜて
ギリシャ語でキケロの演説を始める。

視線に心地よいアクション。美しく心に迫る声。

赤毛のアンが朗読会の前に
彼女と出会ったりしなくて良かった。

「幾つもの山を越え、幾つもの谷を渡り・・」

流石ブルース・シンガー、僕の心が震える。

「そこで私は言った。
 勿論、買うさ。例え三本足でもね。
 何時もカレーライス一杯がぎりぎりの貧しい工員が居た。
 彼はその馬が勝つとカレーライスをお変わりした。
 私がブルジョワジーの極楽娘だって?
 ほら、今、私の財布を投げるから、
 中身を得と見るがいい。
 明かりが無いならマッチをお擦り。
 その国の国民達のおろかしさったらなかった。
 頭の程度はパッパラパーで
 テレビの漫才師の言う事しか理解できない。
 だから私はその愚民たちに言ってやったのさ。
 君達に、身を捨つる程の祖国はありや」

アナベルの演説に感動した僕は
手元のウオッカのビンに布切れを差し込んで叫んでる。

「想像力が権力を握る。
 行こう!カルチェラタンへ」

「まっ、こんなもんさね。
 アジテーションなんて」

さばさばした表情でアナベルはテーブルから降りる。

あああ、ウオッカ、勿体無いことした。


-111-

取引所の入り口の前の道路を挟んだ向かい側のピルの壁に
巨大スクリーンが出現してる。

スクリーンの中では
巨大なアナベルが情熱的に演説してる。
風に揺れる髪。
白い絹のドレスに映えるアナベルの素肌。

取引所の入り口を支える例の六本の柱の上に
白い大理石の演説台が作られていて
アナベルはそこで演説してる。

道行く人々は突然始まったアナベルの演説に
何事かと足を止めてる。

周りのビルの窓が開き多くの人たちが
スクリーンを眺めては風にドレスを揺らしてる
情熱的なアナベルの生の姿に目をやってる。

やがて周りのビルの屋上にも人が群れはじめ
道路は渋滞し始めてる。

「国民の年金を食い物にした人間達は今、どうなってる?
 実際、国民の金は失われてるのに
 彼等は何処吹く風の涼しい顔。
 こんな事が許される国が果たして、
 国といえるだろうか?」

アナベルは官僚達が税金を食い物にして行く過程を
詳細なデータを元に訴えてる。

何てひどい国。盗人達の天下。

アナベルの演説の後、可愛いミューが緊張した顔で一言。

「取引所は政治家の皆さんが
 この問題に早急に手を打つことを期待します。
 取引所は国民の金を盗み取って平然としてる
 国賊たちへの見せしめの為に
 彼等の手先のように動いた金融機関を一つ潰します。
 一週間以内に」

群集たちはやんややんやの大喝采。
そりゃアナベルもミューも飛び切りの美人だし
白いドレスからはみ出してる素肌が色っぽいもの。

巷では、潰されるのは何処だろうと、憶測しきり。
噂が噂を呼んで、潰れるはずのない大手の証券会社が一つ
あっと言う間に、この世から消える。

取引所、恐るべし。

政治家って、すねに傷持つ金の亡者達の集団。
ぐずぐずしてて、
自分がターゲットにされたらたまらないと
次々に国民の税金を食い物にしてきた官僚達を
捕まえ始める。

国民達はやんややんやの大喝采。

取引所の力、恐るべし。

又、巨大なアナベルが演説してる。

ライオンヘアーのアホな総理のお陰で
本当なら使う必要なんて全くなかった国民の金を
どれだけ外国に貢がなければならなかったか?

金をばら撒かなければ
外国に相手にしてさえ貰えなかった馬鹿総理。

アナベルが詳細なデータを示しながら
余りに膨大な無駄金の額を情熱的にアジった後、
緊張した顔の可愛いミューがたどたどしく一言。

「あいつが湯水の如く外国にばら撒いたお金には
 遠く及びませんが
 取引所はささやかなお金をこの国に寄付します。
 そのお金があれば、
 後期高齢者保険制度は必要ありません。
 おばあさん、元気ですか?
 お金、足りてますか?
 取引所は貴方の味方です」

国民たちはやんややんやの大喝采。
そりゃアナベルもミューも飛び切りの美人だし
白いドレスからはみ出してる素肌が色っぽいもの。

政治家たちはこれまでに
爺さんにたっぷりと甘い蜜を吸わされてきてる。

金と女とバラの日々。
やったら犯罪、分かっちゃいるが、掟破りの極楽浄土。
赤信号、皆で渡るパッパラパー。

でもね。バラにはトゲがつき物なのさ。

政治屋達、爺さんにたてついたら、
あっちからもこっちからも恥と赤面が噴出しちゃう。

この際、積極的に爺さんについた方が得。
って言うか、彼等に選択肢はそれしかない。

爺さんの声はまるでゼウスの声。

「ったく爺さん、余計なことしてくれる」

画面を眺めてる僕の横で
ブラッディ・マリーがうんざりした顔。

「何で日のあたる場所なんかに出て行きたいのか
 さっぱり分からない。
 狙撃兵は二度引き金を引くって言うのに。

 あの子達も女の子ね。
 訳も分からず舞い上がっちゃってる。
 その内、偶像に祭り上げられて、
 実像と虚像の狭間で、もがくのさ」

多分ね。

「あんたさ、私を勝手に処女にして
 アナベルなんておかしな双子創り出して。

 いい?しっかり聞いて。
 私はゴドに喧嘩を売るのだけはお断り。

 もう一度言うよ。
 宗教の言う神は私達の苦痛を計る概念だけど、
 でも、ゴドは
 人間なんかがイメージする事なんて出来ない絶対者。

 イメージすることすら出来ないものの真似なんて
 絶対、させたりしないでね」

ブラッディ・マリーの剣幕。
なんかミューに怒られてるみたい。
多分、リューも同じ気持ち。

困ってもぞもぞしてる僕にブラッディ・マリーが言う。

「何?どうしたの?」

「言いたくない」

「言いなさい」

「誰にも言わない?
 特にミューには」

「約束する」

「立っちゃった」

-112-

取引所は日々、成長してる。
柱もぐんぐん育って、今では大きく見上げるほど。

取引所の周りは演説を期待する人達で溢れてる。
地方から泊りがけで来てる人達も多い。

林立するテントの群れ。
革命前夜の熱気?
ううん、テレビに変わって煽って欲しいだけ。

取引所が派手で仰々しくなっても
先生と琴美はまるで気づいてない。

相変わらず道路の上で
『時間と空間を否定する計算式』の創造に熱中してる。

でもさ、その計算式が出来上がったら
どうなっちゃうの?この世界。

♪何物も僕の世界を変えたりなんて出来ない。

そうだといいんだけど。

それはいいんだけど、
僕はVIPのフロアから締め出しを食ったみたい。

朝、僕はフロアの入り口を見つけることが出来なかった。
一時間して又、来たんだけど、相変わらず。

三度目、流石におろかな僕でも気づく。
『僕は締め出しを食った』

勿論、犯人はミュー。

フロアから締め出されて初めて感じる無力感。
今の僕に取ったらフロアは天上界。
僕ごときが登っていける世界じゃない。

どうしてミューに締め出されたのかって?
うん、この所、上手く行ってたんだ。
上手く行き過ぎてたのかも知れない。

ミューは俄然、僕のが好きになって来てて
この前、僕がミューに入り込んだ時、
ミューは慌てて、たまらなそうに声を上げた。

「お尻振る?
 ミューがお尻振ると気持ちいい?」

ミューの腰が必死で堪えてる。

「うん、気持ちいい」

「じゃ、ミュー、お尻振るね。
 貴方、気持ちいい?
 もっと振る?」

「うん、愛してるだけ振って」

ミューのお尻の振り方の激しいこと、激しいこと。
勿論、ミューは僕の為に振ってるんじゃない。

そうしないとミューは我慢できないんだけど、
女の子らしく体裁つけてからじゃないと
恥ずかしいでしょ?

で、その次にはもう、入り込んだ瞬間。
ミューは許可を貰う暇もなくいきなり。
その激しいこと、激しいこと。

良くこんなに激しくて疲れないなと思うんだけど
ミューにはどうすることも出来ないらしい。

「私、あんたのが入って来ると凄く気持ち良くて
 コントロール不能になっちゃうの」

誇らしげにミューが言う。

『私、本当にあんたの事、愛してるの』
僕を見つめるミューの大きな目がうれしそう。

-113-

前にミューが呆れてた。

「それじゃ何?
 貴方の指先から
 貴方の愛が
 私の中に入って来るとでも言うの?」

僕の指使いの余りの気持ちよさ。

「うん」そんなの当たり前と言う顔の僕。

ミューは余りの馬鹿馬鹿しさに呆れ返って
全く相手にしてなかったんだけど
もしかしたらその論法、使えるかもって。

それならミューは淫乱な女の子って言うより
どちらかと言えば愛一杯の女の子な訳だし。

「ねえねえ、私が貴方を愛してるからよ」

ミューは幾らなんでもこの論法、無理すぎって感じながら

「私が貴方の指にあんなに簡単に
 ほいほい行かされちゃうの。
 きっとそうよ」

何を今更と言う感じの僕。

「当たり前だろ、そんな事」

きょとんとして、鳩が豆鉄砲食らってるミュー。

ミューは今まで愛とセックスを
きっちり、かっきり、はっきり分離して生きてきたのに
僕が相手だとその辺が曖昧になって困ってる。

ミューはあれ以来、
僕とする時はどんなに感じて困ってても
心のない体だけのセックスは捨ててる。

ミューの体の中には何時もミューの心が入ってる。

ポルノだと自分の物で女の子を無茶苦茶感じさせて
女の子をそれその物にして、喜びに狂わせるのは
男の醍醐味みたいに書かれてるけど
実際はそんな事しても糞つまらない。
只々、退屈。

僕が一言言っただけでミューが分かった様に
女の子もちゃんと分かってる。
そんなのつまらないって。

ちゃんと心の入ってる体を抱いて、なんぼ。

最近、僕の物を受け入れると
コントロール不能になっちゃうミューは更に進化して
僕の物に犯されるようになってる。

僕はミューの体の上で僕がミューの体の全ての細胞の
一つ一つまで、余す所無く犯してるって感じてる。

僕がそう感じてるって、下のミューも分かってる。
だから、ミューの喜びは濃密で深い。

ミューの様な女の子じゃなければ
こんなに迄犯すことは無理。

ミューはそう言うタイプの女の子。
だから僕はミューに首っ丈。

僕は僕の物でミューを犯しながら
ミューの全てを抱きしめてる。
ミューもミューの全てで僕に犯されてる。

僕にしたらこれはとても大事な事。
だから、ミュー。

-114-

まあ、そんな具合に僕達は前進してたんだけど
僕が又、やっちまった。

フロアから締め出しを食うくらいなんだから
お前、余程の事をしたんだろうって?

ううん、ミューを可愛がっただけ。
ミューを怒らすような事は何もしてない。

僕はミューのスイート・ルームでミューを待ってた。
僕の部屋に似せてアレンジしながら。

わざわざゴージャスに出来てるものを
安下宿の様に直すんだから
やってる事がとってもお金持ち。

僕は一番奥の部屋の一番奥側で
その辺のあれやこれやを全てとっぱらって
出来た空間に布団を何組か分、敷き詰めて
その手前に小さな、小さなコタツをちょこんと置いた。

おおーっ、まさしく僕の部屋。

ミューが新しいギターを手に入れたとか言ってたから
そのギターを探してみる。

ホームバーのカウンターの上、
ストラトのケースが置かれてる。

ケースを開けて、
ギターを手に取ってしみじみ眺めた後で
ようやく僕は気づく。
多分、これ、プロトタイプ。

ミューはこんな物、何処で手に入れたんだろう?

ミューの思考法からすると・・・。

ミューは何処かでいい男に魅せられる。
次第にミューは
うっとりした目で男を見つめ始める。

男はそんなミューの様子に、

「お嬢さん、
 僕はモスコミュールの心を奪えると思うほど
 自惚れちゃいません。
 ただ、ほんの一時、美しい夢を見させてもらえれば
 それが僕の永遠の宝になります。
 貴方の優しい心で、これからの僕の人生、
 青春の夢を見てるダイヤモンドのように
 美しく輝かせては貰えませんか?」

「貴方、ストラトのプロトタイプ、持ってる?」

あらららら。
有りえる。

僕にも取り分が有るんだからって、
もし持ってなければ断れるんだからって。
無茶苦茶?
ううん、ミューならおかしくない。

でも、最近、気配を感じてないから
ミューは浮気してないはず。

そんな事を考えてるとミューのやってきた気配。
僕はストラトを壁に立てかけて振り向く。
無防備な僕は防御体制をとる暇もなく
ミューのキス攻撃をまともに食らう。

キス、キス、キス、キス、キス。
暫くやらせとくほかない。

ようやく落ち着いて、ミューが僕の目を見つめてる。
僕も愛しくてたまらなそうにミューを見つめる。

僕はハンフリー・ボガードの声と
シュレルスの声を足して、
ウオッカで割った声で悩ましげに夢見がちに言ってみる。

「お嬢さん、
 僕はモスコミュールの心を奪えると思うほど
 自惚れちゃいません。
 ただ、ほんの一時、美しい夢を見させてもらえれば
 それが僕の永遠の宝になります。
 貴方の優しい心で、これからの僕の人生、
 青春の夢を見てるダイヤモンドのように
 美しく輝かせては貰えませんか?」

ミューがうっとりと僕を見つめながら、

「貴方、ストラトのプロトタイプ、持ってる?」

ミューが大きな目で、慌てて口を押さえてる。
ミューは口を押さえて僕を見つめながら
しきりに首を振ってる。

ミューから純情可憐、純真無垢の匂いが立ち込めてる。
ミューは今、そう有りたいと強く願ってる。

僕は優しくミューの手を引いて
今作ったばかりの僕達の愛の巣まで
ミューをエスコートすると
ミューの体をふんわりと布団の上に横たえる。

「叩く?ミューの事、叩く?」

「ここにはそんな事する人はいません」

「お父ちゃんなら叩くよ。
 そうしないと、私がいい子にならないからって」

(はい。例によってシーラ風アレンジです)

布団に横たわった純情可憐なミューの大きな目が
不安そうに僕を見つめてる。

「怒っちゃいや」

蚊の鳴くような声。
蚊って鳴いたっけ?

僕は微笑んでミューを見つめながら首を振る。

「ミューが誰の物か教えてあげるだけ」

僕はゆっくりと服を脱ぐと柔らかくミューに寄り添う。
僕は優しくミューにキスする。
ミューはキスに感じて甘い吐息。

やがて、僕はミューの上。
ミューが下から不安そうに僕を見上げてる。
ミューは僕の物の気持ちよさを予想して
とても緊張してる。

「ミューが誰の物か教えて上げるね」

暖かなミューの中に入り込む僕。
その瞬間、
仰け反って艶やかに悲鳴を上げたミューの顔が驚愕してる。
ミューの予想を遥かに超えてるらしい。

「ミューは誰の女の子?」

僕は優しく微笑む。

「ミューは貴方のもの。
 貴方だけのもの。
 ミュー、愛してるの。ミュー、貴方を愛してるの」

とち狂って大騒ぎのミュー。

ミューは気持ちいい。
ミューは気持ちよくて、うれしくて、幸せ。

終わった後、ミューのオーラの溢れること溢れること。
ミューは気持ちよくて、うれしくて、幸せ。

ミューのオーラに包まれてるのは何ともいえない快感。
もしかしたらセックスしてるより気持ちいいかも。

僕に甘えっぱなしのミュー。

「ミューの人生って
 他の女の子に比べたらずっとイージーね。
 だって、ミューにはこれがあるから」

ミューは下で僕の物を握ってる。

「ミューがどんなに悲しいときでも
 ミューは貴方に愛してもらえば
 それだけで、ミュー、幸せ一杯になれちゃう」

ミューは本当に幸せそう。
純度百パーセントの幸せ。
僕は男と女の違いをつくづく感じてる。
男はセックスした位じゃこんなに幸せになれない。

「でも、全く気づかなかった。
 どうしてだろう?」

僕は不思議そう。

「あら、私、ずっと貴方にされてたもの。
 貴方の顔とか声とか思い出しながら抱かれてたの」

女の子、恐るべし。

これが僕がフロアから締め出しを食らった理由。
合点が行かないって?
僕もなんだけど。

『私を余り馬鹿にしないで。
 貴方のを入れられただけで私が幸せになっちゃうなんて
 余り女の子を馬鹿にしないでよ』

って、
そうおっしゃったのは貴方なんですけど・・・。

-115-

♪川に身を投げ溺れてしまうのさ
♪夕日が沈むのなんて見たくない
♪今朝起きたら彼女のベッドは空っぽ
♪どれ位、後どれ位、悩めばいいの

さまざまな心模様。
で一つの原因。

♪僕のあの子が出てっちまった

胃が痛い所じゃない。
この世は真っ暗。

僕の部屋に届けられた二本のギターと別荘のパンフ。
そして一枚の紙。
ミューの字で

『これらの品は貴方のお気に召すままに。

 P.s. I love you.
 違う、違う、違う。
 お金に困ったら何時でも言って。
 余りみっともない姿でその辺をうろつかないでね。
 私が恥ずかしいから』

僕は呆然としてるから
ドアがノックされてるのに気づかない。
次第に激しさを増してるノックの音。

♪僕はドアがノックされる音を聞く、
♪そんな事ある筈ないのに。

♪キープアノッキンバッユーケイントカミン

知らないうちに随分世の中は刺激的になってるなんて
僕は感じてる。

無理やり開かれたドア。

なんとトシが入ってくる。
息を切らせた恭子と。

トシが僕に一枚の紙を差し出す。
うわーっ、可愛い。
ミューの写真が印刷されてる。
横の美男子はロイだ。

えっ、ミューとロイの婚約記念パーティ?

「どう言う事です?ドリームさん」

で、僕はこれまでのいきさつをトシに説明する。

「分かりました。
 取り合えず僕はこれから取引所の様子を見て来ます。
 ドリームさんはこの場所で待っててください」

僕に一枚の紙を手渡して、トシは僕から去る。
あわただしく外を駆けてく二人の足音。

二人の足音・・・・。
二人の足音、二人の足音、二人の足音・・・。

一人ぽっちの僕。

えーーん。

♪君は僕を泣かせた。さよならって言って。
♪僕の頬を流れる涙。
♪恥ずかしくなんてないよ。全て君のせいだから。

僕はトシに指定された家の一室でトシを待ってる。
今日は一晩、自棄酒だね。
トシは穏やかだからミューは鼻もひっかけない。

しかし、ミューとロイが
そんなに深まってる筈がないのに。

気づけばここは取引所の裏口の真向かい。
だからって何さ。
もう僕とは別世界。

永遠とも思える時が過ぎた。
( この括弧は何のため? 知る人ぞ知るミステリー )

家の入り口で誰かが揉み合う気配。
気配は家の中に入り込み、
僕の居る部屋のドアが乱暴に開かれる。

なな、なんと。
開かれたドアの向こうにミューの姿。
信じられない。
ミューの大きな目が僕を見つけて驚いてる。

「とっとと入れ、この売女」

トシが思いっきりミューの尻を蹴飛ばす。
ミューはつんのめって絨毯の上に四つんばい。

「ドリームさん、
 思いっきりギャフンと言わせてやってください」

ドアを閉めて、トシの去っていく足音がしてる。

ミューが顔を上げて僕を見る。
僕を見てミューの顔に幸せが沸いて溢れて、
それがミューの体全体に広がってる。

「怖かったよ。私、怖くてたまらなかった。
 これで本当に貴方と終わりになるかと思うと
 怖くてたまらなかった。

 でも、今、別れないと、
 後で私がとても悲しい思いをするって思ったの。

 ねっ、抱いて。私のこと抱いて。

 貴方に抱いてもらうと、私、心の底から
 貴方を愛してるって感じることが出来るの」

ミューがじっと僕を見つめて、
そして、耐えられないように、にじり寄って来る。

「甘えるな」

僕の静かで冷たい声。

ミューがここに連れてこられるまでのいきさつを
ちょいと書いとこう。

ミューは出会い頭にトシにバシンと頬を張られて
「お前は何を考えてる?」

強引に手を引かれて
「ほら、来い」

「いやーあ、私、貴方にされちゃったら
 あの人に合わせる顔がない。
 許して、それだけは許して」

な事を言いながら、ミューの指は体の後ろで
ボディガードたちに『問題ない』のサインを送ってる。

「本当に許して。
 あの人の所に帰るから、それだけは、それだけは。
 あああ、お願い、お願い」

うん、ミューはトシにされるものとばかり思って
ここまで来たのさ。

ミューはひどい奴だって?
ううん、可愛い子だよ。

-116-

丁度いい機会。
僕はミューをたっぷりとお仕置きするつもり。

僕は何時かミューをお仕置きしてみたかったんだけど
恋人同士だと
なかなかそんなシュツュエーションに出くわさない。

今日は正におあつらえ向き。
こんなとんでもない事をしてミューに拒否権なんてない。

でもミューはそんな僕の気配を感じて
パニックになっちゃってる。

「貴方にお仕置きなんてされたら、ミュー気が狂う」

ミューはお仕置きだけは何とか逃れたいと必死。
マゾのミューが喜ぶどころか本気でとち狂ってる。

「ミュー、貴方の事、本当に好きなの。
 だから貴方に苛められるの、やだあ」

うん?
本当に好きじゃない男にはお仕置きされてるのか?
多分ね。

僕はミューの口癖を思い出す。
『恋人はこんな事しちゃいけないの』

ミューは観念して布団の上に仰向けに横たわったものの
僕が片方の乳房を踏もうと足を上げただけで
『とんでもない!』って跳ね起きて
僕の下半身に突進して来る。

ミューのパニくり方。
ミューは一体どんなお仕置きを想像してるんだろう?

ミューは必死でお仕置きから逃れる方法を考えてる。
何とかしなきゃ、何とかしなきゃ。
そしてミューは答えを見つける。

ミューはあっと言う間に。
たっぷりとお仕置きされた後のミューになってしまう。

ミューのこの状態。
これじゃ、お仕置きなんて無意味。
きっとミューは僕が相手のときは
これからもこの手で来るに違いない。

僕の物の前にかしずいて、
ミューは盛んにミューの叩き売り。
ミューには自尊心も女の誇りもない。

ミューは覚悟を決めたのさ。
僕の軍門に下るって。

ミューはミューがどんなに僕の奴隷か
しきりに僕に見せたがってる。
ミューは心の底からそう振舞えてる自分が
うれしくてたまらなそう。

あああ、一番面白そうな所をやれなかった僕。
しかも、多分、これからもやれない。
ミューのこの反応じゃね。

僕に隷属する事をひたすら喜んでる女奴隷に
改めて何かを要求する気にもなれない。

ミューはうれしくてたまらない。
ミューは僕の物を口にしながら
これまで男達に言わされた中でも
一番過激な言葉を次々に口にしてるんだけど
僕達には似合わない。

その言葉たち、浅すぎて話にならない。
ミューもそれを感じてるんだけど、
ミューの辞書にはその手の種類の言葉しかない。

何と言ったら
自分の気持ちを正確に表現できるか分からずに
ミューが焦れて困ってる。

僕を自分の中に受け入れると
ミューはうれしくて、うれしくて。

「愛してる。ミュー、貴方を本当に愛してるの。
 貴方のがミューのご主人様なの。
 ミューご主人様なしじゃ生きていけない」

僕の下でうれしくてたまらなそうに
盛んに僕の物に忠誠を誓ってるミュー。

「そうか?
 じゃ、ご主人様に気絶しな」

ミューが驚いて大きな目。
一瞬、間があって、でも次の瞬間、
ミューは情熱を溢れさせて言われた仕事に取り掛かる。

ミューは自分から進んでご主人様に行かされて
ご主人様への忠誠を見せようとしてる。

僕は上から仕事に励んでるミューを眺めてる。

上手に仕事をこなして、「愛してる」の連呼の後、
うれしくてたまらなそうに失神したミュー。

意識を取り戻したミューを見て僕は驚く。
ミューの気持ち良さそうな姿、半端じゃない。
快感の最上級の具現形。

「お前、そんなに気持ちいいのか?」

思わず僕は聞いてしまう。

「好き。愛してる。好き。大好き」

ミューが手を広げて僕に甘える。
僕は気持ちよさそのものになって蕩けてる
ミューを抱きしめると、行きにかかる。

ミューが一度行ったら行ってあげないと
ミューは訳が分からなくなってしまう。

ミューはミューの上で行きにかかってる僕が大好き。

「うれしい、うれしい。愛してる。愛してる。
 出して、一杯、出して」

ミューの快感は僕が予想できない多彩な表情を持ってる。
その一つ一つに出会う度に、僕は驚き、感動する。

-117-

横に降りた僕にうれしさ一杯で飛び掛るミュー。
ミューには言いたい思いが一杯ある。

なんせミューはとうとう覚悟を決めて、
今、それを実践したんだから。
ミューはもう今までのミューじゃない。

生き生きして、みずみずしいフルーツの様に
ジューシーに僕に甘えかかってるミュー。
僕はミューの手を取ると下で僕のを握らせる。

「ミュー、すぐ抱く」

「あっ、はい」

これからたっぷり甘えたいミューは
予想外の展開に驚いてる。

ミューは喋るのを止めて仕事をこなしながら、
何か言いたそうな素朴な表情でじっと僕を見つめてる。

とうとう、ミューが聞く。

「ねえ、ミューが馬鹿だから教えるの?
 ミューは貴方のには絶対、逆らえないって」

不安そうなミュー。

「うん」

ミューは僕の返事がかなりショック。

「いいよ。
 ミュー、馬鹿だから」

小さな声で切なそうに言うとミューは俯いて黙ってしまう。
ミューは仕事をしながらしきりに何か考えてる。

僕はお馬鹿だからミューの真実が分かってない。
ミューは僕にされると本当に幸せになっちゃう。

それをミューはずっと悩んでた。
もしかしたら、自分がなくなっちゃうって事。
それでも構わないかって、
ミューがやっと決意したのに僕のこの態度。

ずっと何かを考えてたミューが不意にオーラの色を変えて
明るく僕に甘えかかる。
男ったらしのミューの面目躍如。

「ねっ、ねっ。結婚したら貴方、私の主人でしょ?
 ミュー、主人が二人も出来ちゃった。
 へんなの?」

ミューは何とか僕に救って欲しい。
ミューは本当に
僕の物に無抵抗に喜んじゃう自分を感じて困ってる。

ミューは僕に救う気なんてないのが分かる。
『そんなあ』
どうしていいか分からないミュー。

「もしも、貴方とこれの意見が違っちゃったら
 ミュー、どっちの言う事をきけはいいのかな?」

未だ、救いを期待してるミュー。

「決まってるだろ?
 これの言う事」

僕は腰を動かしてミューの手の中の僕を振る。
ミューの中で何かが切れる。
ミューはふあふあした可愛い恋人のミューから
つまり僕の瞳の中のミューから
地に足の着いたどっしりしたお姉さんのミューに変わる。

「あんたって本物の悪ね。
 なんだかんだ言いながら、
 女の子をこれの奴隷にしちゃうんだから」

ミューはちょっと憮然としてる。

憮然としながら黙って僕のを扱いてたミューは
それを口にしたくなって、

「さっ、ご主人様にご奉仕しなくちゃ」

ミューは捨て鉢に言うけど、愛情はこもってる。
ミューの体が流れるように下に沈んでく。

ミューが発したその言葉の響きの中に
僕は色々な景色を見てる。

僕がまるで他の男たちみたいだと言う非難げな響き。
でも、やはり僕はそうじゃないって言う肯定の響き。

下で情熱的に仕事に励んでるミューの声が聞こえる。

「貴方、ミューを抱きたくなったら呼んでね」

ミューはご主人様が愛おしくてたまらなそう。
ミューは水入らずの一対一で心行くまで
ご主人様と付き合いたくなってる。
だから僕の事なんかに気を使うのが面倒。

ミューの思いがたっぷりこもってるから
僕は密度の濃い快感の海の中。
夏の夕暮れ、金色に輝く豊饒な海。

とうとう我慢できずに僕はミューを呼ぶ。
二人で仲むつまじい所を本当にすまないんだけれど。

僕がミューに乗っていざ入り込もうとすると
も一度ミューが僕に聞く。

「ミューの体にご主人様の味を覚えこますの?」

未だ僕に救って欲しいミュー。
ううん、そうじゃないな。
僕が無理やり向こう側に連れて行くのじゃなきゃ
駄目なんだ。きっと。

「うん、ミューはご主人様に可愛がられて
 気絶させられるのさ」

ミューの望みがプチンと切れる。
拗ねてべそをかいてるミュー。
でも、僕のは優しくミューに入り込む。

拗ねてべそをかいてるミュー。
僕は上からミューを眺めてる。

僕はミューを刺激しないようにしてる。
僕がその気で動いたら
ミューは一瞬でレッドゾーンに突入しちゃう。
それじゃつまらない。

ミューは体を動かすまいとしてる。
でも、とても切なそう。

「ミュー、ご主人様が言ってるよ。
 とても可愛い女奴隷だって」

ミューはなんとか耐えようと必死。
横を向いて、唇噛んで、シーツ握り締めて。

「ミュー、ご主人様がね、
 この女奴隷のここ、たまらないって」

ミューは頑張ってるけど、
踏ん張りきれないのはミューが一番分かってる。
それがなんとも辛そう。

「さて、可愛い女奴隷に何してもらおうかな?
 取り合えず、可愛い声で鳴いてもらおうかな?」

そう言いながら僕は布団の上に投げ出されてる
ミューの両手を上から押さえる。

驚いてミューの下半身が動いてしまう。
そうなったらミューにはもうどうすることも出来ない。
たまらずお尻を激しく振った瞬間、
ミューが驚きの声を上げる。

「ああっ、行っちゃう。
 貴方、行っちゃう。
 一緒に行く。一緒に行く」

って、無理だって。

一緒に行くと二、三度繰り返して、無理だと分かると
ミューは愛してると叫んで行ってしまう。

僕の中の変態のすけべえ親父が
もっと楽しみたかったのにってひどく残念がってる。

意識を取り戻したミューは
当然、僕がすぐに行ってくれると信じてる。

アインシュタインの理論のような二人。
僕に取ったら瞬きするような時間でも
ミューにしたらとても長く感じられてる。

抱かれた後のミューは
幸せ一杯のオーラを次から次に溢れさせてる。
ミューのオーラに包まれてると
僕達の体に境界はなくなって
僕達はひとつの体に収まってる。

ミューがずっと恐れてたのは
僕に抱かれるとミューは幸せ一杯になっちゃうって事。

ミューに理性がなくなって、
僕がとても好もしく感じられちゃうって事。

でも、ミューは決めた。
それで構わないって。

-118-

ロイがミューの前で泣いてる。

「泣かないでロイ。貴方の綺麗な顔がだいなしよ。
 私、貴方と婚約する何ヶ月も前に
 別の人と婚約してたの。

 昨日の事なら幾ら私でも覚えてられるんだけど
 何ヶ月も前の事なら、忘れてても仕方ないわ」

「君って女の子は・・・」

「あら、じゃ、貴方は三ヶ月前の第三月曜日、
 夕食に何を食べたか思い出せる?」

ロイが必死に思い出そうとしてる。

ミューは思い出されちゃ面倒だと

「それに結婚したら貴方は私に腹を立てるわ。
 淫乱女。
 売女。
 男の玩具。
 皆、口に出して言わないだけ。
 心の中じゃそう思ってる。

 貴方は私を軽蔑の目で見て言うの。
 『こんな女だとは思わなかった』

 あら、でも、それはお互い様。
 私もこんな女だとは思わなかったもの。

 ねえ、ロイ。
 爺さんが貴方を陰の国王に決めたわ。
 すぐに貴方はこの国を統治しなくちゃならないの。
 凛々しく、気高く。

 貴方はこの国にビジョンを与えないとならないわ。
 ロイ、大きな知性を見せて、私をしびれさせて。  
 そして、私なんて眼中にないって振舞って。

 そしたら私、我慢できなくなっちゃう」

暫く、天を仰いでからロイは吹っ切る。

「お前を必ず僕の前に跪かせてやる。
 その時は覚悟しとくんだな」

ロイは椅子から立ち上がると、
堂々とした後姿でフロアの海に消えていく。

格好いいね。
ミューの男達は皆、格好いい。 
あっ、僕を除いてね。

ミューは僕の横にやってくると、
僕に乗りかかるようにそこに座る。    

「だらしない女でごめんね」

ミューは今のロイのダンディさに
思わず濡れちゃった事を言ってる。

「君を選んだ時点で
 世界中の男がライバルなのは分かってる。
 僕の仕事はもっともっと僕が魅力的になる事」

「やめてね、そんな事。
 今でも十分すぎるわ」

それは僕じゃなくて、君のご主人様だろ?

ニコと恭子がやって来て
そろそろ支度をする時間だと告げる。

「今日は社会正義と公共心について語るの。
 あのライオンヘヤーの馬鹿総理のお陰で
 この国の言葉はすっかり、いい加減で
 無責任で、人を食べるようになっちゃってるから」

立ち上がりながらミューが僕に説明してくれる。
うん、美しい胸とウエストとヒップのライン。

ミューが僕に微笑む。

「あんた、それしか考えられないのね」

「僕の精神を責めちゃいけないよ。
 僕は只の『夢ミュー病患者』なだけさ」

---

爺さんからの再三のお誘い。
爺さんは僕を影のブレーンに参加させたいらしい。

うん、気乗りしない。
参加したって、
爺さんは僕からミューのあれこれを聞き出したいだけ。
会議って暇だから。

世間じゃ政治屋たちの粛清が始まってる。
政治屋と官僚と小役人たち。

よくもまあ揃いも揃って利権にたかって
国民の税金を食い物にして来た事。

逮捕される者。
食い物にした金の返済を迫られる者。

ネオナチが台頭して、それは即座に潰されたけど
変わりにワーキング・プアの若者達で作られた
突撃隊が幅を利かせてる。 

取引所の力は日々、強大になってる。
今や取引所は政治の上に君臨し、
経済の上に君臨し、芸術の上に君臨してる。

誰もが爺さんの考えを聞きにやって来る。
爺さんにお伺いを立てた上じゃないと何事も始まらない。

世間じゃ爺さんはゼウスのように受け入れられてる。
爺さんを鼻であしらう事ができるのは
ブラッディ・マリーだけ。

だから爺さんが色よく思わない計画は
ブラッディ・マリーの所に持ち込まれる。

ブラッディ・マリーの聡明な頭脳と並外れた勝負勘は
この国の将来に多大な功績を残すだろうと
国民達は期待してる。

芸術家のリューはこの国に品格を与えてくれるだろう。
博愛主義者のミューはこの国に優しさを与えてくれる。

この国の昨日までの堕落が嘘のよう。
何時までも堕落してそうなのは、今や僕だけ。

-119-

通りを歩いてると突撃隊の連中の横暴が目に余る。
でも、こんなもん。

爺さんはやりたいようにやらせてる。
跳ねるだけ跳ねさせて用が済んだら皆殺し。

歴史を知らない馬鹿たちに明日はない。

マスコミや評論家達は我が世の春とかしましい。
何時の世でもむなしい奴等。
如何にも真実らしい言葉を吐くけど
決して真実は語れない人間達。

先生と琴美は相変わらず。
世の中がどんなに変わろうとも、二人は多分、気づかない。

僕は久しぶりに長い白い壁に寄りかかって日向ぼっこ。
太陽の光に抱かれてるとまるでミューに抱かれてるよう。

それが恋人が居る暮らし。

ここからでも巨大スクリーンは見える。
アナベルの姿が映ってる。

『幾つもの山を越えて、幾つもの谷を渡り・・・』

『ブラッデイマー! ブラッディマー!」

何万もの群集が熱狂して叫んでる。
群集の熱気に失神するもの、産気づくもの。

デジャヴ。

いつの間にか先生と琴美が隣に来てる。
僕達はサングラス越しに微笑みあう。

琴美はぐっと色っぽくなってる。
もう川を挟んだ向こう側の共同浴場から裸で飛び出して
千切れる程に手を振るなんて真似は出来ない。

先生は妖艶さを増してる。
とてもミューには見せられない。
ミューに理屈は通用しないから。

♪ジョ・ジョ・ウアズ・ア・マン
♪フー・ソウト・ヒー・ワズ・ア・ルナ

先生と琴美が壁に託した体を振って歌ってる。

春を惜しんで一日歩いたところで、
春の去る速度は変わらない。
でも、惜しまなくても、
春の去る速度は待ってはくれない。

くれないの小さき鳥の形して、春は散るなり橋なき水に。

♪ゲット・バック、ゲット・バック

抱きしめて、抱きしめてこそ、泣くべかりけり。

「ドリームさん、貴方は何処にもいけないの。
 私達が時間と空間を否定しちゃうから」

僕と先生はサングラス越しに見詰め合って微笑む。
丁度この瞬間、琴美の馬は新潟の未勝利戦を勝利してる。

---

ミューがイエロー・カードを出す事はもうない。
抱かれる前に拗ねてべそをかくのは相変わらずだけど。

僕の中の変態のすけべえ親父は大喜びで
時にはミューを泣かせたりしてる。

やがてミューの心が安定して
ミューがべそをかかなくなるのは分かってる。
楽しめるうちに楽しまないと損。

ミューは僕とのセックスに
今までのセックスとは違う面を見つけ出してる。

うっとりする快感の中で、
ミューは幼児返りしたりしてる。

「ミュー、いい顔は?」

ミューは遠い記憶の中で、心からいい顔をしてる。

ミューの一番好きな言葉は、
何かいい物を貰ったとき、幼児が褒められるときの言葉。

「ああ、いいね、ミュー、うれしいね。
 大好きなもの入れて貰って、ミュー、うれしいね」

ミューは幼児の本当にうれしい時の顔。

でも、これ、ヤバイ。
こんな風に声をかけられると
ミューはたちまち行っちゃう。
おかげで僕も付き合わされる羽目になる。

で、ミューは何かと言うと、
そう声をかけてくれと言うから僕は悩ましい。

今までの男達に取ってミューは征服すべき対象。
だってさ、ミューと付き合うと回りは敵だらけ。
思い知らせとかないといけない。
ミューはそんなセックスしか知らない。

眠ってるようなセックス。声も上げず体も動かさず。

上からそんなミューを見てると、
あの鳴き声や激しく振りたてられる腰は
一体何なんだろうって考えてしまう。

あっ、とも言わずミューは失神する。
意識を取り戻したミューが両手を広げて甘える。

「ああん、行っちゃった」

ミューにはわかってない。
今まで自分がどんな風に振舞ってたのか。
嵐のように激しいのと、波一つない水面のようなのと
ミューには同じものとして感じられてるのが不思議。

-120-

「貴方が白馬に乗った王子様だったら良かったのに」

おい、おい、おい、おい。

「何で女の子が白馬に乗った王子様に憧れるのか
 ミュー、良く分かる」

今頃分かる事かい?

それにミューにしたらそんな物
憧れの対象にはならないと思うんだけど。

王子様、居るだろう、その辺に一杯。
アラブの辺りなんかに。

ミューがちょっと秋波を送れば
発情しない男なんていない。
ミューにしたら、この世の男はよりどりみどり。

「貴方が白馬に乗った王子様で、私をさらってくの。
 そして、貴方のお城に私を閉じ込めるの。

 そしてね、夜になると私の部屋にやって来て
 嫌がる私を無理やり。

 他の男は嫌よ。貴方よ。

 私は必死に抵抗するんだけど、所詮、女の力でしょ?
 とうとう・・・。

 でも、こうなったら絶対感じまいって
 私、歯を食いしばって必死に頑張るんだけど
 貴方に無理やり感じさせられて、貴方に征服されて。

 そして、私は貴方にかしずいちゃうの。
 恥ずかしいけど、どうにもならないの。

 で、又、次の日の夜・・・」

ミュー、そのファンタジー、一つ欠点がある。

『こうなったら絶対感じまいって・・・』
ここ、無理だと思う。

気持ちは分かるけど・・・。

ミューには僕に無理やりされたいって願望がある。
ミューにしたら強烈で切実な願望なんだけど、
おいそれとは乗れない。

なんせ相手はミュー。
そんな事して、何が飛び出してくるか分からない。

それにミューは、僕は他の男たちと違ってどんな事でも
ミューの嫌がることは絶対しないって心から喜んでる。

でもさ、お嬢さん。貴方が誘ってるんですよ。
男達がそうするように。

気づかなかったら思いっきり冷められそうな
甘く可愛い、「あうんの呼吸」のリクエストに誘われて
望み通りに一杯喜ばせてあげて
挙句、腹を立てられたんじゃ立つ瀬がない。

うん、でも、それがミュー。
何時も心を裸にしてないと簡単に見誤る。

ミューは芸術的に値動きを読む。
一方僕は、芸術的にミューを読む。
おお。何か、格好いいかも。

何時か僕は優しくミューの髪の毛を撫でてた。
突然、僕は強い感情にかられて、ミューの髪の毛を掴むと
それを力任せに後ろに引いてしまった。

ミューの顔がのけぞってる。
ミューは無抵抗で素直な顔をしてる。

僕は力を止められずにさらに強く引いてしまう。
ミューはされるがまま。

僕は不味いと思いながら自制できない。
ミューの髪が千切れそう。
ミューはされるがまま。ミューの顔に微笑が浮かんでる。

ようやく僕に理性が戻り、僕は愛しくてたまらず
ミューの頭をふんわりと胸に抱きしめる。

「今、僕が何を考えてたか分かる?」

「私の事が可愛くてたまらない」

「どうして分かるの?」

「それ以外の理由であんたがあんな事しないよ」

その癖、ミューは
僕に強烈に犯されたいって願望を持ってる。

だからミューと上手くやってくのは結構難しい。
西瓜に塩を振るようなもの。
ミューが西瓜なら簡単なんだけど。


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